時計草 2012-05-31 | Weblog 曇る日は時を刻まず時計草 棚山波朗 時計に似たその花の形から、「時計草」と呼ばれるが、 時計草を詠むならば、やはりこう詠みたいもの。 「春耕」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)
空蝉 2012-05-30 | Weblog 空蝉の金色世界ひいふうみい 敷地あきら 空蝉の「金色世界」という異色な捉え方に対し、 「ひいふうみい」の庶民的な数え方のギャップに戸惑うが、 空蝉が何を物語ろうと、結局は、「ひいふうみい」と 数えられる運命だと実感する。 「俳句人」代表。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)
蟹 2012-05-29 | Weblog 蟹食べて抜きさしならぬ一言吐き 老川敏彦 蟹を食べたことと、抜きさしならぬ一言を吐いたことは、 何ら因果関係はないと思うが、蟹が泡吐くさまを思い出せば、 途端に窮地に立った作者のようで可笑しい。 「昴」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)
花菖蒲 2012-05-28 | Weblog 料亭の庭に皿にと花菖蒲 高井去私 花菖蒲が見ごろを迎えるこの季節、あちこちで花菖蒲まつりのイベントも 予定されているが、近くの料亭もこの時とばかりに観光客集めに大忙しだ。 料亭の大きなガラス窓越しに花菖蒲が満開を迎え、心づくしの会席料理には、 菖蒲の花が色を添えるのだろう。 2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)
若楓 2012-05-26 | Weblog 若楓光さはさはさはさはと 阿部誠文 やわらかな初夏の光と風に、 若楓は、さはさはさはさはと・・・ 「若楓」を言葉にすればそんな感じ。 2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)
サングラス 2012-05-25 | Weblog サングラス振り向く海を嵌めしまま 山縣樵二 ずっと背を向けて海を見ていたサングラスが振り向いた。 その目は見えないけれど、その目が見ていた海。 「海を嵌めしまま」の具象的表現が心憎い。 「多声」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)
万緑 2012-05-24 | Weblog 傘をたためば万緑の雨雫 岩岡中正 雨に濡れて一層鮮やかさを増している万緑の中を歩いて来た作者。 傘をたためば、たっぷりの雨雫が傘を伝わって滑り落ちたことだろう。 「万緑の雨雫」は、万緑の色に染まって弾けるような雨雫。 「阿蘇」主宰。第2句集「夏薊」より抄出。(Midori)
ほととぎす 2012-05-23 | Weblog 山城は山に還りぬほととぎす 藤田直子 山城・・・、それはたくさんの戦いの記憶。 しかし、山に還ればほととぎすの鳴く自然あふれる山。 「秋麗」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)
鱒 2012-05-21 | Weblog 深山の水音鱒を飼ひゐたり 庄子紀子 一読した時は、山深いところの養鱒場かと思ったが、 しばらくして、決してそうではないことがわかった。 鱒を飼っているのは人間ではなく、「深山の水音」だった。 美しい自然の中で育つ鱒の跳ねる音が聞こえてきそうだ。 「滝」5月号の〈滝集〉より抄出。(Midori)
立春 2012-05-20 | Weblog 朝刊の春立つ光広げけり 菅原 祥 新聞を広げることは、朝一番の楽しみであるが、 暗いニュースが多い中で、明るいニュースに出合うと、 ほっとさせられる。さて、ただ「朝刊を広げた」というだけであるが、 「春立つ光広げけり」として、詩に昇華した。 光は、立春の光であり、希望の光。 「滝」5月号の〈滝集〉より抄出。(Midori)
滝 2012-05-18 | Weblog 雲中に滝こだまする奥の院 宇野成子 奥の院は、本堂から離れた後方の山上にあって、深い信仰を 集めている場所だ。「雲中に滝こだまする」とあれば、奥の院が どれほど秘境の地にあって神聖な区域であるかがよくわかる。 「奥の院」という堂舎の名前が、存分に生かされて、幽玄の世界 が巧みに描かれてよかった。 「滝」5月号の表紙の句より。(Midori)
葱坊主 2012-05-17 | Weblog 昼過ぎの眠き潮騒葱坊主 菅原鬨也 潮騒は潮が差してくるときの波の音ではあるが、「潮騒」という言葉には、 ただそれだけでない抒情的な響きを合わせ持っているような気がする。 穏やかで、遙かなるものの音・・・とでも言えるだろうか。現代社会の 喧躁の中で、掲句のような甘美な時間を得ることは、とても難しくなって しまったが、「葱坊主」が絶妙に配されて、心地よい眠りに誘われそうだ。 「滝」主宰。「滝」5月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)
香水 2012-05-16 | Weblog 香水や一瞬揺らぐ身の悪魔 河野 薫 身の内にはいろいろな悪魔が棲んでいるが、 香水の香に一瞬揺らぐのは、主に男性だろうか。 香水は、もともと夏場の汗の匂いや体臭を消す ためのものだが、なぜか、香水には、傾城の 美女を連想させてしまう何かがあるようだ。 「あざみ」主宰。「俳句」5月号〈作品8句〉より抄出。