十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

蝙蝠

2014-08-31 | Weblog
かはほりや裸婦像いよよひとりぼち    酒井恍山

熊本県立図書館の玄関にも、裸婦像はあるが、あまり顧みられることもないように見える。「いよよひとりぼち」とは、日頃から「ひとりぼち」である事を意味するが、どこの裸婦像も案外そんなものなのかと、納得する。「かはほり」と「裸婦像」の取合せは、どこか西洋の宗教画を思わせる。「滝」9月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

星月夜

2014-08-30 | Weblog
星月夜贅を尽くしてをりにけり    石母田星人

この上もなく美しい星月夜だったようだ。夜空を遮るものは何もなく、大小の宝石を一天に散りばめたような星月夜は、言葉も失ってしまうほどだろう。贅を尽くされた星月夜は、自分だけに与えられた贅沢な時間。「贅を尽くしてをりにけり」に、感動の言葉もまた言い尽くされている。星月夜とは本来そのような贅沢なものなのだ。「滝」9月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

「ベジタブル」

2014-08-29 | Weblog
事件ありキャベツ畑に記者立ちぬ
浴衣着て戦後生まれやセロリ嚙む
夏大根引けば地球の傾ぎけり
イタリアンパセリ散らせり過去未来
太陽にはにかむやうに茗荷の子   
  みどり

*「滝」9月号〈渓流集〉に掲載 

 我が家の庭のピーマンを詠みたかったけれど、結局ギブアップ。
バジルと紫蘇の香味野菜は、実に逞しく和洋食どちらにも大活躍で、
ハーブのミントは、朝のスムージーには欠かせない涼感。(Midori) 

夏野

2014-08-28 | Weblog
和紙ちぎる指にはじまる夏野かな      菅原鬨也

「和紙ちぎる指」が現在の時間であるならば、指にはじまる「夏野」は、遠い過去の記憶。それは、丸めた一枚の紙をゆっくりと開くと、そこから全く別のシーンが広がる映画にも似ている。「指」によって、時空は大きく切り替わり、徐々に広がる「夏野」は、瑞々しい光に溢れ、虫や動物たちの平和な営みも見えることだろう。さて、一瞬にして風景を切り替えるものに、自然災害もある、自然の脅威を前にして、忘れかけているものはないだろうか。「滝」9月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

威し銃

2014-08-27 | Weblog
古里は親しみにくし威し銃      大輪靖宏

「威し銃」が、これではまるで脅し銃だ。久しぶりに帰って来た古里なのに、威し銃の音に、一瞬何事かと構えてしまったのだろう。古里は、親しみ易く、懐かしいものであるはずなのに、「親しみにくし」とは想定外。作者の真意は分からないが、「威し銃」が、効果的に詠まれていることは確か。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

生身魂

2014-08-26 | Weblog
九十に一つ足りない生身魂      児玉仁良

まるで、引き算のような句だが、ひき算の答えは八十九でも、俳句は、算数とは違う。九十に「一つ足りない」ということが重要なのであって、視覚的に見ると、「九十」と「一」があるばかりで、八十九という漢数字はどこにもない。やがて卒寿を迎える生身魂を重んじる思いは深い。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

色鳥

2014-08-25 | Weblog
色鳥に主茶羽織紺袴      高浜虚子

茶羽織は、茶色の羽織かと思ったら、丈が短いふだん着の羽織のことで、元来茶人の着る羽織だったとか。しかし、ここでは、そんなことはあまり関係はなさそうだ。色鮮やかな色鳥に対して、主が茶羽織に紺袴の地味な佇まいであったことを面白がっている虚子の視線が楽しい。第4版『虚子俳話』より抄出。(Midori)

草紅葉

2014-08-24 | Weblog
投げ出して体しづかや草紅葉      阪西敦子

「投げ出して体しづかや」という、意外な発見。呼吸は、次第に静まり、回りの騒音はずっと遠ざかって行く。草紅葉だけを身近に感じているという心地よさ、懐かしい記憶でもあるが、若さを持て余している作者なのかもしれない。 2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

白粉

2014-08-23 | Weblog
白粉の黄花紅花張りつめて     深見けん二

夕闇の中、白粉花の華やぎに、ふと立ち止まることも多いものだが、「黄花紅花張りつめて」の表現通り、小さな花弁はまるで天球に星を散りばめたようだ。写生といっても、言葉による写生である。「張りつめて」という言葉が導き出されるまで、どれほどの時間を要したのだろうか。白粉の特徴を見事に捉えた作品である。句集『菫濃く』より抄出。(Midori)

秋暑し

2014-08-22 | Weblog
秋暑し頼まれ事に字引ひき     高浜虚子

新聞社の意を受けて小俳話を掲載することになったのが、昭和30年4月からというから、虚子が81歳の時だ。今のように冷房もなく、電子辞書もない時代にあって、頼まれ事のために辞書を引くことが、時に疎ましく思う虚子である。「字引ひき」に、どこか自嘲めいた響きがあって、「秋暑し」が、虚子の心情をうまく伝えている。第四版『虚子俳話』より抄出。(Midori)

敗荷

2014-08-21 | Weblog
敗荷や抗ひ果てしものの影     老川敏彦

「抗う」とは、何か不合理だと思われるような大きな力に対しての抵抗だろうか。巨大な力の前には、所詮無駄だと知りつつも、「抗う」という行動を起こさずにはいられない衝動は、果たして評価されるべきものかどうか・・・。さて掲句。「老い」への抵抗は、誰しも感じるものだが、抗うほどにその影はますます悲しい現実を映し出してしまう。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori

2014-08-20 | Weblog
毬はぜて栗誕生の光跳ぬ     大橋 晄

「星誕生までにかかる時間は、100万年程度。星の寿命が100億年単位で、それに比べると短い」とは、今朝の熊日新聞での記事だが、こちらは「栗誕生」の瞬間。白い房になって垂れた栗の花は、決して美しいとは言えないが、季節が巡り、うす緑の毬に包まれた結実した栗を見ると自然の造化の不思議を思う。「栗誕生の光跳ぬ」は、まさに神秘の輝きだ。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

2014-08-19 | Weblog
掌につつむ桃の大きくこそばゆし     深見けん二

掌に持った時の桃の重量感、そして産毛に包まれた美しい形と色合いに、誰もが抱く「桃」のイメージ。掌にやっと包めるほどの桃の大きさに、今更と思いながらも、どこか「こそばゆし」という正直な感覚がとても魅力的。句集『菫濃く』より抄出。(Midori)

朝顔

2014-08-18 | Weblog
空高く紺朝顔や星のごと     高浜虚子

朝顔を「星のごと」という認識は、過去に捉えていた感覚だったのに、
それを言葉にできなかったことが何だか悔しい。
折紙で作った星形の朝顔を空高く散らしたみたいだ。
第四版『虚子俳話』より抄出。(Midori)

竹落葉

2014-08-17 | Weblog
石積みて地水火風空竹落葉      瀧澤和治

「地水火風空」とは言うまでもなく、五輪塔を指し、下から順に、方形の地輪、円形の水輪、三角の火輪、半月型の風輪、団形の空輪からなる。どこでも見られる供養塔であり、句に詠めないものかと苦心したことがあるが、この作品に出会って断念。中8ではあるが、五輪であれば一つとて外せない。それにしても「竹落葉」とは見事な季語の「斡旋である。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)