十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

海ほほづき

2008-08-31 | Weblog
熟田津の海ほほづきを鳴らさばや    大野崇文
                                   「俳句」9月号
「熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかないぬ今は漕ぎいでな」
熟田津といえば、すぐに思い出す万葉集の歌だ。
海ほほづきを鳴らしたいなあ・・・と逸る作者の心は、童心そのものだ。
詠嘆を表す助詞「ばや」により、勢いもある万葉風な一句となっている。

颱風

2008-08-30 | Weblog
地球儀ににつぽん細し颱風季    井出千二
                              「俳句」9月号 <結社歳時記>
ここに手のひらに乗るほどの地球儀がある。くるりと回してみた。
日本は、北半球、北緯20度から45度のちょうどいい場所に位置する、
ユーラシア大陸の東側に、細く連なる列島だ。
やがて赤道に生れた熱帯低気圧が台風となって日本に向ってやって来る。
経済大国ニッポンもますます細る思いだ。

灯下親し

2008-08-29 | Weblog
灯下親し読むにはあらぬ調べもの   島谷征良
                                 「俳句」9月号
気にかかる調べものがあると、見つかるまで資料は山と積まれてゆく。
さしずめ、俳誌に句集、俳句年鑑の類だろうか・・・
“探しものはなんですか、見つけにくいものですか~♪”の陽水の歌を思い出す。
「読むにはあらぬ」が、確かにいい得て妙だ。
動詞が多い作品ながら、リズムのよい作品となっている。
島谷氏は、昭和51年「一葦」を創刊。主宰。

新米

2008-08-28 | Weblog
新米を月のひかりで洗ひをり    山崎十生
                              「俳句」9月号<私の一句>
月のひかりで洗われる新米は、神々しい光を帯びはじめる。
母なる大地と造化の神が創りあげたものへの畏敬の思いだろうか・・・
「怪奇な映像として表現したいと思っていた」と自解にあるように、
研ぎ澄まされた感覚が、日常の次元をはるかに越えて、不思議な世界を創っている。
山崎氏は、「紫」主宰。

2008-08-27 | Weblog
鯖の斑に若狭の秋を思ひをり    赤尾冨美子
                              「俳句」9月号 <結社歳時記>
若狭といえば日本海に大きく陥没したリアス式海岸で有名な良港だ。
秋は、日本近海の魚が最高に美味しくなる季節・・・
漁港は大漁旗で活気づき、威勢のよい声も飛び交っている。
「若狭の秋」という「あ」の韻を踏んだリズムのよい固有名詞が、とびきり清々しく響く。
鯖の斑に焦点を絞られ、ここから想像はどんどん広がって行く。

大花野

2008-08-26 | Weblog
大花野地球自転の風たちぬ    津川絵里子
                              「俳句」9月号 <結社歳時記>
地球は、約1400kmのすごいスピードで自転している。
大花野の真ん中に立って両手を広げれば、自転の風を感じることができるかもしれない。
そして、やがて私は地軸となって大花野が回りはじめるのだ。
第53回角川俳句賞受賞作品にはないスケールの大きさを感じた。

月光

2008-08-25 | Weblog
月光やピカソ孤独を青に込め     中村君永
                               「俳句」9月号 <結社歳時記>
20世紀を代表するスペインの画家、パブロ ピカソ。
孤独や絶望をテーマにした「青の時代」は、ピカソ自身も貧乏を極めた時代だった。
月は、そんな孤独の輪郭を映し出すように煌々と輝き、
孤独な心は、月光に充たされてゆく。
ピカソのシュールな世界は、月光とよく響き合う。

ひぐらし

2008-08-24 | Weblog
ひぐらしや暗闇なれば手をつなぐ    森賀まり
                                  「俳句」9月号 <扉作品>
カナカナと軽やかな音色は、透明な空気感とともにあわれを感じさせる。
「暗闇」の概念が、作者の心象風景と重なり、二面性をもつ作品となり、
甘くなりがちな表現が抑制され、読むものに淡い感慨をもたらしている。
「とらえにくい曖昧なものに言葉をみつけたいとずっと思ってきた」と、
語る作者は、2004年に45歳で早世した田中裕明の妻、そして「百鳥」同人。

サフラン

2008-08-23 | Weblog
サフランや印度の神は恋多き   正木ゆう子

魅惑的な香りと独特の風味を持つサフランは旧約聖書の中で
「芳香を放つハーブ」として記されている。
また、古代インドではサフランから染料を作り、ブッダの死後は、
仏僧の職服をサフラン色に染め上げたという。
かつて、スパイスをめぐった戦争は世界の歴史を変えた。
恋多き印度の神は、歴史をどのように塗りかえたのだろうか・・・

2008-08-22 | Weblog
寂しいと言い私を蔦にせよ    神野紗希

命令形の詩形に、思わずたじたじとなる。
「蔦にせよ」の、比喩的表現に作者の意外な一面を見る思いがした。
果たして、能動的なのか受動的なのか・・・
どちらとも言えない情愛を感じさせる、大胆な構図は、
蔦の色彩をますます艶やかなものにする。
作者は、NHK衛星放送「俳句王国」司会者。
信条は、「私に嘘をつかないこと」だと言う。

鶏頭

2008-08-21 | Weblog
鶏頭も墓も根づいてをりしかな    守屋明俊

鶏頭と墓が同列に扱われた作品に、一瞬どきっとする。
「根づいて」がすんなりと違和感なく納得できるのは、素材の持つ特質だろうか。
鶏頭の生々しい存在感、そして鶏頭の赤に、脈々とつながって行く「生命」を感じた。
守屋氏は、「未来図」編集長。

2008-08-20 | Weblog
天空に月ひとつわが受精卵   辻 美奈子

月は、地球の周りを約27.3日で公転する地球の唯一の衛星だ。
また、潮の満ち引きを起こしている月の重力は、地球上の生命体の
バイオリズムにも影響を及ぼしていると言われる。
28日の理想月経周期で訪れる排卵、そして受精の神秘・・・
「月」と「受精卵」は、宇宙のロマンと胎内のロマンとも思える見事な対比だ。
作者は「沖」同人。平成秀句選集より引用。

秋螢

2008-08-19 | Weblog
今生の狂ひが足らず秋螢   手塚美佐

世の中の「常識」という呪縛に気づかないままにいたことに呆然とする。
価値観も多様化し、アイデンティティの確立も容易な時代となった昨今、
現代を生々しく生きるためには、「狂ひ」は必要なのか・・・
目的に向って「狂う」ことは、呪縛から解放された自己の確立につながる。
秋螢に、自己投影された魂を見る思いがした。手塚氏は「琅玕」主宰。

踊る

2008-08-18 | Weblog
炎を上げてうなじを細く踊るなり   菅原鬨也
                               「滝」6月号<飛沫抄>
火は古代より神聖なものとして神事には欠かせないものだった。
邪馬台国の女王、卑弥呼はシャーマニズムにより国を支配したが、
巫女的性格だった卑弥呼は、生涯夫を持つことはなかった。
主宰のこの一句に炎の中で祈る卑弥呼の姿を見たような気がしたのは、
「うなじを細く」に、祈りにも似た陶酔感を覚えたからだろうか・・・。

初紅葉

2008-08-17 | Weblog
初紅葉天為しづかにありにけり   荒牧成子

初紅葉に気づいた作者の小さな驚きと感動。
「初紅葉」が造化の神の仕業だとする天為は、すなわちアニミズムにも通じる。
大自然への畏敬の念を深くし、人間もまたこの天為に生かされていることに気づかされる。
「しづかにありにけり」と語り、余韻のある静謐な作品となった。
作者はホトトギス同人。「阿蘇」NO.907巻頭作品。