十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

村上ワールド

2017-04-30 | Weblog
 村上春樹の『騎士団長殺し』を読み終えた。題名からは想像もできない内容だったが、やはり一種のファンタジー。現実と非現実がどこかでリンクしている設定は、いかにも村上春樹ワールド。情景描写というより、人物描写の方に重点が置かれて、個性的な人物像が浮かび上がる。しかし彼らは、誰も現実的でなく、真実を明かされることはない。終盤、主人公の妻、ユズの言葉に、「もしそうであれば、それはなかなか素敵な仮説だと思うわ」がある。現実とか真実よりも、「仮説」で生きる「私」という主人公に、どこか共感を覚えた。
 主人公の「私」には、村上春樹の息遣いが感じられるし、頻繁に出てくる、「特に・・・」という台詞には、彼の何かに固執しない性格の表れではないかと思われる。「かもしれない」の多用にも、さまざまな「仮設」の提示なのだと思われた。(Midori)


本は、町の図書館に予約し、2週間の貸出期間だったので、このところ読書が私の生活の最優先課題でした。

きのふけふ

2017-04-28 | Weblog
梅の香に座せば過ぎゆくきのふけふ
ハライソへ架かる大橋花菜風
爪痕のやうな残月冴返る
涅槃会や樹間に哭ける風の音


*「阿蘇」5月号、岩岡中正選

 「阿蘇」5月号が届きました。3月に詠んだこれらの作品に、月日の早さを感じます。
先日訪れた野見山朱鳥展で、「写生とは物来りて我が中に入る」という書がありました。私の中に、「物」が来るという感覚をいつか得たいものです。(Midori)

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野見山朱鳥

2017-04-26 | Weblog
 今年、4月30日で生誕100年となる福岡県直方市出身の俳人、野見山朱鳥の作品展に行ってきました。第一句集『曼珠沙華』から、第6句集『愁絶』までの句集の展示を始め、油彩、水彩、墨彩、版画、書、俳句短冊など、朱鳥の芸術世界を堪能することができ、生誕100年に、直方を訪れることのできた幸運を思ったことでした。
 多賀公園の高台には、朱鳥の句碑「火を投げし如くに雲や朴の花」と、ひふみ夫人の「落葉霏々この光陰を埋めつくす」の句碑が並んで建立され、新緑の中、鶯が鳴き交わしていました。
 1999年2版発行の『野見山朱鳥句集』は、知人から頂いたものですが、ひふみ夫人が編んだもので、74ページの文庫版です。早速手に取り読み返すと、また違った感動に出会うことができました。(Midori)

   愁絶のひかり放てる残花かな
    

メタファー

2017-04-22 | Weblog
村上春樹の『騎士団長殺し』、「第二部 還ろうメタファー編」を読んでいます。主人公は36歳の無名の画家。朝は、トースト2枚に、卵を焼いて、トマトのサラダ、そして豆から挽いたコーヒ―にはじまります。気に入った古典音楽をレコードで聴いて・・・。きっと、村上春樹のライフスタイルと同じなのでしょう。(Midori)

2017-04-21 | Weblog
村上春樹の『騎士団長殺し』の「第一部顕れるイデア編」を読み終えた。タイトルからは想像もできない物語の展開には、やはり彼らしいファンタジーの世界があった。主人公は、トヨタカローラの中古のワゴンが、自分に相応だと思っている肖像画を描く画家である。複雑に絡まる物語ではあるが、彼の作品に共通して見られるものに、クラシック音楽があり、上質で清潔な生活空間がある。(Midori)

   岩陰にひらく磯巾着の夢

2017-04-19 | Weblog
しづけさや雪の重さに目覚めたり     渡辺民子

福島在住の作者である。雪の降った朝は、行き交う車の音もなく、しんとした静けさに、いつもとは違う気配を感じるものだ。しかし、ここでは「雪の重さに目覚めたり」である。豪雪地帯ではないと思われるが、屋根に積もった雪の重さは、作者の身にも重たく感じられるものなのだろう。それは物理的な「重さ」ではないことだけは確かだ。「滝」4月号〈滝集〉より抄出。(Midori)
   

2017-04-18 | Weblog
灯をよぎる雪やモルトの香に二人     佐々木博子

写生の効いたムーディーな句に、作者名を見て、合点した。俳句の構図や発想、言葉の斡旋に独自性が感じられたからだ。さて、窓ガラス越しに、二つの景が、立ち上がってくるが、どちらも琥珀色。統一された色調の中、外と内との温度差に、ドラマティックな時間の経過を感じさせる。「滝」4月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

2017-04-17 | Weblog
うぐひすや堆肥に足せるバクテリア    加藤信子

はたと目が止まった句である。菜園のための土づくりをしていると思われるが、「堆肥に足せるバクテリア」という具体性が何とも新鮮。俳句は、特定しなければ一人称の文芸である。鶯の鳴く豊かな自然の中で、土に親しむ作者の息遣いが聞こえてきそうな作品ではないだろうか。また季語の斡旋が、一句に視覚的聴覚的広がりを与えていることは言うまでもない。「滝」4月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

落花

2017-04-15 | Weblog
熊本城が見下ろせる会場まで、「阿蘇」の本部例会に行って来ました。熊本地震から一年、熊本城はいまだ立入禁止ですが、多くの観光客で賑わっていました。城内へ続く桜並木は、すでに落花の時を迎え、何かしら淋しい景でしたが、桜の季節が遅れた分、すでに新緑がはじまり、初夏のような陽気でした。(Midori)

  飛花落花地震に歪みし時空かな   

春寒し

2017-04-14 | Weblog
春寒し犬の首輪に鋲あまた    成田一子

言われてみれば、確かに犬の首輪には、たくさんの鋲が施されている。もともとは、闘犬や猟犬の身を守るための防具であったらしいが、今ではほとんど装飾である。犬の身になって見れば、首輪も、あまたの鋲もない方がいいのかもしれない。そんな作者の思いが、「春寒し」であるのだろう。何より「犬の首輪の鋲あまた」という発見の一句である。「滝」4月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

クローバー

2017-04-13 | Weblog
かげろふの中を歩める犀の角
かな文字の便りのやうに春しぐれ
来し方を埋め尽くしたるクローバー
まなうらの極彩色となる朝寝


*「滝」4月号〈滝集〉成田一子選 

白い花が咲く前のクローバーの群生は、ずっと見ていても飽きない色です。今がちょうど最も美しい時です。(Midori)



落花

2017-04-12 | Weblog

車で5分のところにある大津山公園に行ってきました。山の裾野の桜は満開で、少しの風にも落花が降りしきり、遊歩道を美しく染め上げていました。これまでにない最高の桜を堪能してきました。(Midori)

  花散るやうすくれなゐの風の水脈


2017-04-10 | Weblog
寒梅や閂かたき閻魔堂
せせらぎの光ふふめる氷柱かな
純白の修羅となりたる鶴の舞
悴める心解るる言葉かな


*「阿蘇」4月号、当季雑詠選者、山下しげ人選

【選評】 
 寒梅も閻魔堂も強く人を拒み寄せ付けない厳しさがある。それを具体的に物語っているのが「閂」である。一句全体が具えている「硬さ」は句の内容だけでなく、くり返し用いられているカ行のリズムからも伝わってくる。(しげ人)

 俳誌「阿蘇」の投句は、主宰に5句と、二名交代制の雑詠選者に5句、合計10句となっています。どの選者も、伝統俳句であり、客観写生を基本理念とされています。そのような選者に、今月選評を戴いて、とても大きな励みになりました。(Midori)

水仙

2017-04-08 | Weblog
水仙の花の重さを風に見し     山下君子

物の「重さ」は、実際に手のひらに乗せてみて、その重さを実感しなければ知ることはできない。しかし、ここでは、「風に見し」と、視覚によって、「重さ」を見たことが、一句のポイントである。水仙の花が風に揺れる様を、視点を変えて、詩情豊かに捉えた作品である。「阿蘇」4月号より抄出。(Midori)

鉄鎖

2017-04-07 | Weblog
突堤に太き鉄鎖や寒夕焼     堀 伸子

「太き鉄鎖」が象徴的に物語る海や港の状況である。「寒夕焼」を配されていよいよ硬質な詩情は、まさに寒中の厳しさにも通じる。感情を交えない骨太の構図に、寒夕焼の茜色が印象的な一句である。「阿蘇」4月号より抄出。(Midori)