弟よ 人間の死にはさまざまあるが 流失する血液を うつろなわが目でたしかめつつ死ぬのではなく
洗面器に吐いた血は すばやくきみの目から とおざける おふくろがいて 頭髪は抜けおちれば 鏡をひたかくし たとえ医者も看護婦も 薬もなくても うち割られ くされてゆく片足を よっぴて 抱きしめてくれる おふくろが いたのだから 炎の下を這いながら目撃した 一瞬に消え去る死と 家屋の下で 焼き殺される死の そのどれでもない おふくろの両腕の中できみは死ねたのだから
弟よ 少年といってよいか 青年とよんでいいのか 18才のきみのからだが 小学校の校庭に たとえまぐろのように積みあげられ 石油をかけて 焼かれたとしても けっしてきみはひとりぼっちではなかったのだから きみとしっかりおりかさなっているのは 妹のような可愛いおかっぱの児 昔話をしたらとまらなくなる 働き者のとなりのじいさん 世話ずきで陽気だったおかみさん きみの手をつかんではなさない男の児 おっぱいの香りもうせぬあかんぼたち みんなみんなきみと一緒なんだから まして悲しみと怒りにみちたたかぶりにかこまれて きみは炎になったのだから 四国五郎詩画集 母子像より
写真4枚のはがきを頂き、右上のハガキより 弟直登さんの肖像画も添えられている。
洗面器に吐いた血は すばやくきみの目から とおざける おふくろがいて 頭髪は抜けおちれば 鏡をひたかくし たとえ医者も看護婦も 薬もなくても うち割られ くされてゆく片足を よっぴて 抱きしめてくれる おふくろが いたのだから 炎の下を這いながら目撃した 一瞬に消え去る死と 家屋の下で 焼き殺される死の そのどれでもない おふくろの両腕の中できみは死ねたのだから
弟よ 少年といってよいか 青年とよんでいいのか 18才のきみのからだが 小学校の校庭に たとえまぐろのように積みあげられ 石油をかけて 焼かれたとしても けっしてきみはひとりぼっちではなかったのだから きみとしっかりおりかさなっているのは 妹のような可愛いおかっぱの児 昔話をしたらとまらなくなる 働き者のとなりのじいさん 世話ずきで陽気だったおかみさん きみの手をつかんではなさない男の児 おっぱいの香りもうせぬあかんぼたち みんなみんなきみと一緒なんだから まして悲しみと怒りにみちたたかぶりにかこまれて きみは炎になったのだから 四国五郎詩画集 母子像より
写真4枚のはがきを頂き、右上のハガキより 弟直登さんの肖像画も添えられている。