十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

2013-04-30 | Weblog
春浅し顆粒のくすり水に溶く   庄子紀子

作者にとっては、何でもない日常なのだろう。
しかし、「春浅し」によって引き出される情感は、
言葉にすれば、繊細な美意識・・だろうか?
「滝」4月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

2013-04-29 | Weblog
建国日ベンチの男よく眠り    谷口加代

もしかしたら、何もかも失ってしまった男なのかもしれない。
失うものがなくなってしまえば、もう怖いものは何もなく、
彼の眠りを妨げるものもない。しかし、そうだとしても悪いのは、
ベンチの男ではなくて、そんな男をつくってしまった世の中だ。
「建国日」が対照的に配されて、現代性の高い一句となっている。
「滝」4月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

2013-04-28 | Weblog
名残雁の不意に親しや傘寿越ゆ    相馬カツオ

春になって北に帰って行くはずの雁が、春になっても残っている。
いつもは、さほど感慨も覚えない情景が、今年は、不意に親しみを
覚えたという。「傘寿」という人生の大きな節目を越えて、
名残雁に寄せた思いは、一体どんなものだったのだろう。
「傘寿越ゆ」に、何か寡黙な決意のようなものが感じられた。
「滝」4月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

2013-04-27 | Weblog
春燈や影を生みたる涙壺    石母田星人

ずっと、絶えることなく溢れ続けていた涙壺が、
ある日突然、満々と涙を湛えたまま、春燈に影を落としている。
涙壺は、もう二度と涙で溢れることはないのだろう。
これは、一つの諦観であり、哀しみは蓋をされたまま、
格納されてしまったかのようだ。シュールな世界でありながら、
静物画を見るようなリアリティが魅力的な作品。
「滝」4月号〈瀬音抄〉より抄出。(Midori)

2013-04-26 | Weblog
啓蟄やスカート丈の一考察    成田一子

春になり、服装も身軽になれば、スカート丈も短めの傾向とは言え、
スカート丈の膝上と膝下とでは大きく異なる。
若い女性にとっては、考察すべき重大な問題と言えそうだ。
「啓蟄」に、オーバーラップされた作者を想像すると、いかにも楽しい。
「滝」4月号〈瀬音抄〉より抄出。(Midori)

麗らか

2013-04-25 | Weblog
うららかに席のうまりて始発駅   本井 英

ひとりひとり別々にやって来て、席を埋めて行く。
視線も決して合わすことのない静かな光景だが、
「うららかに」に、駘蕩とした人の流が感じられた。
「俳句」4月号より抄出。(Midori)

遅日

2013-04-24 | Weblog
潮騒へ遅日のバスを下りにけり    石田響子

バスを下りたのは、どこか海辺の駅・・・。
それを「潮騒へ」と表現して、陽光あふれる海が眼前に広がった。
一句に感じる倦怠感は、遅日のバスだからだろうか?
「俳句」4月号より抄出。(Midori)

佐保姫

2013-04-23 | Weblog
瓶ほうと鳴らし佐保姫呼びにけり     菅原鬨也

空瓶を吹いて鳴らす「ほう」という、いかにも凡庸な音でありながら、
佐保姫を呼ぶには、最も相応しい音のように思われるから不思議だ。
世の喧騒から離れた自然の中にあって、何気なく吹いてみた瓶の口・・・。
それを、「佐保姫呼びにけり」とは、何と大胆で艶やかなことだろう。
いかにも牧歌的な情緒に、若々しい感性が感じられた。
「俳句」4月号より抄出。(Midori)

剪定

2013-04-22 | Weblog
きつぱりと過去は断つべし薔薇剪定     有馬朗人

「きつぱりと過去は断つべし」の教えではあるが、過去は、そう簡単に、きっぱりとは行かない。「薔薇剪定」には、過去の華やかな実績を、きっぱりと捨てて、新しい生き方を求めているかのようなニュアンスがある。教訓めいた作品ではあるが、覚悟のように置かれた「薔薇剪定」に潔さを感じた。「俳句」4月号より抄出。(Midori)

春潮

2013-04-21 | Weblog
春潮や人絶えずして無人駅    平井岳人

無人駅は、駅員が終日常駐しない駅のことだが、
案外、一人ふたりと絶え間なく利用者が行き来しているものだろう。
「無人駅」と言いながら、人のいる可笑しさ。
絶え間ない人の流れが、春潮にも似て明るさを感じさせる作品。
「俳句」4月号より抄出。(Midori)

春の夢

2013-04-20 | Weblog
春の夢たどらむとまた眠り落つ   鷹羽狩行

「たどらむと」がこの句のポイント。
夢の途中にあって、再び夢の中へ・・・
眠り落ちる先に、どんな夢が広がっているかは知る由もない。
「俳句」4月号より抄出。(Midori)

日永

2013-04-19 | Weblog
歯科内科整形外科と暮遅し   大久保白村

最近では、建造物の耐久年数の問題が大きく取り沙汰されているが、
人体とて同じ。平均寿命は、年々高くなっても、老化による、
あちこちの故障は仕方ない。歯科、内科、整形外科と巡りながら、
一日が終わるのも、わが身のメンテナンスと思えば、大事なことだ。
「俳句」4月号より抄出。(Midori)

2013-04-18 | Weblog
オルガンのはじめの音の朧なる     土肥あき子

オルガンの蓋を開けて、右足でペダルを踏みながら出すはじめの音。
電子楽器とは違い、空気を送って音を出すオルガンの音は、
はじめの音が、どうしても間の抜けたような不完全な音になる。
一度オルガンを弾いたことがある者ならば、必ず経験することだが、
俳人の耳は、これを、「はじめの音の朧なる」と捉えた。
「俳句」4月号より抄出。(Midori)

若楓

2013-04-08 | Weblog
昨日は、日本伝統俳句協会熊本県部会の「火の国探勝会」が、八代市の春光寺で開催されました。10度を下回る震えあがるような寒さの中、若楓の美しさに救われる思いがしました。虚子忌の法要も行われ、句友と過ごす一時は、とても楽しいものでした。

回廊をめぐるさみどり鳥の恋    みどり

*俳誌「阿蘇」主宰、岩岡中正特選

寒さ

2013-04-06 | Weblog
帰りには寒さばかりがついて来る   山本淑子

「帰りには」という限定にあるのは、
行くときはそうではなかったということだ。
きっと行くときには、期待に弾む心が寒さを忘れさせていたのだろう。
しかし、結果は期待通りとは行かなかったようだ。
「寒さ」は皮膚感覚だけの寒さではなさそうだ。
「阿蘇」4月号より抄出。(Midori)