十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

小判草

2009-07-31 | Weblog
小判草収支はいつも曖昧で    西 美愛子
                             「阿蘇」8月号 <雑詠>
小判草ってどんな花だろうかと思っていたら、なるほど納得の草花だった。
明治の初めにヨーロッパから渡来した鑑賞用の花というから驚きだ。収入
と支出・・・、支出が収入を越えると大変だが、収入に見合った生活という
ものは、不思議と身についているものだ。「収支はいつも曖昧で」の気楽さ
が、小判草との配合の俳諧味とともに心地よく伝わってきた。
作者は、「ホトトギス」「阿蘇」同人。(Midori)

万緑

2009-07-30 | Weblog
万緑やなほ多感なる手を洗ふ   西村孝子
                             「阿蘇」8月号 <雑詠>
見渡す限りの緑、その生命力の横溢する「万緑」の中に居れば、きっと誰で
も、心身に新たな活力が漲ってくるのを感じるだろう。「なほ」とあるので、
多感な年齢はすでに超えているのかもしれない。しかし、「なほ多感なる手」
は、自然との触れ合いを求め、人との出会いを求めているのだ。類を見ない
作品は、今月、俳誌「阿蘇」8月号の巻頭となった。 (Midori)

青鷺

2009-07-29 | Weblog
青鷺の鳴いて野生の河となる    岩岡中正
                              「阿蘇」8月号 <近詠>
青鷺は、日本に分布するサギ類の中では最大種のものとされる。和名「アオ
サギ」のアオは古語で灰色のことを指し、英名でも"Grey Heron"(灰色のサ
ギ)と呼ばれる。青田や水辺に立つ青鷺の姿は、どこか何をも寄せ付けない
ような風格すら感じられる。そしてその濁った大きな鳴き声に、あたり一面が
一瞬にして野生と化してしまう・・・。「野生の河となる」に原初の生命が蘇る
瞬間の躍動を覚えた。岩岡氏は、「ホトトギス」同人。「阿蘇」主宰。(Midori)

サングラス

2009-07-28 | Weblog
祈るとき胸の谷間にサングラス    鷹羽狩行 
                               
「イサク大聖堂」の前書きがあり、ロシアでの海外詠である。サングラスは、夏の
強い紫外線から目を守るための眼鏡だが、北欧の人にとっては生活必需品だ。
一時、サングラスを外して、祈りを捧げている一人の女性。「胸の谷間に」とは
思い切った表現だが、それだけに鎮魂の思いを深くした。8月は終戦の月・・・。
「俳句」2007年8月号特別作品38句「白夜」に所収。(Midori) 

山梔子の花

2009-07-27 | Weblog
さみどりの渦くちなしの香のほどけ    河野美奇

くちなしは、白色の六弁の花を咲かせ、清々しい香を放つ。「さみどりの渦」
で切れる、いわゆる胴切れの句であるが、「さみどりの渦」が、大きくクロー
ズアップされている。そして解けてゆくのは、「くちなしの香」なのだ。「香の
ほどけ」の余韻のある下五に心憎いばかりの詩情を感じた。
河野氏は、「ホトトギス」同人。(Midori)

西日

2009-07-26 | Weblog
西日家族督促状のひらひらす    守屋明俊

「西日家族」は造語だと思うが、太宰治の小説、『斜陽』から生まれた
「斜陽族」を思い出させる。しかし、決して暗さを感じさせるものではな
く、どこか可笑しくもある。西日の当たる部屋で、督促状が風でひらひ
らしている・・・。そんな情景が、日常として淡々と詠まれる俳諧味は、
何かを超越した感さえある。守屋氏は、「未来図」編集長。
第一句集「西日家族」に所収。「平成秀句選集」より抄出。(Midori)

現の証拠

2009-07-25 | Weblog
現の証拠通潤橋の解剖図    今村潤子

通潤橋は、阿蘇外輪山の裾野にある水を渡す水路橋である。極めて重要な
建造物と認められ、昭和35年に国の重要文化財にも指定されている。解剖
図によりその逆サイフォンの原理が説明されているが、まさに解剖図が何よ
りの「現の証拠」だ。しかし、この現の証拠は、煎じて飲めば特効があるとい
われる薬草なのだ。季語の遊び心に作者の感性の豊かさが伺えた。
第2句集「秋落暉」より抄出。「未来図」所属。(Midori)

向日葵

2009-07-24 | Weblog
ひまはりの王者たりしがうつむけり     辻 美奈子

向日葵は、太陽の動きにしたがって回ることから、その名があるが、開花していま
うと東を向いたまま動かない。夏を代表する花であり、まさに「花の王者」の貫禄
だ。ところが、よく見ると、その重さのためか、確かに俯いている。向日葵が作者
の目を通して軽やかに詠まれているが、何かしらアイロニーも感じられた。作者は、
昭和40年生れ。「沖」同人。平成17年俳人協会新人賞受賞。(Midori)

夏の川

2009-07-23 | Weblog
夏河を越すうれしさよ手に草履   与謝無村

着物の裾を端折って、夏の川をざぶざぶと越えてゆくさまが、何とも豪快で、
涼しげだ。水嵩を増した川の深さは膝頭ほどで、水の流れも早いのかもしれ
ない。草履を履いたままでは、何とも心もとなく、草履を手に持って素足で
川を越えてゆく。川底の小石の感触も気持ちよく、冷たい水しぶきも時折か
かり、すっかり童心に返っている蕪村だ。 (Midori) 

ハンカチ

2009-07-22 | Weblog
今日のこと今日のハンカチ洗ひつつ   今井千鶴子

その日のためにお気に入りのハンカチを選ぶことは、今日という一日の始まりでも
ある。ハンカチは、一日のいろんな場面で取り出され、そして畳まれ、再び取り出
されては、畳まれる。ハンカチが、くたくたになって一日を終えるとき、ハンカチを洗
う作者が、今日一日の出会いが素敵だったと思えたら最高の幸せだ。
「ホトトギス」平成15年11月号1283号より抄出。

香水

2009-07-21 | Weblog
香水や時折キツとなる婦人    京極杞陽

上五の「香水や」で切れているので、意味上ではここで切断されている。
しかし、「時折キツとなる婦人」が香水をつけていることは、確かなようだ。
つまり、「香水」が、一つの女性像をイメージするのに、大きく関わっている
ということだ。少々気が強くてナマイキな美人・・・。京極氏は、明治41年
生まれ。「ホトトギス」同人。終生、虚子を師事した。(Midori)


夕焼

2009-07-20 | Weblog
慟哭のごと大都会夕焼けたり    奥坂まや

大都会の夕焼けを、「慟哭のごと」という大胆な比喩。
大都会の喧騒と孤独、何もかもが夕焼けに染まる時、
作者にとって、大都会が慟哭しているように見えたのか・・・
「慟哭」「大都会」「夕焼け」と、どれも大きな措辞を配置して、
大きく詠まれた作品。作者は、「鷹」同人。

アマリリス

2009-07-19 | Weblog
一度きりの生を純白アマリリス   花谷和子

アマリリスと言えば、一般的に真っ赤な花を想像するが、時折見かける、白
いアマリリスもまた格別の美しさがある。「一度きりの生を」とあれば、決して
肯定的な意味ではなさそうだ。「純白」は、自己投影された思いなのか、ある
いは何色にも染まらず咲き続ける白いアマリリスへの思いなのか・・・。省略
の効いた作品はそれだけに想像がふくらむ。「俳句」平成20年7月号より抄出。
作者は、大正11年生れ。「藍」創刊主宰。(Midori)

牛蛙

2009-07-18 | Weblog
牛蛙闇がぶよぶよしてきたる    原 雅子

牛蛙は、ブオーブオーという牛に似た鳴き声が、名前の由来になっている。
しかし、鳴き声はよく耳にしても、その姿はあまり目にしないような気がす
る。闇の底から聞こえてくる牛蛙の鳴き声に、「闇がぶよぶよしてきたる」
とは、言い得て妙。闇に、こんなオノマトペがあったとは悔しくもなる。
「俳句」7月号より抄出。作者は、「梟」「雁坂」同人。(Midori)

空蝉

2009-07-18 | Weblog
空蝉の増えてくすぐつたき一樹   佐久間和子

長い梅雨が明けたかと思うと、待っていたかのように、蝉が鳴いている。
数十年以上を地中で生活していた蛹が木に登り、つぎつぎと羽化して、
わが夏とばかりに鳴きはじめる。一本の木のあちこちに、残された蝉の
抜け殻に、「くすぐつたき一樹」とは、アニミズムの世界を見ているようで、
とても楽しくなる。視線を変えた空蝉の詠み方に、共感を覚えた。
句集「霧の音」より抄出。作者は「阿蘇」所属。(Midori)