十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

2012-01-31 | Weblog
藷を掘る畑一枚の賑やかに    坂口ちか子

毎年、畑一面に藷を作っているのだろう。
日頃静かな藷畑も、収穫時となれば、子どもたちも大勢、
加わって、とても賑やかになるのだ。
「畑一枚」という具象が一句のポイントとなって、
秋晴の空の下、藷の収穫ならではの楽しさが伝わってきた。
「阿蘇」2月号〈雑詠〉より抄出。(Midori
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冬耕

2012-01-30 | Weblog
火の山のふところ深く冬耕す   井芹眞一郎

世界でも有数のカルデラと雄大な外輪山を持ち、
熊本県のシンボル的な存在として親しまれている火の山、
阿蘇。その火の山を眼前にして、冬耕する作者の喜びが、
「ふところ深く」に、込められていて、大きな感動が伝わってきた。
「阿蘇」2月号〈雑詠〉より抄出。(Midori)

青春

2012-01-29 | Weblog
マフラーをしても青春かへらざる    岩岡中正

「青春」という、美しくも危うい、どこかこそばゆい言葉。
真っ只中にあれば、意識することもなく過ぎ去ってしまうもの・・・。
心の道のりを辿りながら、「青春かへらざる」という作者だが、
この作品の青春性は、少しも失われてはいない。
「阿蘇」2月号〈近詠〉より抄出。(Midori)

木の葉髪

2012-01-29 | Weblog
木の葉髪わが強情の抜け落ちし    小林篤子

すっかり抜け落ちてしまったのかと、ちょっと心配したが、
抜け落ちたのは、「わが強情」だけだった。
でも、まだきっとどこかに「強情」が残っているような気がする。
加齢とともに、丸くなると言っても、譲れないことってあるから。
「鶴」所属。「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

滝涸る

2012-01-27 | Weblog
滝涸れて少し仏になりすます   北見弟花

滝が涸れると、岩肌のゴツゴツ感が出てくるのか、
確かに、磨崖仏めくのかもしれないが、
「少し仏になりすます」の滝の擬人化が面白い。
「樹氷」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

芙蓉

2012-01-26 | Weblog
白といふ色に疲れて酔芙蓉    上遠野三惠

朝咲いたときには、真つ白な花の色が、昼にはピンク色に、
そして夕方には紅色に変ることから、酔芙蓉の名があるが、
「白といふ色に疲れて」という、作者独自の感覚がユニーク。
白色の潔白、純真、清潔、正義といったイメージが、
時に、疲れさせるのだろうか。
「滝」1月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

薄氷

2012-01-25 | Weblog
薄氷にとどまる月の光かな    中山 杏

手に取れば、すぐに壊れてしまいそうな薄氷に、
月の光が反射して輝いている。
とどまる月の光もまた、自ら発光することはない、
太陽の光を反射している光だと思えば、
その存在が、一層愛おしいものに思えてしまう。
繊細で美しい作品に心惹かれた。
「滝」1月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

一葉忌

2012-01-24 | Weblog
布を裁つ音のかたさや一葉忌    遠藤玲子

布を裁つ音は、日常の生活の音として、それ程珍しくはなかったが、
今では、あのジョギジョギという鋏の音に懐かしささえ覚えてしまう。
その、布を裁つ音に「かたさ」を感じた作者。近代以降では最初の女流
職業作家として名をのこした一葉だが、貧しい生活が彼女を文筆活動へ
と駆り立てたことも事実だ。「布を裁つ音のかたさ」に、一葉が生きた時代、
そして彼女の生き方が、即物的に語られ、象徴性の高い作品となった。
「滝」1月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

冬銀河

2012-01-23 | Weblog
冬銀河大海原と揺れ交す   相馬カツオ

夜空に横たわる冬銀河は、銀色に輝く大河のイメージ。
そして、地球上には漆黒の大海原が広がっている。
現実の世界が、幻想の世界へと昇華して、
スケールの大きなロマンと詩情を与えてくれた。
「滝」1月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

雪女郎

2012-01-22 | Weblog
雪女郎去る片頬の擦過傷     菅原鬨也

雪女郎は、大雪の夜などに現れるという、雪国の伝説にのこる雪の精。
しかし、雪女郎と雪女とでは、少しイメージが異なる。雪女は、妖しくも
どこか儚げで、白い衣を着た姿はまさに雪の精とも思えるが、雪女郎は
人を誘惑する魔性も合わせ持っているようだ。さて、擦過傷は、いつの間
にか付けていることも多いが、雪女郎が片頬に残していったものだとすると、
生々しい雪女郎の存在が気になってしまう。
「滝」1月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

鎌鼬

2012-01-20 | Weblog
これはまだ幼い鎌鼬だろう     月野ぽぽな

鼬は、ネコ目イタチ科の哺乳類の総称だが、
鎌鼬は、イタチの一種でなく、身体にもたらす不思議な現象。。
しかし、こんな鼬がいるという想定で詠むのはとても楽しい。
「俳句」1月号〈新鋭作家競詠7句〉より抄出。(Midori)

探梅

2012-01-19 | Weblog
探梅や机の上をそのままに   藤井あかり

机の上の「日常」から、一時だけ離れて、
「探梅」という春へ向かう気持。
対照的な取り合わせが絶妙に響き合って、
開放感のある作品となった。
「俳句」1月号〈新鋭作家競詠7句〉より抄出。(Midori)

初写真

2012-01-18 | Weblog
一門に恋の沙汰あり初写真    小川軽舟

恋は、一門が栄えるための必要条件。
一門の賑やかな初写真に、作者の笑顔も加わって、
新年の華やかな気分がいっぱいに溢れている。
「一門」と「恋の沙汰」の端正な言葉使いもとてもいい。
「俳句」1月号〈新年詠12句〉より抄出。(Midori)

冬桜

2012-01-17 | Weblog
風は電力ふゆのさくらのいつつほど    鳥居真理子

「風は電力」で切れているから、やはり風力によって発電する電気のことだろうか?
曖昧な表現とも思えるが、風は、「ふゆのさくらのいつつほど」を咲かせる、
電力を持っている、という作者の感覚がとてもいい。
先日見かけた冬桜も、ぽつぽつと寂しく咲いていたけれど、
私もこんな風に感じたかった。
「俳句」1月号〈新年詠12句〉より抄出。(Midori)

初御空

2012-01-16 | Weblog
初御空見えざるものを怖れたり    鍵和田秞子

「見えざるもの」を生産しているのは、私たち人間。
経済成長や生活水準の向上は、環境ホルモンという負の財産を生みだした。
ましてや原発事故によって飛散した放射能の恐怖は想像を絶する。
初御空という、手を合わせたくなるほどの清新なものに向かえば、
「見えざるもの」の存在は、哀しみに等しい。
「未来図」主宰。「俳句」1月号〈新年詠8句〉より抄出。(Midori)