十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

牡丹

2010-06-30 | Weblog
  ぼうたんの朝の気品の濡れてをり    山下接穂

花の美しさを讃える言葉は、女性を讃える言葉に似ている。
牡丹の美しさは、何と言ってもその凛とした佇まいだろうか。
朝露に光る牡丹の花は、また格別な美しさを誇っていたに違いない。
「阿蘇」7月号より抄出。(Midori)


種袋

2010-06-29 | Weblog
   封切れば風の出てきし種袋   井芹眞一郎

まるで袋の中の種が、誰かの手によって封を切られるのを、
じっと待っていたかのようだ。そして、やっとその日が来たのだ。
風に乗ってどこまでも飛んで行ってしまいそうな種たち・・・
突然の風に少し戸惑いも感じている作者かもしれないが、
開放感いっぱいの作品に楽しい想像が膨らんだ。
「阿蘇」7月号より抄出。(Midori)
 

万緑

2010-06-28 | Weblog
  万緑の山ふところのカノン砲   岩岡中正

「万緑」から「カノン砲」まで、「の」によって焦点が絞られてゆく。
万緑の大自然の中に置かれた、一基のカノン砲・・・、カノン砲は、
人間の叡智によって作り出された、長い射程距離を持つ武器だ。
それは、どうにも変えようのない歴史が指し示した一つの意志だったに違いない。
感傷を許さない客観的な描写に、一層の人間の哀しみが感じられた。
「阿蘇」主宰。「阿蘇」7月号より抄出。(Midori)


西日

2010-06-27 | Weblog
西日受く切られし髪の真中に座し     相子智恵

美容師に委ねた髪は、少しのためらいもなくカットされてゆく。
カットされた髪の毛は、落ちるに任せて椅子の周りに散らばっている。
太陽が西に大きく傾きはじめる頃、髪は意図していた髪型とは、
ちょっと違う形で出来上がるのだ。鏡の中の「私」を含めて、
どこか自嘲の思いもありそうだ。昨年、角川賞受賞作品より。
「俳句」平成21年11月号より抄出。(Midori)

バナナ

2010-06-26 | Weblog
丑三つの厨のバナナ曲るなり    坊城俊樹

丑三つは、およそ午前2時から2時半、
「草木も眠る丑三つ時」に、厨のバナナが曲るという。
眠れぬ夏の夜、キッチンのバナナが曲るのを見てみたい・・・
「平成秀句選集」より抄出。(Midori)


夏休み

2010-06-25 | Weblog
琉球を抱きしめにゆく夏休み    中川優香

6月23日は、沖縄忌だった。
かつて琉球王国と呼ばれた沖縄、
過去の哀しみ、そして今を、ただ抱きしめにゆこうとする、
一人の少女のひたむきな思いに感動した。
昨年、第12回俳句甲子園最優秀作品。熊本県立菊池高校。


かき氷

2010-06-24 | Weblog
   めいめいに卓を濡らしてかき氷   仁平 勝

慎重に、スプーンに掬っているつもりなのに、どうしても零してしまう。
そして、氷は、やがて溶けて、ただの色水に化してしまう。
「卓を濡らして」の、いかにも自らの意志によって濡らしたかのような、
言葉の使い方がとても上手いなと思う。客観的な描写もどこか可笑しい。
2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)


初鰹

2010-06-23 | Weblog
 御僧は説かず娶らず初鰹     清水基吉

「説かず娶らず」と、否定形がリズムよく並んでいるが、
説かないことも、娶らないことも、この僧侶のとっては、
特別なことではなく、ごく普通のことなのだろう。
「初鰹」に、御僧への親しみと敬慕の思いが感じられた。
「平成秀句選集」より抄出。(Midori)


夏鶯

2010-06-22 | Weblog
   居居居なつうぐひすや去去去    馬場龍吉

オノマトペは、カタカナあるいは平仮名で表記されることが多いが、
ここでは漢字表記だ。夏鶯が「居居居」と居て、「去去去」と飛び去ったと、
想像するのも又楽しい。漢字の国、中国ではどんな風に聞こえるのだろうか?
もしかしたら、「居居居」「去去去」と鳴くかもしれない。
「蒐syuu」編集・発行。「平成秀句選集」より抄出。(Midori) 
 

南風

2010-06-21 | Weblog
小説家、村上由香の作品というだけで、買ってきた文庫本は、
〈僕が死んだら、その灰をサハラにまいてくれないか〉ではじまる物語だった。
僕、周(アマネ)の遺灰を携えた周の姉、ゲイのフランス人、周の幼友達の、
サハラへの旅は、モロッコのイスラム文化に触れる旅だったが、
それぞれの愛の形を模索する旅でもあった。(Midori)


ÉROSといふ紅茶のラベル大南風   平川みどり

トマト

2010-06-20 | Weblog
通り魔と会ふ完熟のトマトかな   星野昌彦

通り道に、真っ赤に熟れたトマトが生っていたとしたら、
思わず捥いでしまいたい衝動に駆られるかもしれない。
昔だったら、それでも許されていたかもしれないが、
今では、立派なハンザイだろうか?
「景象」主宰。「平成秀句選集」より抄出。(Midori)


薔薇

2010-06-19 | Weblog
  サド全集積めば古塔や薔薇の晝   馬場駿吉

「サド」といえば、サディズムの語源となった、フランスの小説家、
サド侯爵だ。「古塔」は、まるで古城のようでもあるし、
「薔薇の晝」は、中世のフランスを象徴しているかのようだ。
サド侯爵を彷彿とさせる演出がとても上手い。
角川学芸出版「平成秀句選集」より抄出。(Midori)


蚊遣香

2010-06-18 | Weblog
  ゆゆゆゆと烟崩るる蚊遣香   本井 英

蚊取線香も昔懐かしい昭和のグッズになってしまったが、
今もどこかで、「ゆゆゆゆと」烟をあげているのだろうか?
「烟」の表記に、どこかアラビアン・ナイトの世界が感じられた。
「夏潮」主宰。2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)


熱帯魚

2010-06-17 | Weblog
    熱帯魚残る人生遊びなさい     嶋田一歩

「遊びなさい」と言われても、遊びにもいろいろだ。
もともと遊びは、誰かに教わるものでもなく、マニュアルなどある訳でもない。
水槽の中の世界だけでなく、もっと広い海へ泳ぎ出ることができたら、
また新しい人生が開けそうだ。遊び上手は生き上手、になれるかも?
「ホトトギス」同人。「平成秀句選集」より抄出。(Midori)


甚平

2010-06-16 | Weblog
甚平やおつしやることの御尤も   角 光雄

「御尤も」と言いながら、それほど納得している訳ではなさそうだ。
「でも・・・」と、つい反論してみたくなるのは、まだ、
人生を諦めていない証拠かもしれない。亀の甲より年の功、
年長者の言には、「経験」という確かな生活体験がある。
「あじろ」主宰。「平成秀句選集」より抄出。(Midori)