十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

2010-02-28 | Weblog
    包みあるニトロの重さ雪降れり    阿部風々子

ニトロはニトログリセリンのことで、ダイナマイトの原料ともなる強力な爆発物だ。しかし、血管拡張作用があるため、狭心症を持つ者にとっては、どこに行くにも手離すことのできない大切な薬だ。さて、包みの中のニトロの重さは、一体どれ程だろうか。小さな容器に入ったニトロは、作者にとって命と同じ重さであるに違いない。しんしんと雪が降る中、生かされていることへの感謝の思いを深くしている作者だ。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

春の鴉

2010-02-27 | Weblog
    青江三奈きどつて春の鴉かな     白濱一羊

初鴉は、縁起の良いものとして新年の季語になっているが、春の鴉もどこか艶めいている。誰も通らないアスファルトを歩いている春の鴉の姿は、確かに、「あなた知っている港ヨコハマ~♪」の青江三奈に勝るとも劣らない。少々遊びすぎでは?と思える作品だが、共感を覚えるから仕方ない。「俳句年鑑」2010年版より抄出。(Midori)

さくらんぼ

2010-02-26 | Weblog
    不況てふ暗さやアメリカさくらんぼ    嶋田麻紀

アメリカさくらんぼは、日本のものと違って光沢のある暗褐色をしている。「不況てふ暗さ」は、実はアメリカさくらんぼの色であったのかと納得させられる。不況の原因がアメリカにあるとしたら、さらに重層的な意味合いを帯びてくる。俳句には不向きと思われる「不況」という言葉を取合せによって上手く詠まれていて面白かった。作者は、「麻」主宰。「俳句年鑑」2010年版より抄出。(Midori)

犬ふぐり

2010-02-25 | Weblog
    犬ふぐり降りそそぐ陽をよろこべり     栗田やすし

犬ふぐりは、早春に瑠璃色の可憐な花を咲かせるが、その名は、まるで対照的に現実的だ。さて、「よろこべり」と、犬ふぐりが擬人化されているが、その名の意味するところを十分に意識に入れたものだろう。まるで、春の陽光の中で跳ねまわる子犬のようだ。平明ながら、早春の光が溢れる作品に心惹かれた。「俳句年鑑」2010年版より抄出。(Midori)

春の草

2010-02-24 | Weblog
    春の草やさしく抜いて根の長し    鳴門奈菜

我が家の庭の草もいつの間にか伸び出している。まだ、指で摘めば簡単に抜けるほどだが、意外にも、根は長く張っていることに気づく。「やさしそうに見えて根は強情だ」とは、春の草にもあてはまるようだ。「俳句」平成21年6月号より抄出。(Midori)

蛇穴を出づ

2010-02-23 | Weblog
      蛇穴を出でぬ女人と見てあれば    板谷芳浄

冬眠を終えた蛇が穴から出てくる頃は、まさに春爛漫の陽気に包まれる。しかし、うっかり早く出すぎると、寒の戻りに遭うかも知れす、蛇の方も用心深くあらねばならない。さて、穴を出てゆくチャンスをうかがっている蛇だが、そこに女人が通りかかったのだ。中世の女性を思わせる「女人」という言葉に、天地創造以来、人間に深い関わりを持つ蛇の存在が、妙に生々しい。2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

ふらここ

2010-02-22 | Weblog
 ふらここやもしといふこと楽しくて   いのうえかつこ

想像することの利点は、いつでも、どこでも一人でできるということだ。
「もし・・・」ではじまる、「私」が主人公の小さなストーリー・・・
心が弾めば、それだけブランコも高く漕げそうだ。
2010年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

鳥雲に

2010-02-21 | Weblog
     おほかたは一会の名刺鳥雲に    鷹羽狩行

名刺は、意外と見ているようで、見ていないものだ。初対面の儀礼のワンシーンに過ぎなかったりする。いつの間にかたまってゆく名刺の中から、再び手にするものは、いったいどれほどだろうか。「鳥雲に」という哀愁のある季語に余情を覚えた。平成20年「俳句手帖」より抄出。(Midori)

水澄む

2010-02-20 | Weblog
    エメラルド色に水澄む地震の里    今野信子

エメラルドは、透明な深緑色の宝石だが、地殻を構成する鉱石の一つだ。さて、「エメラルド色に水澄む」というだけで、それは宝石にも似た美しさだが、自然の脅威は、いつ何時やってくるのか予測できないものだ。「エメラルド」の神秘性と、「地震の里」には、どこかで共通するものがありながら、対照的な、その「美」において、大きな詩情を覚えた。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

雪山

2010-02-19 | Weblog
     雪山を眺める顔もいい男    野村あい子

「も」ということは、そのほかの顔もいい男だということだ。雪山を眺める男の顔はとびきり輝いて見えたことだろう。「雪山」という山の形容の素朴さが却って作品に重層感を与え、大自然を眺めている男への作者のやさしい視線が感じられた。「いい男」とは、決して顔だけでなく彼の人間性そのものだったに違いない。今、冬季五輪でフィニッシュを決める男たちの顔はどれも輝いている。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori) 

子猫

2010-02-18 | Weblog
     帰りたし子猫のやうに咥へられ   照井  翠

きっと、やるだけの事は、すべてやってしまったのだろう。今は、もう虚脱感だけしか残っていないのだ。子猫のやうに咥えられ・・・そんなふうに弱さをさらけ出してしまいたい時があるものだ。そして、明日はいつものように元気であればよい。「子猫」そのものを詠んだ句ではないが、ドラマチックな感動を覚えた。句集「雪浄土」に所収。(Midori)

風船

2010-02-17 | Weblog
     風船で遊ぶ授業でありにけり     堤 二青

現代の子どもたちは、本当の遊びの楽しさを知らないようだ。
かつて「遊び」は、一種の創作であり、遊びの対象は無限にあった。
今では、遊びも、学校で習うものらしい・・・。
日本伝統俳句協会「花鳥諷詠」257号より抄出。(Midori)


枯尾花

2010-02-16 | Weblog
     口止めの利かぬをんなよ枯尾花    松ノ井洋子

口止めをするくらいなら、初めから言わなければよかったものを、どうしても誰かに喋らずにはいれなかったのだ。一方、口止めをされた方も、知り得た情報を心にしまっておくには、それなりの努力を要するものだ。こうして結局、口止めをした本人の耳にまで聞こえてきたのだろう。「口止めの利かぬをんなよ」と、嘆息混じりの作者の声が聞こえてきそうだ。「枯尾花」は、きっと口止めの利かなかった女性のことだろう。季語の付け方に俳諧味が感じられ、とてもユーモラスな作品となっている。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

冬銀河

2010-02-15 | Weblog
     茄色のサプリメントや冬銀河     畑中伴子

サプリメントは、栄養補助食品のことで、忙しい現代社会の中で、栄養のバランスの取れた食事を規則的に摂ることは難しいことから、最近では人気の高い商品だ。さて、「茄子色」は茄子の栄養素が詰まったサプリメントという訳ではないと思うが、もし「むらさきの」だったとしたら、単に機能的食品と思えたことだろう。そこで選ばれた季語は、ロマン性の高い「冬銀河」だ。「茄子色のサプリメント」には、作者の夢もたっぷりと詰まっていそうだ。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

2010-02-14 | Weblog
ミサイルが春の深部へ突き刺さる     岸本マチ子

春といっても、早春だろうか・・・。
春の深部は、万物の生命が生まれるところだ。
内包するエネルギーは、まさに爆発寸前だ。
作者は、那覇市在住。「WA」代表。句集「通りゃんせ」所収。(Midori)