十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

夏の月

2010-09-30 | Weblog
   部屋ひとつ余す暮しや夏の月    齋藤朝比古

「部屋ひとつ余す暮し」は、「部屋ひとつ余る暮し」とは大きく違う。
部屋が余っているという訳ではなく、きちんと整えられた生活空間が、
いつも保たれていて、一部屋使わずにある、ということだ。
「夏の月」を見上げている作者に、静かな時間が流れているのを感じた。
「俳句」10月号、作品10句より抄出。(Midori)

向日葵

2010-09-29 | Weblog
   手首切りました向日葵咲きました   御中虫

手首を切ったことと、向日葵が咲いたことが、
全く同格に置かれている。まるでそれは、
手首を切ったことさえ忘れてしまったかのような呆気なさだ。
彼女のおなかの中には、エネルギーの発露を求めて止まない
何かがあるみたいだ。「俳句」10月号、
第3回芝不器男俳句新人賞受賞記念作品より抄出。(Midori)

蟷螂

2010-09-28 | Weblog
   蟷螂のすこし跳びたり翅みだす    相子智恵

「すこし跳びたり」は客観写生だが、「翅みだす」には主観が存在する。
二つの動詞のわずかな視点の違いが、この一句のポイントだが、
何より「翅みだす」のアンバランスな着地が妙に印象的だ。
「俳句」10月号「角川俳句賞作家の四季」より。(Midori)

台風

2010-09-27 | Weblog
      海上へ去る台風と偏頭痛    大部哲也

母は頭痛持ちだったので、よくノーシンを飲んでいたが、幸いにも私はそうではない。今に思えば、母の頭痛は天候に大きく左右されていたのかもしれない。サイボーグでもない限り、気圧の一つにも過敏であることは、それはそれで人間らしいということなのだろう・・・。
「俳句」10月号「結社賞作家競詠」より抄出。(Midori)

2010-09-26 | Weblog
  ひらけば地図に霧の流れて山国は   原 雅子

「地図」という質感の違うものに霧が流れる。
手元に広げた地図にうっすらと霧が流れれば、ちょっと不安にもなる。
不案内な山国で、地図を広げた時に実感する霧の存在・・・。
「梟」所属。「俳句」10月号より抄出。(Midori)

2010-09-25 | Weblog
  汗の腕置いて机や密着す   小澤 實

冷房の効いた部屋だとこういうことにはならないが、
机に置いた腕が、汗で机にぴったりと張り付く。
「密着す」という言葉は、充分に湿度の高さを感じさせるが、
どこか想定された生々しさがある。
「澤」主宰。『俳句』10月号「特別作品50句」より抄出。(Midori)


芒野

2010-09-24 | Weblog
  描きかけの芒野夫に余生なく   三串筆子

夫にのこされた時間は、もうどれ程もないのだろう。
きっと芒野の絵は、描きかけのまま遺されてしまうのかもしれない。
「夫に余生なく」に、作者の深い悲しみと優しさを感じた。
「阿蘇」所属。句集『芙蓉』より抄出。(Midori)

秋の蝶

2010-09-23 | Weblog
  秋の蝶ふんわり子どもかきまぜて  こしのゆみこ

「ふんわり・・・かきまぜて」というと、まるで、
スクランブルエッグでも作っているかのようだ。
子どもたちを軽くかわしながら、秋蝶がひらひらと舞っている。
ゆっくりと風に孕む子どもたちの服まで見えてくるようだ。
言葉の使い方の意外性が、かえって一句に信憑性をもたせている。
「豆の木」代表。「俳句」平成21年12月号より抄出。(Midori)

秋扇

2010-09-22 | Weblog
   待たさるる心隠せぬ秋扇   早間幸枝

約束の時間が来るまでの心弾む思いが、時間を過ぎれば不安に変わる。
何気なく装っているつもりでも、心の不安はどこかに出てしまう。
扇を取出して、その不安を誤魔化そうとしても、心は隠せない。
日本伝統俳句協会2010年9月カレンダーより抄出。(Midori)

秋草

2010-09-21 | Weblog
秋草に一ト刷けの朱ヶ一夜ごと   中原道夫

いわゆる草紅葉だろうか。
一夜ごとに深まる秋に、一刷けの朱が秋を実感する。
意図された音のリフレーンが、個性的なリズムを与えている。
「銀化」主宰。「俳句」平成19年11月号より抄出。(Midori)

2010-09-20 | Weblog
   熊本のあいつ思えば雲は秋   坪内稔典

稔典さんと熊本を結んでいるものは、「あいつ」だった。
来年の春には、九州新幹線の全面開通により、熊本・新大阪間は、
3時間ちょっとで行けるようになる。
熊本の「あいつ」が、少しだけ近くなる。
句集『水のかたまり』に所収。2010年版「俳句年鑑」より抄出。

2010-09-19 | Weblog
  濃霧から手が出て高速料金所    須川洋子

高速道路でなくても、濃霧の中を走るのはとても怖いものだ。
しかし、何事もなかったかのように、「濃霧から手が出て」くる。
濃霧は、自分とこの世を隔てる一瞬の仕掛けのようだ。
そして、高速料金所は、その出入口みたいだ。
「季刊芙蓉」主宰。「平成秀句選集」より抄出。(Midori)

満月

2010-09-18 | Weblog
   満月の首都ベルリンの愛の時間    金子兜太  

ベルリンという地名が動かない。
満月に照らし出された首都ベルリンの愛の時間・・・
「首都ベルリン」という素材によって甘さが抑制されて、
静かな至福の時間が流れているのが感じた。
スケールの大きな作品に魅了される。『東国抄』に所収。(Midori)
    


曼珠沙華

2010-09-17 | Weblog
    夕日恋ひ夕日に痛み曼珠沙華   菅原鬨也

曼珠沙華は、夕日を恋うて咲くのか、夕日と同じ色をしている。
夕日は変わることなく美しく、曼珠沙華の彩は、やがて色褪せてゆく。
夕日を恋えば恋うほど、それだけ痛む曼珠沙華・・・
それは、傷つくことの多い「恋」に似ている。
第5句集「曲炎」より抄出。(Midori)

2010-09-16 | Weblog
 
   其中に金鈴をふる虫一つ     高濱虚子

いろんな虫が鳴いている中で、一際美しいと感じる
虫の音がある。それを、何の虫だろうかと考えることはあっても、
「金鈴をふる虫一つ」とは想像さえしなかった。
虚子のアニミズムの感覚が、新鮮でおもしろかった。
角川書店発行『必携季寄せ』より抄出。(Midori)