十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

逃水

2012-02-29 | Weblog
逃水の逃げゆく先の百済かな    石嶌 岳

追いかけても追いかけても、その先へと逃げて行く逃水は、
舗装道路でよく見かける光の屈折による現象なのだが、
逃げて行く先を、「百済」としたところが上手い。
百済に行けば、衆生救済されそうな気がするから。
「嘉」代表。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

針供養

2012-02-28 | Weblog
和歌の浦の光あまねし針供養    有馬朗人

万葉集にも詠まれている風光明媚な景勝地、和歌の浦。
「光あまねし」に、古典的な光や神々しさが感じられると思ったら、
それもそのはず、針供養が、和歌山市の淡島神社や、
各地のその末社に納めるものだと知って、なるほどと思った。
「天為」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

恋猫

2012-02-27 | Weblog
水舐めてこゑ太らせし恋の猫    雨宮抱星

春になると、一匹のメス猫に、数匹のオス猫が恋を仕掛けるというが、
あのオス猫の鳴き声の一体どこが良いのかと思うのは、猫でないからか・・・。
さて、水舐めてこゑ太らせた恋猫の恋の行方は?
「草林」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

雪解川

2012-02-26 | Weblog
鉄橋は貨車よりみじか雪解川     西山常好

すっと立ち上がってくる景色・・・。
それは、雪国の山里を流れる小さな川。
「鉄橋は貨車よりみじか」という発見が詩になるのも、
「雪解川」という季語の力だ。
「母港」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

春の海

2012-02-25 | Weblog
隠し持つ魔性や春の海のたり     山田貴世

昨年の3.11の津波を思えば、「隠し持つ魔性」の存在は恐怖だ。
蕪村の句、「春の海終日のたりのたり哉」が根底にあるだけに、
「春の海のたり」の長閑さが、かえって不気味に感じられる。
「波」所属。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

春眠

2012-02-24 | Weblog
春眠や小岩の次は新小岩    福永法弘

調べてみると、JR東日本の総武本線だとわかった。
各駅停車の列車に乗ることを常としているのだろう。
そして、新小岩で下車するのだ。
心地よい眠りから、「小岩の次は新小岩」のアナウンスに、
目覚める作者。固有名詞によって省略の効いたユニークな作品。
「天為」所属。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

寒林

2012-02-23 | Weblog
寒林のひかりは言葉得つつあり   日下野由季

「言葉を得る」ということは、何かを語りだすということ。
寒林のひかりの中、ひとつひとつの小さな生命が、
何かを語り始めるのだろうか・・・。
「俳句」2月号〈新鋭俳人20句競詠〉より抄出。(Midori)

冬晴

2012-02-22 | Weblog
杖は終日冬晴れをみちびいて来し    田島健一

杖は、いろんな状況において人をサポートする物だが、
そればかりでなく、終日、「冬晴れ」を導いて来たという。
「杖」と「冬晴れ」のこんな出合い。
作者の感性に癒される思いがした。
「俳句」2月号〈新鋭俳人20句競詠〉より抄出。(Midori)

枯野

2012-02-21 | Weblog
枯野ゆくとき夜盗めく二三人    岩岡中正

「夜盗めく二三人」ということは、そうではなかった人も、
大勢いたということだ。枯野をゆく素早い動きは、
確かにそんな風にも見える。客観的な視線が捉えたものが、
「枯野」でなく、「夜盗めく二三人」だったことの面白さ。
こうしてみると、人は、ときに奇妙な動きをするものらしい。
「阿蘇」主宰。「俳句」2月号〈作品12句〉より抄出。(Midori)

竜の玉

2012-02-20 | Weblog
髭深くおよびを入れて竜の玉   吉沢紀子

何でもない一句なのだが、竜の玉までの距離感がいい。
髭深くに指を入れないと触れることのできないという、
竜の玉の属性がここにあるような気がした。
「俳句」2月号〈作品12句〉より抄出。(Midori)

スイートピー

2012-02-19 | Weblog
濃淡の濃の淡さよスヰートピー   島谷征良

スイートピーの花の色に濃淡があるといっても、
濃と言えるほどの濃さもなく、比べてみてどちらかと言えば・・・、
という程度。濃淡だけでスイートピーの在りようが伝わるユニークな作品。
「一葦」主宰。「俳句」2月号〈作品12句〉より抄出。(Midori)

冬銀河

2012-02-18 | Weblog
まつろはぬ者の涙や冬銀河    菅原鬨也

「まつろふ」は、「服ふ・順ふ」 のことで、「服従する・従う」の意だと、
知ったが、「まつろはぬ者」とは、東北では、阿弖流爲に代表される、
蝦夷だろうか。しかし、彼らには決して譲ることのできない誇りが、
あったのだ。歴史的背景はあるにしても、いつの世でも、それは同じ。
透明感のある季語によって、まつろはぬ者の哀しみが伝わってきた。
「滝」2月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

冬ざれ

2012-02-17 | Weblog
冬ざれの街月蝕の赫き月    牧野春江

皆既月食といっても、月が地球の影にすっぽりと隠れて、
全く見えなくなるわけではなく、月は赤銅色に輝いている。
その月は「月蝕の赫き月」と表現されて、妖しいまでに美しい。
「冬ざれの街」の配合により、蕭条としたさびしさも加わり、
動詞のない作品ながら、詩情の高い一句となっている。
「滝」2月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

柚子湯

2012-02-16 | Weblog
恋色の素肌をはしる柚子湯かな   中山 杏

「恋色の素肌」とは、意表をつく大胆な表現だが、
弾けるような心の高揚が感じられてとてもいい。
生活の張りと緊張感が、恋色の素肌を保つ秘訣だろうか?
「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

紅葉かつ

2012-02-15 | Weblog
紅葉かつ散る大奥の鈴の音   佐々木博子

徳川幕府300年の歴史は、大奥の女性たちによって、
支えられてきたと言っても過言ではないかもしれない。
さて、鈴の音といえば、御鈴廊下。この廊下を通って、
大奥へ行くことができた男性は、将軍ただ一人。
江戸城大奥の女性たちの栄耀栄華と衰え・・・。
まさに「紅葉かつ散る」の人生だったことだろう。
省略の効いた作品に、さまざまな想像が膨らんだ。
「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)