十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

落葉

2009-02-28 | Weblog
落葉舞ひ空青々と回転す     佐久間和子
                            「阿蘇」3月号 <雑詠>
熊本城の一角にある監物台樹木園は、二千種を超える樹木が植えられて
いた。その日は風の冷たい日だったが、冬青空が特に印象的な日だった。
さて掲句、作者を軸にして空が回転するという逆転の発想に、宇宙空間と
の一体感を覚える。そして「落葉」に自然の造化の輪廻の不思議を思った。

2009-02-27 | Weblog
一舟の春へ向けたる舳先かな     岩岡中正
                                 「阿蘇」3月号 〈近詠〉
2月8日、日本伝統俳句協会熊本県部会吟行会が、天草で行われた。
「すべての存在は全部繋がっている。それを称えて詠むことが花鳥諷詠の
世界です」とは、記念講演のひとコマだが、早春の海、一舟の存在が
フォーカスされた。舳先は春へと向けられたというロマン溢れる詩情・・・。
「阿蘇」主宰の限りない詩精神が春へと向けられているのを感じた。(Midori)

春の夜

2009-02-26 | Weblog
春の夜の開脚ワインオープナー     菊田一平                          

我が家のワインオープナーは何の変哲もない、Tの字型のものだが、
いろんなワインオープナーがあるようだ。栓抜にも同じように趣向を凝らした
ものがあるが、メーカーの遊び心はこんなところにも発揮されているらしい。
春の夜のなんとも悩ましいワインオープナーが、ちょっと気にかかる。
句集 「百物語」より、抄出した。(Midori)

水温む

2009-02-25 | Weblog
これよりは恋や事業や水温む    高浜虚子

「人生何があるかわかりませんね。」とは、還暦で結婚し定年退職を迎えた
ある女性の言葉だった。それまでずっと独身を通していた彼女だったが、その
日の彼女はとても輝いて見えた。さて掲句、「卒業生諸君へ」と詠まれた句だ
が、恋や事業に年齢は関係ないと思う。何かと不景気な世の中、「これよりは」
もっと景気よくパーと行きたいものだ。(Midori)

剪定

2009-02-24 | Weblog
熊本県の有明海に浮かぶ天草には何度か観光とレジャーで訪れた。
キリシタン殉教の島として哀しい歴史を持つが、美しい海と新鮮な魚介類は最
高のもてなしだった。このほど、この天草出身の小山薫同の脚本「おくりびと」
がアカデミー賞外国語映画賞を受賞した。山形県が舞台で遺体を柩に納める
「納棺師」の姿を描いた感動の作だが、その原点は「天草」だという。

剪定や島に波音もどりたる    みどり

魚氷に上る

2009-02-23 | Weblog
我家から道路を隔てた向こうには、まだ荒涼とした田んぼが広がっているが、
中央を流れる墨摺川には五位鷺が大きな羽音を立てているし、鴨の4匹も
仲良く泳いでいる。川を越えれば山が取り囲み、福岡県との県境になっている。
つまりは、大自然に囲まれた恵まれた環境だと言えそうだ。
虚子の花鳥諷詠の世界がここに広がっているのを実感する・・・

魚は氷にのぼり月影したたらす   平川みどり

春浅し

2009-02-22 | Weblog
調律師来てゐる隣春浅し    山下接穂
                          句集 「耕」ーこうー
毎年、この頃になると決まってお隣に調律師がやって来るのだろう。
いつもとは違う鍵盤を鳴らす音に、春の訪れを感じている作者なのだ。
音叉と聴覚だけが頼りの調律に、「春浅し」の季感が伝わってきた。
何より、「調律師来てゐる隣」という飾らない表現が、この作品に大きな
詩情を与えている。作者は、八代市在住。「ホトトギス」同人、「阿蘇」会員。

紙雛

2009-02-21 | Weblog
紙雛にうすうす降りる夜のとばり     岩岡中正
                                  句集 「春雪」
雛人形は宮中の天上人の平安装束を模してつくられているが、
なかでも和紙で折られた一対の紙雛は、繊細で美しいものだ。
やがて、男雛と女雛に夜のとばりがうすうすと降りてくる・・・
紙雛の質感を充分に伝えながら、どこか艶めいた夜の帳である。
第一句集「春雪」は、岩岡氏の50代の10年間の作品が収められている。

2009-02-20 | Weblog
鎌倉は男日和や梅白く   森 敏子
                        句集 「薔薇枕」
鎌倉というと、やはり源頼朝、鎌倉幕府、武家社会とイメージが広がってゆく。
明らかに平安の王朝時代とは違う、質実剛健といわれた男の文化があった。
「男日和」とはそんな日和だろうか?真白い梅が対照的に置かれ、穏やかな鎌倉の
ひと日を想像した。作者の父方の祖は鎌倉幕府最後の執権の側近、北条篤時で
あったとか。また、エッセイ『あなたに褒められたくて』の作者、高倉健は兄である。
福岡県在住、「白桃」同人。(Midori)

山茶花

2009-02-19 | Weblog
山茶花や山の茶房にカレー喰ふ    上遠野三惠
                                 「滝」2月号<滝集>
「オイと声を掛けたが返事が無い。軒下から奥をのぞくと・・・」とは、漱石の『草枕』
の一節だが、熊本の小天の峠の茶屋をモデルに書かれたものだ。先日、はじめて
ここを訪れたが近くには、やはり真っ赤な山茶花が今を盛りに咲いていた。
さて掲句、山茶花と茶房とカレーが、一句の中に絶妙なバランスで配置されている。
きっと山で食べるカレーライスは、格別美味しかったに違いない。作者は宮城県在住。(Mi)

漱石忌

2009-02-18 | Weblog
根岸まで団子を買ひに漱石忌     佐藤憲一
                                「滝」2月号<滝集>
根岸といえば、かつて正岡子規の病室兼書斎だった「子規庵」のある場所だ。
子規に、最も文学的影響を受けたといわれる漱石は、当時イギリス留学中だった。
しかし、漱石の帰国は子規の最後には間に合わなかったという。
さて掲句、漱石を偲んでいる句なのだが、そういえば鳥越碧の著作、『漱石の妻』に、
金之助は甘いものが大好きだったと書いてあったのを思い出した。

雪女郎

2009-02-17 | Weblog
室町通六条下ル雪女郎   加川則雄
                        「滝」2月号<滝集>
室町通は京都市の南北の通りの一つで、足利三代将軍義満が、「花の御所」と
讃えられた豪奢な室町殿を室町通に造営したため、室町幕府の名前の由来となる。
学生時代、冬休みを利用して京都を訪れたことがあるが、冬の京都はとても寒かった。
あまりの寒さに、喫茶店に逃げ込んでばかりいたことを思い出す。
さて掲句、「六条下ル」の、雪女郎の足跡をたどるような構図に想像が膨らむ。
雪女郎の時代めいた響きに何かが起こりそうな気がした。(Midori)

返り咲き

2009-02-16 | Weblog
手術せし目にたんぽぽの返り咲き    栗田昌子
                                  「滝」2月号<滝集>
やっと眼帯も取れて、目にするものは何でも新鮮に映ることだろう。
手術前はきっと人には言えない大きな不安もあったのではないだろうか。
そんなことも今では嘘のように、小春日和に心を弾ませている作者だ。
俳句で「花」といえば桜を指し、「返り花」の本意は桜であるが、
この作品に、たんぽぽの明るさはなくてはならないように思う。
「目にたんぽぽの返り咲き」に作者の喜びと感動が伝わってきた。(Midori)

三島忌

2009-02-15 | Weblog
三島忌の真水の如き言葉かな    西村 薫
                               「滝」2月号<滝集>
三島由紀夫というと、「仮面の告白」などの耽美的な作風を特徴とする小説家だ。
また、憂国の士であり、やむなく割腹自殺を遂げる。その原因は、彼の強い美意識
の表れとも言える「老い」への恐れ、あるいは英雄的自己犠牲への憧れだとも言わ
れているが定かではない。掲句、三島忌を「真水の如き」と例えたのは作者の感性だ。
比喩俳句に詩情を与えることはとても難しいが、「真水の如き言葉」に、美しい詩情と
三島への鎮魂の思いを深くした。(Midori)

冬木の芽

2009-02-14 | Weblog
冬木の芽ふいに少女の走り出す   堀籠政彦
                               「滝」2月号<滝集>
多感な少女時代、ほんの些細なことで喜んだり悲しんだり・・・、そして両親に
意味もなく反抗して困らせていたことを思い出す。移り行く季節にも敏感だった
そんな時代もいつの間にか収束の時が来ていた。さて掲句、心弾むものでも
見つけたのか、それとも何かをふと思い出したのか、少女がふいに走り出したのだ。
「冬木の芽」に、少女を見守る作者の温かいまなざしを感じた。(Midori)