詩人の推敲

2012-08-16 16:07:07 | 塾あれこれ
夏になると諸般の事情から読書量が減りますね。

読みさしをパラパラめくるのですが進みません。

近頃は昔買った全集を引っ張り出して拾い読みなども
しています。
しかしそれでも「食欲」がイマイチ。


先日ゴ-ヤーのことについて投稿した際に
山之口獏の全集をチェックしました。
出しっぱなしにして、いまそれを拾い読みしています。

彼は遅筆、寡作でも有名ですが、一つの作品になるまで
多くの推敲を重ねるのだと書いています。

実例を挙げている部分が勉強になりますので
ちょっと引用させていただきます。

昭和15年に出版した『山之口獏詩集』に要した年月を
収録した詩の数で割ると、4ケ月に一篇という計算だとか。

推敲の実例も挙げておられます。

『玄関』という詩は原稿用紙1枚の詩ですが
129枚かけて書きなおし最終稿になったのだそうです。
その中でも途中での頂点というべきものをそのまま載せ
これからン枚かけて次のコレとなり・・・と
推敲の実際を示しています。

例として6回の変遷を書いておられます。
それぞれの移り変わりが興味深く、かつ勉強になります。
ここでは最後の5回めと6回目を書きうつしましょう。
(叱られるかな?
本来縦書きのものを横にして写します、スミマセン。)

「呼び鈴の音にうながされて
 あわてゝ玄関に出てみると
 あるばいとなんですがと云ふわけなのだ
 お金がないのでは見るのもいやなので
 まあ間に合つてゐますと断ると
 ひとつでもいゝんですが
 買ってくださいなのだ
 またにして下さいとたのんでみると
 見るだけだつて見て下さいなので
 口を噤んで首だけを横に振つたのだ
 かれは風呂敷包を小脇にかゝへなほして
 玄関を見廻してゐたのだが
 こんな檜づくりの大きな家に住んでゐて
 ひとつぽつちも買はないなんて法が
 あるもんですかと吐き出したのだ
 それではまるでぼくの家みたいで
 お世話になんかなつてはゐないみたいで
 お金のない筈がないみたいで
 いかにももつてのほかみたいだ。」

この詩を新聞社に渡したのだそうですが
それでもやはり気に入らずもう一度推敲しています。

本当はすべてを写すべきですが
五行目の「断ると」に「、」をつけ
それ以外は最後の4行の修正だけですので、推敲後の
締めくくりの4行を書きます。

「(・・・吐き出したのだ)

 いかにもぼくの家みたいだ
 お世話になんかはなつてもゐないみたいに
 お金があつてのないふりみたいで
 まるでもつての外みたいだ。」

これで詩が出来あがったのですがこの約130枚を
一日平均5枚、約一か月かかっていると書かれています。

本に書いてある詩の途中を、答えを見ずに自分で推敲して
みるのも勉強になるのではありませんか。
詩人には大いに叱られそうですが。

そして実はこの後に更に手を加えて最終の作品が
出来あがっているのです。
しつこい?

ところが最終稿が劇的に良いのですね。

どれほど良いかはご自分でお調べください。
我々とはレベルが違う推敲が見られます。

最終の作品をマル写ししてはいけませんしね。


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