十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

巣立鳥

2012-07-31 | Weblog
滑空のつづく静寂巣立鳥    赤間白石

いつか必ず巣立つ日が来る雛たちだが、
その日が、何時なのかは誰にもわからない。しかし、
その日は、いつもとは違う特別な日。「静寂」は、
巣立ちを見守る大自然であり、親鳥のまなざしだ。
「滝」8月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

夕焼

2012-07-30 | Weblog
命螺子締めて夕焼にあひにゆく    石母田星人

3.11の大震災では、想像を絶するような経験をされているが、
「命螺子締めて」という思いは、裏を返せば、「命螺子が緩みがち」
ということでもある。夕焼は、その時の記憶かもしれないし、あるいは、
幼い頃の思い出かもしれない。どちらにしても、「あひにゆく」という、
能動的な行動は、ようやく心の回復期を迎えたと解したい。
「滝」8月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

海月

2012-07-29 | Weblog
わだつみの吐息の如き海月かな
でで虫や雨に濡れたる水平線
心経や眼閉ぢゐる青蛙
雨の夜のタオルにつつむ洗ひ髪   平川みどり

*「滝」8月号〈滝集〉に掲載

蝉時雨

2012-07-28 | Weblog
蟬時雨出羽をめぐりし杖の減り   菅原鬨也

いまだ行ったことのない土地への憧れは、大きく膨らんで行くが、出羽は、芭蕉も『奥の細道』の中で、多くの名句を残している東北の一国だ。そして、蝉時雨といえば、藤沢周平の小説に出てくる「海坂藩」を思い出す。出羽をめぐる作者の思いは、また別のところにあるのかもしれないが、「杖の減り」は、即物的なものだけでなく、時の経過まで感じさせてしまう。歴史的なものを提示しながら、「杖の減り」の現実への着地は鮮やか。
「滝」8月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

水中花

2012-07-27 | Weblog
新妻の無為の時間や水中花    大輪靖宏

ふっと訪れる無為の時間は誰でもあるものだが、
それが新妻だと、ちょっと危険な匂いがする。
意識する程でもなかった無為の時間が、いつか膨らんで、
やがて、耐えられない孤独感と寂寥感に変わる時・・・。
「水中花」が、危険をはらむ孤独な側面を映し出している。
2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

日焼

2012-07-26 | Weblog
日本代表日焼子の憧れは     山根真矢

日焼子の憧れ、夢は、日本代表。いろんな世界大会がある中で、
4年ごとに行われるオリンピック日本代表は、何といっても最高の誇りだ。
いよいよ、第30回ロンドンオリンピックが、明日7月27日に開幕する。
かつての日焼子が、日本代表となるまでの長く厳しい道のり・・・。
「憧れ」が勝利への原動力なって、彼らをここまで導いてきた。
「俳句」7月号より抄出。(Midori)

青林檎

2012-07-24 | Weblog
青林檎持つてロフトに上がりけり    高柳克弘

ロフトは、生活空間の一部にあって、癒しの「私だけの空間」だ。
ロフトに持って上がれるものは、何でも、という訳にはゆかない。
そこで、作者が選んだものは青春性の高い青林檎だった。
「俳句」7月号より抄出。(Midori
)

天道虫

2012-07-23 | Weblog
天道虫くるりと茎をすすみけり    山西雅子

つるりとした茎を、ぽろりと滑り落ちるのかと思えば、
くるりと茎をすすんでゆく天道虫。
「すすみけり」の平明な言葉を得て、一句となった。
「俳句」7月号より抄出。(Midori
)

夕立

2012-07-22 | Weblog
夕立の片隅に空の明るさ    山本素竹

たちまち曇ったかと思うと、急に激しい雨、
時には雷が伴うこともある夕立。
しかし、夕立になっても、空は決して明るさを失わない。
「片隅の空の明るき夕立かな」とすると、夕立の説明になってしまう。
やっぱり、掲句の写生徹底に作者の感動がある。
「俳句」7月号より抄出。(Midori
)

酸漿市

2012-07-20 | Weblog
夫婦らし酸漿市の戻りらし   高浜虚子

虚子の推測は、おそらく間違ってはいなかっただろう。
「らし」が二つも続く推測。虚子の視線はちょっと羨ましげだ。
そう言えば、虚子先生の奥様ってどんな人だったのだろう。
「ホトトギス新歳時記」より抄出。(Midori
)

トマト

2012-07-19 | Weblog
トマト冷やす静けさエンドロールの長さ    藤野 武

エンドロールとは、映画の終わりに表示される、製作者、監督、
小道具係などの名前を列挙した一覧のことだが、個人的には、
映画の余韻に浸っていられるので、どちらかというと長い方が好き。
長編であればあるほどエンドロールは長くなる。さて、昼間だろうか?
何かが終わって、何かがはじまる物憂い感じが良かった。
2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

青鷺

2012-07-18 | Weblog
青鷺や櫓のひとこぎに身を託し   小川濤美子

先日、水前寺の江津湖で、青鷺が飛び立つ瞬間を見たくて、
じっと見ていたけど、いくら待っても動かない。ちょっと、
その場を離れて再び戻った時には、青鷺の姿はなかった。
舟に揺られるままに身を託せば、青鷺とも解り合えるかも・・・
2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

植田

2012-07-17 | Weblog
植田に映ゆ雲は相馬へ流れをり    鈴木三山

宮城県南部の田園都市にお住いの作者。
一面の植田に映える茜雲が、ゆっくりと流れている・・・。
それは、この上もなく美しく、穏やかな景色であるに違いない。
「相馬」という固有名詞が詩情を深めているにも関わらず、
時が時、どうしても理不尽な思いに駆られてしまう。
「滝」7月号〈滝集〉より抄出。(Midori
)

五月雨

2012-07-16 | Weblog
五月雨やルンバの腰のありどころ    阿部花代

社交ダンスは、難しいステップが苦手という人も多いかもしれないが、
今では、体育の選択教科の一つにもなっている健康的なスポーツだ。
さてルンバは、ピンと伸びた背筋と軽やかなステップがポイントだが、
意外にも「腰のありどころ」が肝要だという。五月雨の音をバックに、
しなやかにルンバを踊る作者に想像が膨らんだ。
「滝」7月号〈滝集〉より抄出。(Midori
)