十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

「阿蘇」11月号

2019-10-31 | Weblog
フラスコに挿せる野の花原爆忌
底紅の中より母の子守唄
錆色に暮れゆく空や敗戦日
銀漢の中に心拍ありにけり

阿蘇」11月号、岩岡中正選

理科室で行う実験や、その結果得られる化学式にわくわくしていたものだが、思えば、すでに実験の結果が分かっていたからできる実験であった。しかし化学者たちにとっては、一つの考察の実証のための実験である。まさに命がけだ。フラスコは、かつて原爆資料館で見た記憶にも繋がる。(Midori)

新蕎麦

2019-10-28 | Weblog
新蕎麦を打つてくれたる里女     高浜虚子

非常に平明な句でありながら、「里女」への親しみと情愛が感じられる句ではないだろうか。土地に生きる者への虚子の眼差しがやさしい。『虚子俳話』の中の昭和30年10月23日の近吟三句の中の一句。(Midori)

10月号Ⅴ

2019-10-24 | Weblog
ムンクの叫び梅雨夕焼は戦火      牟田タケ子

「梅雨夕焼は戦火」という断言は、実際に戦火をくぐり抜けてきた人でないと決して言えない言葉である。「ムンクの叫び」は作者自身の叫びであり、破調の調べは、今も尚つづく不安感にも重なる。令和となり、戦後生れの新天皇が誕生したが、平和な世の中がずっと続くことを祈りたい。「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)

団栗

2019-10-21 | Weblog
熊本県北の蓮華院誕生寺奥の院は、四季折々の自然に出会える私の一番の吟行地。正面の男坂、女坂を登れば、有明海が遠くに望まれ、晴れていれば、普賢岳も見渡せる。復路は、階段でなくゆるい坂道を下れば、また違った自然の営みに出会うことが出来る。その日は、たくさんの団栗が、鬱蒼と茂る坂一面に落ちていたのが印象的だった。(Midori)

   団栗の転がつてゆく黄泉の坂      *土曜例会、中正選

10月号Ⅳ

2019-10-17 | Weblog
慰めの言葉貧しく汗握る      大波多美妃

「慰めの言葉」に、必要十分はなく、どんな言葉も慰めには値しないのではないだろうか。「貧しく」という思いに、かえって作者の心持の深さが感じられるが、何と言っても「汗握る」が、飾らない真情を伝えている。「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)

古代の森Ψ

2019-10-13 | Weblog


台風19号が、甚大な爪痕を残して行った中、熊本ではやや風が強いものの秋天に恵まれました。どこか後ろめたい思いを抱きながらの吟行でしたが、「古代の森」では、前方後円墳や円墳の美しさに一時、現世を忘れました。(Midori)

  はたはたの跋扈してゐる墳墓かな

9月号Ⅲ

2019-10-10 | Weblog
全集と闘つてゐる雲母虫      吉井たくみ

「戦つて」でなく、「闘つて」と叙されて、奮闘している雲母虫の様が想像される。全集となると、紙質も立派で重量感も相当だ。さぞやと思わせる楽しい一句である。「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)

10月号Ⅱ

2019-10-06 | Weblog
油照また私が錆びてゆく      真弓ぼたん

空中の酸素によって錆びて行くのは、人間も同じ。酸化作用による老化を防ぐために、抗酸化作用を持つ食品で補おうとするが、追いつけないのが現状。酸素はなくてはならない物質でありながら、化学反応によって酸化物質を作ってしまうのも現実。さて掲句。「また私が錆びてゆく」の嘆きとも、諦観とも思える独白が身につまされる一句。「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)

10月号Ⅰ

2019-10-03 | Weblog
炎天の一会とはおろそかならず     岩岡中正

多くの出会いがありながら、自分の未熟さゆえに、見逃してしまった多くの出会いがあったことを、今更ながら後悔することがある。ましてや、「炎天の一会」である。「おろそかならず」という真摯な眼差しに、他者への深い思いが重なって来た。「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)

「阿蘇」10月号

2019-10-01 | Weblog
空いろのプールの底を歩きをり
薔薇の香やうすく日の差す磔刑図
村人の大きなこゑや梅雨晴間
万緑や太く描きたる眉二つ

*「阿蘇」10月号、岩岡中正選

【選評】 空はもちろん「プールの底」も「空いろ」。何でもないあたり前のようなことだが、意外な発見。しかもそのプールの空いろの底を歩くことで、作者自身も「空いろ」となっていくという、一寸幻想的で身体性あふれる句になった。(中正)

久しぶりに出かけた町内のプール。コースロープが整然と並び、1コースは「歩き専用」、2コースは「初心者専用」という具合に、すっかりシルバー仕様。利用者は2、3人という超贅沢な時間。時々泳いだりもして、1コースを10回往復達成!(Midori)