十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

秋の暮

2012-10-31 | Weblog
門の内あれば外あり秋の暮    山根真矢

「門」というものが、最も意識されるのは、秋の暮だ。
門に辿り着いたときに感じる社会からの解放感。
何気ない一句にしみじみとした秋の情感はあるもの。
門の内の温みが恋しくなる季節になった。
2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

返り花

2012-10-30 | Weblog
ふところといふが山にも返り花   いのうえかつこ

山懐の南斜面は、風もなく陽だまりになっているところだ。
そこで、返り花に気付いた作者。思わず出てきた言葉が、
「ふところといふが山にも」という飾らない感慨だったのだろう。
返り花が、南斜面の山懐に咲くのだと改めて知った。
2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

葛の花

2012-10-29 | Weblog
葛の花プラットホーム白く暮るる   渡辺登美子

在来線のプラットホームだろうか?
あまり人影もない無人駅かも知れない。
プラットホームだけが、夕闇に白く浮かんで見えるのだ。
石巻で被災された作者。いまだ復旧が進まない路線かも知れない。
生命力のある葛の花が対照的に置かれ、時の経過の非情を思った。
「滝」10月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

夕立

2012-10-28 | Weblog
西郷の犬の身ぶるひ大夕立    外崎光秋

西郷さんの銅像は、実は本人ではなく弟だとか?
しかし、薩摩弁に似合う顔と言えば、やっぱりあの顔。
さて、激しい夕立に西郷さんの犬が身震いしたのだ。
確かに白雨ともいう大夕立ではそう見えたことだろう。
最近では、日本の世界情勢に身震いしている西郷さんの犬かも?
「滝」10月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

落鮎

2012-10-26 | Weblog
落鮎や生家は風の音ばかり    菅原  祥

かつて生家は、人の声はもちろん、いろんな生活の音で、
賑わっていたのだろう。しかし今では、住む人も少なくなって、
家を手入れすることもないままになっているのだ。
「落鮎」が配されて、荒涼とした寂しさが伝わってきた。
「滝」10月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

はまなす

2012-10-25 | Weblog
玫瑰やトランペットの反射光    内山貴美子

海に向かって、トランペットを吹く姿を、
「海」とは言わずに、こう詠んだ作者。
海光を反射するトランペットのシルエット、
哀愁のあるその音色・・・。季語、「玫瑰」の選択によって、
物語性のある作品となっている。
「滝」10月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

向日葵

2012-10-24 | Weblog
北を向く向日葵のあり北を見る   堀籠政彦

一瞬?と思う。北を向いて咲く向日葵などないからだ。
北には、何か特別なものがあるのかと、
思わず北を見てしまった作者だ。
「いなびかり北よりすれば北を見る」の橋本多佳子の句を、
彷彿とさせるが、実際の景だったのだろう。
「滝」10月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

月光

2012-10-23 | Weblog
    月光や紙に切り出す菩薩像     佐々木博子

一枚のまっさらな紙にハサミが入れられる。すいすいと切り取られてゆく紙は、まだどんな形も成さない。そして、現れたのは一体の菩薩像。ハサミを入れて、完成するまでの一連の緊張感が、ふっと解けた瞬間だ。一筋の月光が、菩薩像を照らし出せば、生を受けたように輝くだろう。「滝」10月号〈競詠14句〉より抄出。(Midori)

新走り

2012-10-22 | Weblog
眞向ひの山に乾杯新走り    鴨 睦子

美味しいお酒ができるのは、美しい山河がある所に決まっている。
きっと、蔵元の新酒を試しているのだろう。
誰に乾杯をするでもなくて、真向かいの山に乾杯!
空気の澄み切った只中で頂く新酒は、殊の外美味しそうだ。
「滝」10月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

流星

2012-10-21 | Weblog
一面の数式のなか星流る    石母田星人

「正しい解を導く数式というものは自ずと美しい」と、
数学の教師が言っていたのを思い出す。
自然の真理というものが、案外整然とあるからかも知れない。
それを立証するための数や記号が、一面の数式として存在して
いることを作者は知っているのだ。そこへ、ひとすじ星が流れた。
どんな数式も立てることのできない美しさで・・・。
「滝」10月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

風に

2012-10-20 | Weblog
風になりきれずに蜘蛛の囲にかかる
闇を脱ぎ月下美人の花ひらく
自動ドア大暑の空にひらきけり
耀へる水の断面金魚飼ふ      平川みどり


*「滝」10月号「滝集」に掲載されました

雪螢

2012-10-19 | Weblog
   往き往きて無名逝き逝き雪螢     菅原鬨也

「往き往きて」は、生きること。そしてエロス。途上にある多くの困難にも関わらず、往き着く先にあるものは、他者からの賞賛であるとは限らない。しかし、アイデンティティの確立は、大きな達成感となって心を満たすだろう。一方、「逝き逝き」は死。タナトス。「YUKI」のリフレインが辿り着く先は、「雪螢」となった魂。人の世の切々とした哀感が心に響いた。「滝」10月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

会ふ

2012-10-18 | Weblog
妹に会ふ日のオードトワレかな   永野由美子

久しぶりの妹との再会の日、
この日のために買い求めていたオードトワレだったのだろうか。
とびきりのお洒落に、オードトワレのほのかな香り・・・。
華やぐ装いに、妹との再会の高揚感が伝わってきた。
「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)

梅雨

2012-10-17 | Weblog
緊張のひたひたとあり梅雨の川    田中フジコ

水嵩が次第に増して、今にも決壊しそうな梅雨の川。
川を見守る視線は、不安と緊張感で一杯だ。
ひたひたと押し寄せてくるものは、川の緊張であり、
作者自身の緊張でもあるのだろう。梅雨の川の臨場感が、
生々しく伝わってきた。「阿蘇」10月号より抄出。(Midori)