十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

2010-08-31 | Weblog
   瀧を見る急坂いかがしたものか    佐藤艸魚

滝を目前にして、急な坂道が立ちはだかる。
思案にくれている作者だが、それほど難儀している様子でもない。
「瀧」という大自然の前に、「急坂」もまたひとつの自然だ。
「いかがしたものか」の、自分を阻むものへの詠嘆、そして
泰然自若たる氏の姿勢に、心惹かれた。
「阿蘇」9月号より抄出。(Midori)

昼寝

2010-08-30 | Weblog
     蝶になり河馬になりけり大昼寝    磯 あけみ

真夏日どころか、これほど猛暑日が続くと、日々の疲れも溜まってくる。
いつの間にか、まどろみはじめた眠りは、まるで蝶になったかのように、
心地よい眠りとなる。しかし、よほど疲れが溜まっていたのだろうか、
やがて、眠りは熟睡となって、その姿はまるで河馬のようだ。
大昼寝らしい、大胆な比喩が楽しい一句。
「阿蘇」9月号より抄出。(Midori)

紫陽花

2010-08-29 | Weblog
    まだ涙ほどの色して四葩かな    粟津玲子

花の色は、咲き進むにつれて、白から薄緑、薄青、あるいは薄紅、紫と、
さまざまに変化する。「涙ほどの色」とは、白に近い薄緑色だろうか。
「まだ」という、今もなお続いている状態を表す副詞によって、「四葩」に
投影された作者の思いがしみじみと伝わってきた。
「阿蘇」9月号より抄出。(Midori)


2010-08-28 | Weblog
  泉ありかたはらに恋語るべく    岩岡中正

森閑とした山懐に、ふと出会う泉、
いっとき、世の喧噪から遠く離れて、泉に手を浸せば、
心も体も癒されそうな気がする。
恋を語れば、泉のように清らかな言葉がささやかれるのだろうか。
フランスの印象派の絵画のような詩情に惹かれた。
「阿蘇」主宰。「阿蘇」9月号より抄出。(Midori)


秋の雨

2010-08-27 | Weblog
   白鷺は白き蓑きて秋の雨     長谷川 櫂

白鷺は、川べりなどによく見られる全身純白色の鳥だが、
どこか端然とした姿が美しい。しかし、「白き蓑きて」と、
断定されると、確かにそう見える。人間の生活感あふれる、
「蓑」との取り合わせが何ともユニーク。
句集『新年』に所収。2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

菩提子

2010-08-26 | Weblog
   菩提子拾ふ一粒ごとの仏かな    神蔵 器

菩提樹は、インドで釈迦がその下で悟りをひらいたとされる木だ。
そして、菩提子は菩提樹の実のこと。
木の実は、それぞれに樹木の生命が宿っているものだが、
菩提子には、仏もいらっしゃるようで、ますます粗末にはできない。
「平成秀句選集」より抄出。(Midori)

2010-08-25 | Weblog
    階段のさびしさに月射しにけり     正木ゆう子

階段は、下の階から上の階へ上がるための、あるいは
上の階から下の階へ降りるための、建物に固定された道具ともいえる。
それだけに、特に注目することもなかった。
「階段のさびしさ」とはこんなところにあるのだろうか。
しかし、月はすべてを平等に照らし出す。
月が照らし出す階段は、日常の次元を離れた存在感を放っている。
角川学芸出版 平成22年〈秋〉「俳句手帖」より抄出。(Midori)

夜長

2010-08-24 | Weblog
   ロッカーに翼預けて逢ふ夜長    真鍋呉夫

「ロッカー」という現代社会の有料な小さな空間に、
「翼」という人間にとって、非現実的とも思えるものを預けるという発想、
それが、具象であるが故に、妙に生々しいリアリティを持つ。
翼がなければ、どこにも行かない、行けないという逢瀬は、
一夜だけの優しさ・・・。
句集『月魄』に所収。「俳句」6月号より抄出。(Midori)

無花果

2010-08-23 | Weblog
   無花果の皮あやふやに剥きをはる   大串 章

秋は、いろんな果物が店頭に並ぶが、ふっくらとした無花果があると、
必ずと言っていいほど買ってしまう。昔はそれほど珍しい果物では
なかったはずなのに、母がいつもジャムにしていたからだろうか、
それほど「食べた」という記憶がないのだ。
よく熟れた無花果の皮を手でむく。熟れているだけに無花果の皮は、
剥きにくい。「あやふやに剥きをはる」無花果は、美味しい証拠だ。
句集『山河』に所収。「俳句」8月号より抄出。(Midori)

2010-08-22 | Weblog
   階少し軋むも月の奈良ホテル    水田むつみ

一度は、訪れてみたい奈良ホテル。
階段を軋ませながら昇る緊張感と、期待感・・・
月が照らし出す天平の文化は、今1300年の歴史を誇っている。
「田鶴」主宰。「平成秀句選集」より抄出。(Midori)

稲光

2010-08-21 | Weblog
    胎内へ泳ぐ寂しさ稲光     望月志高

一つの卵子に向かって、一斉に泳ぎだす精子。
それが寂しいとしたら、それは、人体のメカニズムの故だろうか・・・
稲光が走ったとき、そのときひとつの命が宿る。
「六曜」所属。2009年度「全国俳誌巻頭句一覧」より抄出。(Midori)

2010-08-20 | Weblog
    月しばし軒端づたひの書斎かな    深見けん二

昨夜10時ごろ、月が南の空の中ほどに輝いていた。
「軒端づたひ」というと、ちょうどこの時間帯かと思う。
夜遅くまで、一人書斎の机に向かっていらっしゃるのだろうか。
軒端づたいに月が輝いている間、しばし一人の書斎が一人でなくなる・・・。
2009年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

桐一葉

2010-08-19 | Weblog
一葉落つわが体温を少し奪ひ    望月百代

「桐一葉」は、「桐一葉落ちて天下の秋を知る」など中国の
古典の詩文から、秋の訪れを感じる季語となっている。
一葉が落ちる時に放出するエネルギーは、
「わが体温を少し奪ひ」の喪失感と同じものだ。
女性らしい繊細な感覚が魅力的。
「夏日」主宰。角川学芸出版「平成秀句選集」より抄出。(Midori)

秋澄む

2010-08-18 | Weblog
  秋澄むやこころはなれし目が遊ぶ    山上樹実雄

秋は、空気が澄み、ものみな美しく見えるというが、虚ろな心のままでは、
その美しさにも気づかない。目の表情はさまざまだ。
心が離れている目に映るものは、どんなに美しいものも輝かない。
「南風」代表。2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

マスカット

2010-08-17 | Weblog
   マスカットむく指先で聞く話    千原叡子

マスカットを指先でむいている作者だ。と同時に、
話の相手もしているらしい。しかし、それほど、深刻な内容ではなさそう。
今は、マスカットをむくことの方が、よほど重要なことのようだ。
難しい話は、指先では聞けない。「ホトトギス」同人。
角川学芸出版「平成秀句選集」より抄出。(Midori)