十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

2010-11-30 | Weblog
   隠れ里とは柿の実もよきかたち    岩岡中正

隠れ里は、民話や伝説に見られるような山間の理想郷のような所だろうか。
点々と散在する民家は藁葺屋根で、庭には柿の実がたわわに実っていたりする。
それは、電波などとは無縁の長閑な日本の原風景だ。
澄み切った空気と、太陽の光をたっぷりと浴びた柿の実は、
きっと、「よきかたち」であるに違いない。
「阿蘇」主宰。「阿蘇」12月号より抄出。(Midori)

落葉

2010-11-29 | Weblog
  落葉やみしばらくそらのさざなみある   宇井十間

落葉が降り続くのを見上げていると、まるで空から降ってくるかのようだ。
落葉が止んで、「しばらくそらのさざなみある」と感じた作者。
落葉の余韻が、空のさざなみを誘発するかのようだ。
自分の中の「落葉」のイメージを払拭しなければ、詩は生まれないと痛感した。
句集『千年紀』に所収。「俳句」12月号より抄出。(Midori)

冬眠

2010-11-28 | Weblog
  冬眠の熊冬眠の熊の爪    菅原鬨也

「冬眠の熊」に、それほどの恐怖も脅威も感じられないが、
「冬眠の熊の爪」となると、どうだろうか?
冬眠から覚めたときの「熊の爪」を想像すると、
冬眠中といっても、眠っている野性にふっと恐怖を感じてしまう。
「熊の爪」にフォーカスされた省略の効いた静謐な作品。
「滝」主宰。第5句集『曲炎』より抄出。(Midori)

2010-11-27 | Weblog
   自転車の灯りの内も外も雪    山口優夢

自転車のライトに照らし出された箇所が「内」、それ以外は、すべて「外」。
この「内」と「外」の境界線は、いつもあやふやで、「内」になったり、
「外」になったり。自転車のハンドルを持つ両手が微妙だからだ。
「内も外も雪」とは言っても、灯りの「内と外」では、雪の質感は随分違う。
「俳句」12月号、角川俳句賞受賞第一作21句より抄出。(Midori)

短日

2010-11-26 | Weblog
素うどんにくもる眼鏡や日短か   奥名春江

日没が早くなり、急に寒さも増してくると、
なにかしら侘しさを感じるものだ。
それが、「短日」というものだろうか。
「素うどん」に日常の温もりを、そして「くもった眼鏡」に、
理由のない侘しさが感じられた。
「俳句」12月号、扉作品5句より抄出。(Midori)

焼酎

2010-11-25 | Weblog
  澄み切つて芋焼酎や月に酌む    岸本尚毅

芋で出来ているはずなのに、どうしてこんなに透明なの?
と、思っていたのは、私だけではなかったようだ。
ロマンと野趣に富む、「月に酌む」、
作者の詩精神が行き届いているのを感じた。
「俳句」12月号「特別作品12句」より抄出。(Midori)

冬籠

2010-11-24 | Weblog
  多情ゆゑ多病を抱へ冬籠る    福永法弘

多情であれば、多病だとは限らないが、
多病が多情のせいだとしたら、それは自業自得だ。
多情な作者が「冬籠る」とは、随分ストイックな話だが、
少しも深刻でないところが、救われる。
「天為」所属。「俳句」平成22年2月号より抄出。(Midori)

枯蓮

2010-11-23 | Weblog
    枯蓮の朽ちゆくひかりとどめをり    市村究一郎

朽ちてゆくのは、枯蓮でなくて「ひかり」だった。
枯蓮が失いかけている「ひかり」は、のこされた最後の生命の輝きかもしれない。
枯蓮のとどめる「ひかり」に、信仰にも似た心の安寧が感じられたのは、
光とはおよそ無縁と思われる枯蓮だったからだろうか・・・
「カリヨン」主宰。2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

三十三才

2010-11-22 | Weblog
  休日の夫の勉強三十三才    津川絵里子

平日はもちろん、休日までも勉強をしている夫・・・
勤勉な夫を頼もしく思っている反面、本当は、寂しい作者なのだ。
小学生のするような「勉強」という言葉に、作者の疎外された寂しさが感じられた。
三十三才は、日本で最も小さな鳥の一つ、夫への小さな小さな反逆だろうか?
「俳句」平成22年1月号より抄出。(Midori)

十一月

2010-11-20 | Weblog
    あいまいに十一月も過ぎむとす    今井千鶴子

11月は、私の誕生月でもあり、決してあいまいには過ごしたくないのだけど、
11月は、晩秋でもあり、初冬でもあり、俳人以外はみんな秋だと思っている。
やがて来る12月は、極月・・・。
ぐずぐずと11月を引きずっていたいのが本音だ。
2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

2010-11-19 | Weblog
   地は霜に世は欲望にかがやける   小川軽舟

放射冷却でよく晴れた朝、太陽の光にきらきら輝く霜は眩いばかりだ。
そして、もうひとつ輝けるものに、「欲望」があった。
それぞれの欲望が輝くとき、それぞれの未来が輝きはじめる。
対句表現は安易に陥りやすいと聞くが、「霜」と「欲望」の取り合わせに、
意表を突かれる思いがした。
2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori) 

オーバー

2010-11-18 | Weblog
  やはり来て良かつた私オーバー脱ぐ   前田野生子

「やはり行く」と決めるまでの心の迷い、「行く」と決めてからの不安・・・。
でも、それはすべて杞憂に終わったようだ。
「私オーバー脱ぐ」の、きっぱりとした断定に、
今までの不安感はどこに行ったの?と茶化したくなるような、
作者の心の解放感がうれしい。
「かつらぎ」所属。「俳句」平成22年3月号より抄出。(Midori)

霜柱

2010-11-17 | Weblog
    霜柱いかに神殿造りとて    中原道夫

神殿造りは、平安時代の貴族の住宅の建築様式だが、
どこか、クリスタルな響きがするのは、その音によるものだろうか?
さて、霜柱の並んだ建物は、まさに小さな小さな神殿とも言える。
「霜柱」を建築資材に見立てた作者の感性が楽しい。
句集「緑廊」に所収。「俳句」平成22年5月号より抄出。(Midori)

根深汁

2010-11-16 | Weblog
  体内の数値の乱れ根深汁    森田智子

体内の数値は、年齢とともに少しずつ上昇してゆく。
それは、過食もあるかもしれないが、運動不足やストレスも大きな原因の一つだ。
「根深汁」という、その名を聞いただけで、何だか体の芯から、
ぽかぽかと温まってくるような気がする。体内の数値の乱れは生活の乱れ・・・
今夜のメニューは、薄味の根菜類たっぷりの根深汁ではいかが?

2010-11-15 | Weblog
  まなこ閉ぢ嚏の仕度してをりぬ    齋藤朝比古

静かに目を閉じて、黙想をしているのかと思えば、
嚏の仕度をしていたとは、あまりのギャップが可笑しい。
急に黙ってしまったと思うと、突然の大きな嚏に驚かされることもある。
嚏の仕度だけで終わる不首尾な嚏もあるようだが、
「嚏」はどんな人にも、平等に起こる可笑しな生理現象の一つだ。
角川学芸出版「平成秀句選集」より抄出。(Midori)