十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

2009-05-31 | Weblog
もののふの死してのこせし大桜    村上惟輝 
                               「阿蘇」6月号 〈雑詠〉
南阿蘇の「一心行の大桜」だろうか。平成16年の台風のため樹形が変わっ
たとはいえ、樹齢400年の美しさは新聞等で毎年報道されている。薩摩軍と
の戦い敗れた南阿蘇の城主とその家臣を偲んで植えられたという桜だ。
「もののふの死してのこせし」に、戦国の世を生きた武将たち・・・、そして時を
超えて咲きつづける大桜に鎮魂の思いを深くした。
この大桜の作品は、今月号「阿蘇」の巻頭となった。(Midori) 

白牡丹

2009-05-30 | Weblog
かく深く妻を愛して白牡丹     岩岡中正
                            「阿蘇」6月号 〈近詠〉
先日、知人の結婚披露宴で読み上げられた新婦の手紙を思い出す。
それは、「お父さんは、いつもお母さんのことを『愛しているよ』っていつも
言っていましたね。私もそんな家庭をつくりたい」というような内容だった。
新婦の母は、車椅子の夫にずっと付き添っていらっしゃった。掲句は、
赤星水竹居が、妻のために八代市に建立した観音堂で詠まれた「阿蘇」
主宰の一句だ。白牡丹に、自己投影された情愛が感じられる。(Midori)


撒水車

2009-05-29 | Weblog
世直しの如く撒水車が行くよ    加藤静夫

撒水車が、舗装道路いっぱいにゆっくり通り過ぎてゆく。
通り過ぎたあとの水で洗われた道路は、涼しげで気持ちがいい。
まるで世直し奉行を見送っているような、「行くよ」の口語体は、
童心に返って、心まで洗われるような気がする。
撒水車を「世直しの如く」と捉えた独自の感覚が魅力的な作者は、
第48回角川俳句賞受賞者。(Midori)

*第一句集、『中肉中背』より抄出。

噴水

2009-05-28 | Weblog
噴水の向かうの事件見てゐたり   辻内京子

噴水はビルの玄関口だったり、公園の中央にあったり人の行きかう場所に
よくあるものだ。噴水の向こう側とこちら側、横を通り過ぎる人たち・・・
噴水は見るものというより、案外見ていない装置なのかもしれない。「噴水」
そのものを詠むのでなく、噴水の「向かうの事件」を詠んだ視点の意外性。
事件と言っても、いろいろだ。これからの展開がおもしろそうだ。(Midori)

*句集『蝶生る』(俳人協会新人賞受賞)より抄出。


2009-05-27 | Weblog
藪っ蚊に妻は喰われてしまいけり   前田吐実男

蚊に刺されやすい人と、蚊に刺されにくい人がいるらしいが、
蚊は、二酸化炭素や汗を感知して血を吸いにやって来ると聞く。
「妻は喰われてしまいけり」の投げやりとも思える冗漫な表現が、
一句に俳諧味を与えている。夫である作者の情を交えない客観
写生がとてもユニークな作品だ。(Midori)

*角川学芸出版「俳句手帖」平成20年より抄出。

蝸牛

2009-05-26 | Weblog
逝きてより謎めく夫やかたつむり   上田禎子

きっとカタツムリのような男性だったのだろう。
寡黙で、どこか不器用で・・・。でも、
それは家庭の中で見ていた夫の姿にすぎなかったのだ。
意外な夫の一面に、謎は深まるばかり。
配合された季語、「かたつむり」に想像が膨らむ。

*「俳句」平成20年8月号より抄出。「ににん」所属。

若夏

2009-05-25 | Weblog
わたくしの中で若夏水位あげ   岸本マチ子

若夏の語感の力だろうか。
青葉若葉の夏、「わたくし」という生命体の細胞膜の
浸透圧がぐんぐん上がっていく感覚・・・。
ニライカナイに大輪の花が、咲きそうだ。

*句集「通りゃんせ」より。作者は「海程」同人。

焼酎

2009-05-24 | Weblog
馬刺うまか肥後焼酎の冷やうまか  鷹羽狩行

米焼酎のルーツは、球磨人吉地方であるらしい。米による贅沢な焼酎造りが
生まれたのは、かつて人吉相良藩が余剰米によって造ったのがはじまりだと
か。一般に挨拶の作品は難しいと言われているが、火の国熊本への挨拶句
として、「うまか」「うまか」のリズムのよさが、いかにも美味しそうに響く。
馬刺しと焼酎の取合せが、とりわけ食欲をそそる。(Midori)

夕顔

2009-05-23 | Weblog
夕顔に闇の一夜は悲しけれ    三串筆子

夕顔は、その名の示すとおり夕方に開き、朝には萎んでしまう花だ。月の夜
であれば、その白い花は一層の妖艶さを誇ることだろう。しかし月のない闇の
夜だとしたらどうだろうか・・・。一夜しか花を咲かせることのできない夕顔はど
こか寂しい。『源氏物語』の夕顔を偲ばせるような物語性のある作品に、作者
の優しいまなざしを感じた。(Midori) 

*句文集「芙蓉」より抄出。作者は「阿蘇」所属。

青蜥蜴

2009-05-22 | Weblog
青蜥蜴草に刃物のにほひ曳き    金崎久子

青蜥蜴の美しさは、美しいだけに一層不気味でもある。長い尻尾は
切れるとすぐに再生するという習性もまた、不気味さの要因なのかも
しれない。俳句の比喩には、「如し」「ように」のような直喩と、上の句
のような断定による暗喩に分かれる。「刃物のにほひ曳き」の視覚的に
感受された匂いに、作者の卓越した感性が窺われた。(Midori)

*角川学芸出版、平成20年「俳句手帖」より

滴り

2009-05-21 | Weblog
滴りを見つめて上下する目玉     菊田一平

滴りは、山の岩壁などの水滴が一定間隔で落ちるさまを言うのだろう。
水滴が次第に膨らみ、やがて雫となって落ちる単純な繰り返し・・・
なのに、ついつい見つめてしまうのは誰でも同じらしい。目玉だけを
動かせば足るほどの滴りに、「目玉」が大きくクローズアップされる。
上下する「目玉」の即物的な写生がとてもユニークな一句。(Midori)

*第2句集 「百物語」より抄出

涼し

2009-05-20 | Weblog
続柄本人と書く涼しさよ    加藤静夫 

続柄は、親族の関係を記すもので、二女であったり、母であったり
いろいろだ。時に、「本人」と書くときの何かしら感じる思い・・・
それは、私が「私」であることの爽快さ、だったのだろうか。続柄を
「本人」と書くことの可笑しさ。その微妙な心理をうまく詩にした。

* 平成20年刊行第一句集「中肉中背」より

代田

2009-05-19 | Weblog


ひたひたと星出てきたる代田かな    和田耕三郎


畦を刈ったり焼いたり、そろそろ田植えの準備がはじまりそうだと思っていると、
いつの間にか、満々に水が張られ、蛙もうるさいほど鳴いている。代掻きが終わ
って、準備万端の代田を見ていると不思議な安堵感を覚えるのは農業従事
者だけではなさそうだ。星の出てくる様を、「ひたひたと」と捉えた感覚。代田で
でなければ考えられないオノマトペの効果は大きい。(Midori)

*角川学芸出版「俳句手帖」(夏)より


春の闇

2009-05-18 | Weblog
雛の前胸の記章をはづしけり
下萌やヘリコプターの救助隊
金泥の扉のなかの春の闇
ジーンズの膝畏まる誓子の忌
   平川みどり

☆俳句雑誌「滝」に4句掲載されました。

虚子忌

2009-05-17 | Weblog
虚子の忌の鎌倉雨となりにけり    山田通子
                               「滝」5月号<滝集>
虚子が、1959年4月鎌倉の虚子庵に永眠して、今年は五十年になる。毎年
4月8日、鎌倉の寿福寺本堂では法要が営まれていると聞くが、ちょうど雨の
鎌倉となったのだろう。虚子の花鳥諷詠の世界は、宇宙や万物の造化への
畏敬、尊敬に基づく世界観だという。平明で余韻のある一句に、虚子の俳句
精神が慈雨となって今に継承されていくのを感じた。(Midori)