十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

滑莧

2014-09-30 | Weblog
滑莧食みて戦勝疑はず    松村葉子

先日、再放送されていた木村拓哉主演の「PRICELESS〜」は、人情味溢れる痛快コメディだったが、二人の少年が、滑莧を摘んで来てその日の惣菜にするシーンが忘れられない。それまで滑莧が食べられる植物だということを知らなかったからだが、これはドラマであり、フィクションである。しかし実際に、滑莧が戦時中の食糧難を凌ぐ食料であったとは・・・。情報も管制下にあれば、銃後のものはただ戦勝を信じることが生きる力となったものだろうか。「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)

露けし

2014-09-29 | Weblog
露けさにみな旅人となりにけり     岩岡中正

旅人といえば、西行、芭蕉、そして山頭火と、時代を渡って著名な歌人俳人は多い。それぞれに旅の目的は違っていたかもしれないが、日本の自然や風土に触れることは、旅の大きな目的の一つでもあったことだろう。秋は、誰もが詩人となれる季節。メディアが伝える世の無常から一時離れて、旅に出れば、小さな自然の営みや土地に生きる人々の暮らしに、しばし心癒されることだろう。「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)

青林檎

2014-09-28 | Weblog
青林檎天使の歯型ありにけり
鏡には映らぬこころ夜の薔薇
太陽の出ぬ間に曲がる胡瓜かな
くちなはや泣きだしさうな空のいろ    みどり


*「阿蘇」10月号、岩岡中正主宰選

【選評】
「青林檎」がいかにも初々しく、「天使の歯型」が、かわいい。
青林檎をかじっている様まで見えるように詠まれており、
作者の眼差があたたか。

コスモス

2014-09-27 | Weblog
コスモスの繚乱馬の碑を囲む     菅原鬨也

東北で馬と言えば、南部馬。かつて武将と共に戦場を駆け抜けた名馬であるが、その真価を問われることもないまま絶滅したと言われる。「馬の碑」を詠んだ作品でありながら、ここに広がる映像は、美しい鬣を靡かせ戦場を駆ける名馬の姿である。「コスモスの繚乱」という戦場を彷彿とさせる措辞によって、在りし日の南部馬の誇り高い姿を蘇らせている。句集『琥珀』より抄出。(Midori)

蜻蛉

2014-09-26 | Weblog
とんぼうの影水の上草の上     深見けん二

中空を飛び交っているたくさんの蜻蛉がいるかと思うと、水辺にじっと佇んでいる蜻蛉もいる。掲句は、後者の蜻蛉である。「水の上草の上」の措辞から感受されるものは、世の喧騒から遠く離れた静寂と清涼感である。蜻蛉のしじまを壊さない作者のまなざしが優しい。句集『菫濃く』より抄出。(Midori)

衣被

2014-09-25 | Weblog
ふるさとはいとこにはとこ衣被     岩岡中正

祖母を中心に、いとこ、はとこと血縁は何親等にも広がって、
親族の気安さは、故郷ならではのこと。
「衣被」が、いかにも故郷の味わい深くしている。
句集『春雪』より抄出。(Midori)

流星

2014-09-25 | Weblog
大空の清艶にして流れ星    高浜虚子

昭和30年9月27日掲載の句。虚子晩年の句であるが、
その心は、この日の夜空のようにますます清艶。
第4版『虚子俳話』より抄出。(Midori)

地虫鳴く

2014-09-23 | Weblog
省みて我に非のあり地虫鳴く     三村純也

相手の非ばかりを責め、自分にはどこにも非はないと思う初段階、
やがて、省みる余裕が出てくると、そうではなかったことにふと気づく。
しかし、「我に非のあり」とはなかなか言えないもの。
「地虫鳴く」がしみじみとした内省の情感を出している。
角川書店発行『必携季寄せ』より抄出。(Midori)

登高

2014-09-22 | Weblog
高きに登る日月星辰皆西へ     高浜虚子

もともとは、中国の古俗で、重陽の節句に、茱萸を入れた袋を持って、高い丘へ登ることで厄を祓ったとされるが、今では、丘や山などにハイキング気分で登ることも含めた詠み方でも良さそうだ。さて、掲句。昭和30年10月9日掲載句である。「日月星辰皆西へ」と、天体の当たり前の運行を言ったまでではあるが、高きに登った虚子を中心とした天動説さながら、大虚子らしいスケールの大きさに圧倒される。第4版『虚子俳話』より抄出。(Midori)

竜田姫

2014-09-21 | Weblog
朝もやの滝に髪すく竜田姫    外崎光秋 

朝靄の中の神域、
滝に髪を梳くのは、竜田姫。
幻想的な世界に、いっとき魅了される。
「滝」9月号より抄出。(Midori)   

芭蕉

2014-09-20 | Weblog
玉解きて若き王者のごと芭蕉    松村葉子

「玉」を解けば若き「王」のごと、という「玉」と「王」の視覚的なイメージが先行し、理屈抜きに納得させられる句であるが、青芭蕉の瑞々しさは、いかにも若き王者のものである。芭蕉といえば、俳聖、芭蕉にも通じて、若き芭蕉をも想起させられ、「王者のごと」という大胆な比喩表現が魅力的な作品である。「阿蘇」9月号より抄出。(Midori)

空似

2014-09-18 | Weblog
ふりむけば他人の空似七変化     江藤明美

すれ違いざまに、はっと思う人に出会うと、どうしても振り向かずには居られない。この世にいるはずのない母であったり、旧友であったり、突然の出会いは、ほとんどが他人の空似。「七変化」が配されて、楽しい一句となっているが、どこか達観した作者がいる。「阿蘇」9月号より抄出。(Midori)

カラー

2014-09-17 | Weblog
省くだけ省き一茎カラー咲く    つのだともこ

カラーを叙するのに、「省く」という言葉が使われようとは、思いもしないことである。省くだけ省いたのは自然の造化であり、省かれて究極の一径となったのがカラーなのだ。俳句が省略の文芸だとしたら、カラーは省略の造化の美といえようか。「阿蘇」9月号より抄出。(Midori)

紫苑

2014-09-16 | Weblog
本の紫苑倒るヽ庭の情     高浜虚子

本来、「情」などないはずのものに、「情」を感じたのは、
「庭」ではなくて、虚子本人。
第4版『虚子俳話』より抄出。(Midori)

松島

2014-09-15 | Weblog
9月13・14日、宮城県松島町において開催された日本伝統俳句協会第25回俳句大会に参加してきました。貸切バスの車窓から見る東松島の沿岸部では、瓦礫はすっかり撤去されていたものの、秋草の茂る住居跡は津波の凄まじさを物語っていました。生活の場所はどこにもなく、あるのはただ、クレーン車が時折行き交う無機質な空間だけでした。バスの中で地元誌友が伝える災害の模様は、私の想像をはるかに超えていました。前夜祭では、九州支部から北海道支部、そして最後に今年担当の東北支部の紹介など、楽しいひと時は瞬く間に終わり、翌日、本大会で、出句された作品の大半は被災地への思いを句にしたものでした。東北支部の皆さま、大変お世話になりました☆(Midori)

鎮魂の海はありけり星月夜    みどり