十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

竹の秋

2013-05-31 | Weblog
竹の秋舞ひの軸足定まらず    畑中伴子

くるりと舞って手と足の動きがピタリと決まる。日本舞踊に、「舞ひの軸足」があることを初めて知ったが、舞いの美しさは、この軸足が大いに関係しているようだ。さて、今日は軸足が定まらないという作者だが、「竹の秋」の情感が一句をしっかりと支えている。「滝」5月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

春嵐

2013-05-30 | Weblog
春嵐起重機の首ままならず     梨子田トミ子

「首ままならず」の擬人化に思わず笑ってしまったが、そう笑ってもいられない句であることに気づいた。昨日、「半纏の絆一文字桜咲く」の句を紹介したばかりでもあり、震災句ではないかと思ったからだ。起重機が悪戦苦闘しているのは被災地の復旧作業。「起重機の首ままならず」は、復旧工事の遅れを意味する。春嵐の中、獅子奮闘する起重機に声援を送りたくなる。作者は、宮城県仙台市在住。「滝」5月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

2013-05-29 | Weblog
  半纏の絆一文字桜咲く     宇野成子

日本が深い「絆」で結ばれたのは、東日本大震災の年。日本全国からの励ましの言葉や救援物資の提供、そして今も続くボランティアの方々の活動・・・。半纏の「絆」一文字に込められたものは、支え合う心と心。3.11からすでに2年が過ぎ去った。「桜咲く」に、復興への願いと確かな未来への期待が感じられた。作者は宮城県名取市在住。「滝」5月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

春光

2013-05-28 | Weblog
春光にふはり少女の一輪車      成田清治

一輪車に乗れるようになるのは難しい。全身のバランスがとても重要で、根気のいる練習が必要だ。さて、少女は鉄棒か何かにつかまって何度も何度も一輪車にチャレンジしているだろう。そしてある日、何度目かのチャレンジの後、ふわりと宙に浮かぶように一輪車に乗れたのだ。「春光にふはり」の一瞬を捉えた措辞に、少女の伸びやかなシルエットが春光の中に見えるような気がした。省略の効いた作品に、作者の優しい眼差しが感じられた。「滝」5月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

東風

2013-05-27 | Weblog
巴里の地図纏ふマネキン雲雀東風      池添怜子

雲雀東風というと、まだ寒さの残る早春。しかし、ウインドウを飾るのは、すでに春爛漫のパステルカラーの春の色。流行の服やハイヒールで飾られたウインドウを覗くだけでも心は弾み、つい手にしてみたくもなる。しかし、彼女の目が捉えたのは、巴里の地図を纏ったマネキンだった。地図にはエッフェル塔や凱旋門などがデザインされて、一際目を惹いたものだろう。本格的な春への期待や高揚感が感じられて良かった。「滝」5月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

陽炎

2013-05-26 | Weblog
遠目して陽炎を嚙むらくだかな     遠藤玲子

駱駝は、何日も水を飲まずに生きることのできる砂漠に適した動物。日本で生まれた駱駝なのか、砂漠で生まれた駱駝なのかは分からないが、遠目して見ているものは、やはり、遠く砂漠の国ではないだろうか。「陽炎を嚙むらくだかな」に、果てしなく広がる砂漠に生きる駱駝の姿が見えるような気がした。「滝」5月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

青山椒

2013-05-25 | Weblog
青山椒水せつせつと使ひをり     長沢利子

世界的にも香辛料は貴重なものとする国は多く、保存のためであったりと、歴史的にも古い。しかし、日本における香辛料は、保存のためというより四季折々の香りや独特の苦みを楽しむ日本人独特の食に対する美意識が根底にあるような気がする。こう言うと諸外国から叱られそうだが、日本食が人気を得ているのも、こんなところに理由があるような気がする。さて、青山椒もまた味わい深い香辛料の一つだ。「水せつせつと使ひをり」に、水が美味しい日本だからこそ、青山椒の香りも高まるのだと感じた。平明な句でありながら、自然の恵みへの静かな喜びが伝わってきた。「滝」5月号〈瀑声集〉より抄出。(Midori)

蛇穴を

2013-05-24 | Weblog
蛇穴を出で明王の足元に     清野やす

冬眠から覚めた蛇は、穴から出て、一体どこへ行くのだろうか?あの蛇身の行く手を遮るものは何もなく、明王とて石像であれば、何ら怖いものではない。しかし、何といっても明王だ。「明王の足元に」と、読者に想像を委ねているが、まるで、明王の臣下となったか、あるいは仏教に帰依したかのような様だ。蛇は、いつの世も信仰の対象であるが、生々しい蛇の出現はまた別の感がある。「滝」5月号〈瀑声集〉より抄出。(Midori)

陽炎

2013-05-23 | Weblog
かげらふを来し自転車に乗せて貰ふ    鴨 睦子

何とも危なっかしい句である。陽炎を来た自転車は、すでに陽炎を乗せていそうだし、自転車を運転している人もどこか危なげだ。そんな自転車に「乗せて貰ふ」とは、幼子のように無邪気だ。「かげらう」のように儚げで、正体の掴めない句が妙に気になった。「滝」5月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

2013-05-22 | Weblog
梅一輪鍵穴を来る光かな     石母田星人

「鍵穴」は、建造物の一部分としての鍵穴というより、抽象的な意味での「鍵穴」だと解したい。感覚的には宇宙空間に取り付けられた鍵穴、とでも言えるだろうか。その鍵穴を通って来る光は、どこまでも細く長く、早春の淡い光となって大地に届くのだ。繊細な美意識によって捉えられた梅一輪の瑞々しいまでの生命感に心惹かれた。「滝」5月号〈瀬音抄〉より抄出。(Midori)

朝桜

2013-05-21 | Weblog
シャッターの「クショ」と音して朝桜    成田一子

シャッターの音と言えば、普通、歯切れのよい「カシャッ」だろうか?オノマトペは一度記憶してしまうとそのように聞こえてしまう曖昧なものだが、「クショ」と言われれば成程と思う。しかし、何とも情けない音ではある。オノマトペに鉤括弧は不要かと思うが、あえて括弧で囲んだことで、まるでカメラがつぶやいているような効果を上げている。「朝桜」の配合により、清涼な空気感が伝わってきた。「滝」5月号〈瀬音抄〉より抄出。(Midori)

涅槃

2013-05-20 | Weblog
春雷や森の匂ひのする小部屋
涅槃会やまぶたに重き蝶の影
間取図はふたりに広し春の泥
大阿蘇のてつぺんはここ揚雲雀    平川みどり


*「滝」5月号〈滝集〉に掲載されました

春夕焼

2013-05-19 | Weblog
翼うばはれ春夕焼の男かな     菅原鬨也

翼は、鳥類や航空機が大空へ飛び立つために不可欠なものだが、翼が比喩的に使われたとしたらどうだろう?「翼うばはれ」の翼は、体力などの身体的能力や名誉、野心などの人間固有の欲望を意味しているのではないだろうか。世の中へ大きく飛翔するために、それらは重要な原動力になり得たはずだ。今、翼を奪われて、何も失うものがなくなった一人の男がいる。しかし、「春夕焼の男かな」には、喪失感というより、甘美な想いに浸る安堵感が感じら、余韻のある作品に心惹かれた。「滝」5月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

薄暑

2013-05-18 | Weblog
人口1万あまりの自然豊かな熊本県北の町に住んでいるが、公共交通機関が少なく、かつて運行していた路線もいつしかなくなってしまった。昨年政令指定都市となった熊本市内へ出かけるにも、日に数本のバスが出ているだけだ。しかし、それだけでも有難く、赤字路線であるので、町の財政補助によってどうにか維持されている。

街薄暑空に鉄骨組まれをり     みどり


*「阿蘇」定例土曜句会岩岡中正選 

2013-05-17 | Weblog
山椒魚人間探求派を師系     上野一孝

作者が代表を務める結社紹介には、「師系なし」とあるが、
実は、人間探求派を師系としている。まるで山椒魚が、
人間探求派のようでもあり、山椒魚が師系のようでもある。
2013年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)