十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

暖か

2013-03-31 | Weblog
  あたたかやこの世の隅の阿弥陀堂    岩岡中正

「智に立てば角が立ち、情に棹差せば流される。とかくこの世は住みにくい」とは、夏目漱石の『草枕』の中の一節だが、科学技術は急成長し、時代は急速に変容しているにも関わらず、今もなお、住みにくい世の中であることには変わりはない。しかし、「この世の隅の阿弥陀堂」の時代を超越した静寂に安らぎを覚えた作者。「あたたか」は皮膚感覚として感じるものではあるが、それだけでない心象的な「あたたかさ」に、心温まる思いがした。「阿蘇」4月号より抄出。(Midori)

亀鳴く

2013-03-30 | Weblog
貰ひたる欠伸うつせば亀の鳴く   新谷ひろし

普通、原因結果の句は良くないとされるが、
原因に対して、結果が無関係である場合は、
そうでもないことがわかる。
「亀鳴く」という想像上の季語だからかもしれない。
2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

パンジー

2013-03-28 | Weblog
パンジーの一株を足し円生まる    水田光雄

円の出発点から植え始めたのはパンジー。
次第に円に近づきながらも、円となるには、
まだ何株かのパンジーが必要。
そして、最後のパンジーが、植えられて円となる。
円は、円満にもつながり、一株の存在は大きい。
2012年度「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

チューリップ

2013-03-26 | Weblog
ゴーギャンとゴッホの喧嘩チューリップ   岸本尚毅

ゴーギャンといえば、「タヒチの女」、一方ゴッホといえば、
「ひまわり」。それぞれ、赤と黄色のイメージだが、
チューリップで最も愛されるのがこの2色ではないだろうか?
二人は、ほぼ同じ時代を生き、共に共同生活をしたこともあれば、
実際に、喧嘩をすることもあったかもしれない。イニシャルも同じ
画家を引用して、印象鮮明な作品。句集『感謝』より抄出。(Midori)

2013-03-25 | Weblog
   鰐の全長さくらの国を歩むなり     菅原鬨也

具体的な鰐の全長が示されているわけではないが、「鰐の全長」という措辞によって想像される鰐の大きさは、決して小さなものではないだろう。一方で、鰐が日本全土の縮図をゆっくりと北上しているかのような錯覚を覚えるのは、日本という国を象徴的に捉えた「さくらの国」がそう感じさせるのかもしれない。中生代三畳紀より現存し、世界の熱帯、亜熱帯地方に生息しているはずの鰐が、桜の国を歩いているという意外性に、日本が、世界に誇る桜の美しい国であったことを、改めて気づかされた。第4句集『琥珀』より抄出。(Midori)

三鬼の忌

2013-03-24 | Weblog
三鬼の忌裸紙幣をポケットに    千田一路

四月一日は、三鬼の忌。
彼のダンディな風貌から、ポケットから取り出す紙幣は、
財布に畳まれたものでなく、裸紙幣でなくては始まらない。
2013年版「俳句年鑑」より抄出。(Midoir)

雪女

2013-03-23 | Weblog
雪女不意にまはりし換気扇     鈴木幸子

「不意にまはりし換気扇」という生活の中で捉えた一瞬が、
「雪女」を配して、ぞくっとする生々しい感覚を得た。
何でもない日常と雪女の取り合わせによって句となった。
「滝」3月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

冬の蝶

2013-03-22 | Weblog
冬の蝶異界に続く槇の洞     畑中伴子

人、一人くらいは簡単に入れそうな洞はよく見かけるが、
大抵、老木で、いかにも異界へと続きそうだ。
まるで『不思議の国のアリス』のような、ファンタジックな
世界が広がり、冬の蝶がひらひらと案内してくれるのだろうか。
物語性のある作品に、想像の世界が広がる。
「滝」3月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

久女の忌

2013-03-21 | Weblog
  久女忌のピントの合はぬ眼鏡かな    中井由美子

杉田久女というと、女流作家の先駆者であり、彼女の斬新な作風は、今も尚、女性の共感を得るが、夫の理解を得られず、師の高浜虚子にも疎まれ、狂気のうちに亡くなってしまう。もし、久女が生まれた時がもう少し遅かったら・・・。ピントの合わない眼鏡を通して見えて来たものは、久女が生きた時代。ピントが合わないのは眼鏡ではなく、時代だったのかもしれない。「滝」3月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

言霊

2013-03-20 | Weblog
雪降れりヘッドフォンよりジャズ流れ
行間に還る言霊冬の雷
冬薔薇や胸の奥処の免罪符
セーターの旅の記憶をたたみけり     平川みどり


*「滝」3月号〈滝集〉に掲載されました

初稽古

2013-03-19 | Weblog
初稽古水平線に乱れなし    酒井恍山

初稽古は、剣道などの武道だろか?
武道にとって何よりも重要なことは、集中力や精神力。
この日の海は作者の心のように穏やかで少しの乱れもなかったのだろう。
「水平線に乱れなし」に、初稽古への気合と集中力が感じられた。
「滝」3月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

木の芽

2013-03-18 | Weblog
  みづうみの風仏性の木の芽立つ     菅原鬨也

作品全体に流れるのは早春の透明感。清浄なる「みづうみの風」が吹き抜ければ、たちまちにして万物を浄化してしまうような感覚を覚えるからだろうか。そんな清らかな水辺にあって、仏性の木の芽が立つという。仏性の木の芽は、一つひとつが空に向かって立ち、やがて木の芽が膨らみ始めれば、小さな光を宿すことだろう。「滝」3月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

冷たし

2013-03-17 | Weblog
身支度の最後冷たき腕時計     西山 睦

冬の身支度は、服を重ねるごとに暖かさを増し、
コートを着れば、防寒もほぼ完璧となる。
しかし、時間に正確な日本人であれば、腕時計は、
欠かすことのできない必須のアイテムだ。
身支度の最後に身に着けた腕時計の冷たさは、
無機質な時間というものの具現であるように思えた。
「俳句」3月号より抄出。(Midori)

木蓮

2013-03-16 | Weblog
たちまちに木蓮の飛び去りにけり    鈴木章和

木蓮の蕾は、みな空を向いているのが特徴。
固く閉ざされた蕾が少しずつ開き始めると、
今にも飛び立つ容に、咲き揃う。
「木蓮の飛び去りにけり」に納得してしまった。
「俳句」3月号より抄出。(Midori)

獅子舞

2013-03-14 | Weblog
虚空嚙む獅子舞の口かつかつと    今井 聖

獅子に頭を嚙まれると、その年は無病息災で元気で過ごせるというが、
虚空を嚙む獅子舞は、何を退治しようとしているのだろうか。
昨今の大気汚染を考えると、「かつかつと」の音が空しく響いてきた。
「俳句」3月号より抄出。(Midori)