十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

草の花

2017-10-31 | Weblog
手仕事は日がなとんとん草の花     岩岡中正

「手仕事」をどう言葉にするかは、その仕事内容によって違っているかもしれないが、「日がなとんとん」の七音で語り尽くされている手仕事があるのではないだろうか。「日がな」、つまり一日中、「とんとん」と簡単な道具を使っての作業の繰り返し。伸びやかで、リズミカルな作品に、「草の花」の素朴さがいい。「阿蘇」11月号より抄出。(Midori)

草の花

2017-10-30 | Weblog
信仰は海を越え来し草の花 
砂紋てふ波の伝言夜の秋
仮の世にクッキーほどの日焼して
桃の香に触れて刃先のくもりたる


*「阿蘇」11月号、岩岡中正選

【選評】俳句には言われて気付くものが多いが、この句もその一つ。信仰はもちろん在来の自生のものも多いが、「海を越え来」たものも多い。仏教キリスト教その他色々だが、一句のポイントは、「草の花」で、これが密かな信仰にふさわしい。大きく静かに「信仰は海を越え来し」と断定したところが、いかにも信仰の普遍性にかなっているし、遥かなるものへの憧れに満ちている。(中正) ☆個性燦燦より

遠藤周作の小説、『沈黙』を読み終えて間もない頃訪れた長崎の外海。『沈黙』の舞台とも知らずに訪れたことに、神のお導きを感じたことでした。今も昔も変わらず美しい海と夕日でした。(Midori)

石蕗の花

2017-10-26 | Weblog


    
世界一の大梵鐘のある熊本県北の蓮華院誕生寺。来月11月3日には、九州場所を前に、横綱稀勢の里をはじめ多くの力士による奉納相撲があります。広大な寺苑には石蕗の花が見事を迎えていました。(Midori)

石蕗咲いて無明の吾を照らしけり

土曜例会

2017-10-24 | Weblog
毎月第二土曜日は、本部例会。台風21号が接近中ではありましたが、51名のたくさんの参加!互選のあと、ホトトギス同人選に続いて主宰選。やはり一句一章の季題を詠まれた詩情深い作品に多くの選が集まりました。毎回自選に迷いながらの出句ですが、じっくりと対象と向き合わなかった句には後悔が残ります。(Midori)

    猪垣に脈打つ闇のありにけり

鶏頭

2017-10-22 | Weblog
鶏頭花抜きたる穴の熱からむ     菅原鬨也

「鶏頭」というとすぐに思い出すのが、先師の掲句だ。大人の背丈ほどに成長した鶏頭を抜いたあとの「穴」への着眼も鋭いが、「熱からむ」という独自の感覚に魅了されたもの。いま改めて読み返してみると、生命の根源に触れた官能的な側面もあることに気づく。意識的あるいは無意識に仕掛けられた詩情を見出すことも楽しい。第5句集『曲炎』に所収。(Midori)

2017-10-20 | Weblog
蟻の道子を抱き上げて跨ぎけり    齋藤善則

長く伸びた蟻の道を前にして、子を抱き上げて跨いだというだけであるが、いかなる感情も交えない一句に、父と子の蟻へのさり気ない思いやりが伝わってくる。上五から「跨ぎけり」の、まるでガリバーの親子であるかのような構図も楽しい。「滝」10月号〈滝集〉より抄出。(Midori) 

枝豆

2017-10-19 | Weblog
枝豆やミサイルどこへ行つたやら     谷口加代

「枝豆や」の「や」の切れによって想像されるのは、冷えた一杯のビール!ミサイルが、日本列島上空を飛び越えて行ったというのに、「どこへ行つたやら」とは何と泰然自若。「枝豆」という日常と、「ミサイル」という非日常の配合に、平和の中にも漠とした不安が隠されている一句ではないだろうか。昨今の国際情勢を詠んだ社会詠でありながら、力を抜いた詠み方は流石。「滝」10月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)  

残像

2017-10-18 | Weblog
太陽のくろき残像敗戦忌    遠藤玲子

作者にとって72年前の終戦の記憶は、まさしく「太陽のくろき残像」なのだ。時間が一瞬にして止まってしまったかの如き敗戦の日は、モノクロの映像のまま作者の心に残像となって焼き付いているのだろうか。「滝」10月号〈渓流集〉より抄出。(Midori) 
 

榧の実

2017-10-17 | Weblog
榧の実を千年降らす寂しさよ     鈴木要一

日本最大の榧は、福島県桑折町にある万正寺の推定樹齢900年の大榧だとか。宮城県在住の作者が出合った榧だと思いたいが、どうだろうか。さて、「千年降らす」というまるで榧の木に意志があるかのような詠みに、深い郷愁の思いが伝わってくる。自然の理とは、かくも寂しいものか。「滝」10月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)  

螇蚸

2017-10-15 | Weblog
俳句てふ仮想空間より螇蚸     石母田星人

「俳句」という言葉を詠み込んだ句というと、石田波郷の「霜柱俳句は切字響きけり」がすぐに思い出されるが、子規や虚子の句にも存在する。さて掲句、星人氏にとっては初めての試みかと思うが、やはり彼の世界がしっかりと息づいている。「仮想空間」というシュールな世界から、いきなり「螇蚸」という現実が飛び出すのだ。「滝」10月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)  

秋茱萸

2017-10-14 | Weblog
信仰は秋茱萸の朱を抓む指     成田一子

「信仰」は、秋茱萸の朱を抓む「指」だという。「信仰」という不確かなものの輪郭を、中七から下五へと焦点を絞って確かな存在として提示しているが、どこか嗜虐性も感じられる一句である。「抓む」という漢字表記のためかとも思われるが、「信仰」は、もともと排他的な側面もあるもの。作者らしいスリリングな世界観が魅力的な一句。「滝」10月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

末枯

2017-10-13 | Weblog
振り向けば吾が影ふつと末枯るる
大仏の美しき鼻梁や色鳥来
一族の二重瞼や盂蘭盆会
さつきから同じ踊子見てをりぬ


「滝」10月号、成田一子選

「末枯」とは、晩秋の季語で、木々の枝先や葉の先の方から枯れることをいう。草木の枯れはじめのわずか変化を捉えて詠もうとする先人の感覚に驚かされるが、「うらがれ」という読みもどこかうら悲しさを覚えるもの。さて、わが身の末枯は何とせん。(Midori)

海女

2017-10-11 | Weblog
海女浮いて波の平らとなりにけり    粟津玲子

海女が浮いたことにより、海女の一点から波の静かな広がりが見えてくる。陽光も加わって、構図の美しい一句。「阿蘇」10月号当季雑詠より抄出。(Midori)

ソーダ水

2017-10-10 | Weblog
竹落葉霏々と降り積む月夜かな
法灯の如き蕾や古代蓮
一望に広ごる海やソーダ水
病葉や窓に太陽老いゆける


*「阿蘇」10月号、山下しげ人選

【選評】いつまでも続くかのようにしきりに降る竹落葉。「月夜」が自然と幽玄の世界へ導いてくれている。時間の継続を暗示する「積む」の一語が絶妙である。(しげ人)

選者は、ホトトギス同人。やはり意識するのは写生。意図したわけでもなかったが、不思議と吟行句となっていた。後日、映像にはいくらかの推敲を加えた。(Midori)