十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

花茨

2014-07-31 | Weblog
花茨独りになりしとき匂ふ      井芹眞一郎

世の中が複雑になればなるほど、身の回りにはさまざまな音や物が溢れ、逆に聴覚や視覚などの五感は次第に鈍感になってしまう。それは情報とて同じ。様々なメディアから繰り返し発信される情報に、漠然とした不安感さえ、いつか麻痺してしまいそうだ。掲句の「独りになりしとき匂ふ」にそんな思いがふと頭を過った。「阿蘇」8月号より抄出。(Midori)

金魚

2014-07-30 | Weblog
朱は水ににじむことなき金魚かな
カーテンを揺らす夜風や業平忌
さくらんぼ素直になれば出る泪
ここからは手を振る別れ栗の花     みどり


*「阿蘇」8月号、岩岡中正主宰選

小さなプールのような水槽の中、真っ赤な金魚が擦れ合うほどに、
たくさん集まって来たときの驚きは、こんな当たり前のことでした。
平安の貴公子と言われた業平様の気配が、ふっとどこかに・・・。(Midori)

山椒魚

2014-07-29 | Weblog
はんざきのやうに目覚めて隠岐にあり      岩岡中正

目覚めは、その日その日の体調はもちろん、場所や環境によっても随分と違うものだろう。さて、目覚めを「はんざきのやうに」と、山椒魚の姿や動きに託された比喩は、自嘲とも思えるが俳味たっぷり。しかし、隠岐という歴史的にも著名な地に目覚めた作者の感慨は大きい。隠岐に生息する山椒魚がいると知れば、隠岐という地への挨拶の心であったのかもしれない。「阿蘇」8月号より抄出。(Midori)

誘蛾灯

2014-07-28 | Weblog
誘蛾灯ジジとう音は自死の音     尾秀四郎

害虫の駆除のためだけでなく、夜間に人が集まるところにも誘蛾灯は設置されている。青白い光に狂ったように集まる虫たちが焼かれる、「ジジ」という音。「ジジ」というオノマトペは、「自死」にも通じていた。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

向日葵

2014-07-27 | Weblog
向日葵はゴッホを知らず咲き競ふ     行川行人

向日葵を見れば、ゴッホを思い出すほど、向日葵はゴッホのものとなってしまった。一方で、向日葵はゴッホ知らないということが、ちょっと納得が行かない。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

空蝉

2014-07-26 | Weblog
空蝉をはづすに少し力要る     安倍真理子

空蝉は、蝉の抜け殻であるから、脆いものであるという想像は簡単につく。木にしがみついている空蝉を外すには、いくらかの力は必要だが、かと言って力を入れ過ぎれば毀れてしまう。「少し力要る」の力は、そんな微妙な力加減の難しさも含まれていそうだ。「俳句」平成22年7月号より抄出。(Midori)

梅干

2014-07-25 | Weblog
梅干せる笊やバイクの荷台にも     小澤 實

「バイクの荷台にも」とあるだけで、梅を並べた笊が、庭一杯に広げられている様子が見えて来る。風通しのよいところであれば、どんな所でも梅が干されているのだ。梅雨明けのこの時ばかりは、梅が庭を占領してしまうのは仕方がない。「バイクの荷台にも」という具象の力は大きい。「俳句」平成22年10月号より抄出。(Midori)

花火

2014-07-24 | Weblog
少年にロケット花火すぐ終る      内田美紗

ヒュンと音を立てて、一気に空へ上がるロケット花火は、最も人気のある花火だった。確かに一瞬で終わってしまう花火ではあるが、ロケット花火を手にして、火をつけるまでの一連の昂揚感を思えば、この一瞬こそが少年にとって魅力なのだ。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

キャベツ

2014-07-23 | Weblog
等分のキャベツに今日と明日が出来      いのうえかつこ

堅く結球したキャベツを等分に切れば、等分のキャベツはそれぞれ同じであるはずだが、「今日と明日が出来」とは、何と創造的だろうか。今日の分、明日の分というような現実的な側面ではなく、単にキャベツに与えられた「今日」と「明日」が、妙に嬉しくなるから不思議だ。「俳句」平成24年6月号より抄出。(Midori)

金魚

2014-07-22 | Weblog
追伸に記す金魚のその後かな      阿久津 学

昨年、金魚掬いに久しぶりに挑戦したが、一匹も掬えずにウエハースのカップは無惨にも破れてしまった。それでも2匹の金魚を貰って帰ったが、部屋の中に動くものがいるということは、新鮮な驚きだった。さて、金魚に関わって共通の出来事があったのだろう。追伸は、手紙やメールの最後に付け加える短い文。追伸に記された金魚のその後は、読者の想像に任されている。「俳句」平成23年1月号より抄出。(Midori)

短夜

2014-07-21 | Weblog
短夜の夢にうつつの腓返り       行方克巳

短夜の夢を惜しむように眠る作者に、「腓返り」という現実は、容赦ない。
2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

炎帝

2014-07-20 | Weblog
炎帝よ飛込台で待つてをれ      大木あまり

炎帝への挑戦状であるが、その場所が、「飛込台」とは何とも勇ましい。
奇抜な発想に、夏負けなどしてはいられない気分にしてくれる。
「俳句」平成25年9月号より抄出。(Midori)

プール

2014-07-18 | Weblog
上がるとき我を引きずるプールかな     佐藤郁良

プールの縁に両手を掛けて、威勢よくプールから上がる瞬間。
視線の角度が変えた、「我を引きずるプールかな」の把握が見事。
2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

水鉄砲

2014-07-17 | Weblog
汲みにゆく水鉄砲の弾の水      柏原眠雨

記憶している水鉄砲は、中に蓄えられた水を威勢よく飛ばす玩具だったと思うが、「鉄砲」と名がつく限り、水鉄砲の「水」は、水鉄砲の「弾」であるに違いない。「鉄砲の弾」というどこか言葉のきな臭さを楽しんでいるのは、作者の中の少年だろうか?2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)