十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

2009-06-30 | Weblog
朧より身一つ入れて自動ドア   梅本伸子
                            「阿蘇」7月号 〈雑詠〉
「朧」という、掴みどころのない朦朧とした春の現象に、わが身の輪郭も何だか、
ぼやけてしまいそうだ。そんな朧からやって来て、自動ドアの前に立つ作者だ。
すべて朧かと思えば、自動ドアは難なく開く。コンビニの自動ドアは、何かを
求めてやってくる一人ひとりに、同じように開閉を繰り返す。再び、自動ドアより、
身一つで朧に出てゆく作者なのだ。一瞬を切り取った作品でありながら、どこか
幻想的な想像が膨らむ。(Midori)

春の風

2009-06-29 | Weblog
幔幕の囲みきれざる春の風    井芹眞一郎
                             「阿蘇」7月号 〈雑詠〉
幔幕は、式場などで長く張りめぐらす幕のことだ。「囲み」とあるので句碑の
除幕式だろうか・・・。粛々と除幕式が執り行われる中、会場はやや緊張気
味だ。そこへ突然、春の風が吹き抜けて幔幕が翻ったのだ。春風の悪戯は
誰にも制することはできない。眞一郎氏は、「ホトトギス」、「阿蘇」同人。(Midori)

おぼろ夜

2009-06-28 | Weblog
おぼろ夜や蔵内に酒育ちゐて    山村ふみ子
                               「阿蘇」7月号 〈雑詠〉
日本酒は、水と米と麹によって作られ、米の澱粉は麹によって発酵が進む。
「蔵内に酒育ちゐて」と、省略の効いた巧みな表現。作者自身が蔵元であ
るかどうかは定かでないが、どこにも醸造の心労を感じさせない静謐な時間
が流れているのを感じる。朧夜の艶やかな夜に、酒が育っている、酵母が生
きているという喜びが、しみじみと伝わってきた。(Midori)

万緑

2009-06-27 | Weblog
万緑の重さを滝の音として    岩岡中正                  
                            「阿蘇」7月号 〈近詠〉
草木の緑が日毎に増し、辺りが深い緑に溢れると、生命の活力が漲っている
のを実感する。「万緑」の語感から来るものだろうか。万力にも似た鋼のような
弾力性は、内包するエネルギーの重量感につながる。万緑の滴りが、やがて
滝となって落ちてゆく、そんな大自然の躍動を覚えた。5月3日、火の国探勝
会、「通潤橋」で詠まれた「阿蘇」主宰の一句だ。(Midori)

夏暁

2009-06-26 | Weblog
夏暁や水平線をひとりじめ    菅原鬨也

水平線を前にして立つと、きっとこんな感じだ。
自分を中心に、水平線は緩やかな弧を描いている。
広角レンズで捉えたような水平線は、手が届きそうな距離だ。
夏暁、まだ誰もいない海辺、胸の中まで潮が満ちて来るようだ。
作者は、「滝」主宰。飛沫抄(その200)より。(Midori)

パイナップル

2009-06-25 | Weblog
ロケットの島のパイナップル畑    大久保白村

種子島の宇宙センターは、「世界一美しいロケット基地」といわれ、緑に囲ま
れた恵まれた環境にあるらしい。そして、種子島と言えば、パイナップルだ。
きっと近くのパイナップル畑の甘い香りに包まれた宇宙基地なのだろう。
隣の島、屋久島では、この夏7月22日、今世紀最大の皆既日食が約4分間
観測できる。白村氏は、「ホトトギス」同人。句集「精霊蜻蛉」より。

短夜

2009-06-24 | Weblog
短夜のシャガールの絵へ逃避行    金子 敦

シャガールは、ロシア生まれのフランスの画家で、「色彩の魔術師」といわれ、
空中を浮遊するシュールリアリズムの世界を確立する。中でも最愛の妻、ベラ
を抱いて空を飛翔する絵は幸福に満ち溢れている。掲句、短夜の夢の続きに、
逃避行した作者がシャガールの絵の一部になったような錯覚を覚える。
「逃避行」はシャガールの生きた時代背景を象徴する言葉でもあるのかもしれ
ない。句集「冬夕焼」より抄出。(Midori)

半夏雨

2009-06-23 | Weblog
眠れない手足ひきよす半夏雨    岩淵喜代子

半夏生は、七十二節気の1つで、夏至から11日目、陽暦の7月2日頃に
当る。この頃に半夏という毒草が生えるとされ、この日の雨を半夏雨と
いう。「半夏生」のどこかアンニュイな響きのある季語に、以前から惹か
れていたが、「眠れない手足ひきよす」にそんな思いが重なってくる。
作者は、1936年生れ。同人誌「ににん」代表。(Midori)

絹扇

2009-06-22 | Weblog
眼が合うてよりもて遊ぶ絹扇    森 敏子

かつて日本の扇子は中国に輸出され、シルクロードを経て遠くヨーロッパ
まで伝わった。ルイ王朝時代、扇子はヨーロッパ風にアレンジされ、絹や
レースを貼った洋扇子が独自に流行する。その後日本へ逆輸入されて、
絹扇となる。作者は、俳優の高倉健の妹さんだが、傾城の美人だと聞く。
女性の微妙な心の動きが、絹扇の繊細な質感とともに、もて遊ぶ指先に
感じられる。句集「薔薇枕」より抄出。福岡県在住。「白桃」同人。(Midori)

菜の花

2009-06-21 | Weblog
胎内につづく菜の花明りかな 
大干潟錆色の月のぼりけり
辛夷咲く島に別れの紙テープ
宇治十帖恋にたかぶる花かがり   みどり

*「滝」6月号に掲載されました

花種

2009-06-20 | Weblog
花種を蒔き終へ皿に香のもの    佐竹イツ子
                               「滝」6月号 〈滝集〉
四季折々の草花が絶えることない庭を見かけると、どんな人がお手入れさ
れているのかと、何となく想像してしまう。実際は、土作りから始まって、花
が咲くまで、とても根気のいる作業なのだ。さて、花の種を蒔き終え、最後
にジョーロでたっぷりの水をかけると、ようやく終了だ。好きな香の物を皿
に盛って、お茶をいただく作者に、豊かな時間が流れているのを感じた。
素朴な味わいのある作品に、作者の人柄が偲ばれた。(Midori) 

日傘

2009-06-19 | Weblog
日傘より帽子がよろし老の杖    川名禾乃
                              「滝」6月号 〈滝集〉
帽子にリュックサックなどの出立ちは、両手が自由になるために、とても活動
的だ。「日傘」という夏の季語を詠んでいながら、「日傘より帽子がよろし」とは、
何と小気味の良いことか。下五への展開に、ただ単に好みの問題ではなく、
そこには作者の矜持が隠されていることに気づく。かつて、帽子より日傘を愛
用していたかもしれない作者の姿が目に浮かんだ。(Midori) 


紙風船

2009-06-18 | Weblog
紙風船平成の息昭和の息    佐藤時子
                            「滝」6月号 〈滝集〉
私が生まれた昭和は、経済の高度成長期にあった。消費ブームの中、カラ
ーテレビを見たときの感動は今も鮮明に覚えている。平成の世となって21年
目、経済破綻と自然環境の悪化、そして少子高齢化問題と、時代は深刻だ。
作者とお孫さんだろうか。時代は変わっても、変わることなく愛され続けてい
る紙風船に、昭和へのノスタルジーを覚えた。(Midori) 

桜狩り

2009-06-17 | Weblog
道問へば来し方問はる桜狩り    中鉢益生
                               「滝」6月号 〈滝集〉
桜の名所を訪ねてやってきたのだろうか。樹齢1000年を超える桜、あるいは、
いくたびも戦乱の世をくぐり抜けてきた桜なのかもしれない。その土地の人に
とっては、桜は歴史を語るものであり、癒しのシンボルともなっているものだ。
熊本弁だったら、「どこから来なはったとですか?」となるところだろうか・・・。
「道問へば来し方問はる」の人情味のある作品に心惹かれた。
作者は、「滝」同人。仙台市在住。(Midori) 

麦踏

2009-06-16 | Weblog
噴煙はいつもの高さ麦を踏む     小野憲彦
                               「滝」6月号 〈滝集〉
とても長閑な田園風景を想像する。遠くに見える噴煙が、「いつもの高さ」に
上がっている、というただそれだけのことなのに、その日常と変わらぬことに
作者の万感の思いが伝わってくる。見慣れた風景が、昨日と同じように今日
も見ることのできる幸せは、何ものにも代えられないものだろう。自然災害の
恐怖を身近に知っているとしたら、なおさらだ。麦を踏む作者と噴煙の遠近感
が、一句を立体的な構図に仕上げている。(Midori)