十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

水の秋

2008-10-31 | Weblog
さがしあぐねてその奥の水の秋   岩岡中正
                              「阿蘇」11月号<近詠>
「虚子の花鳥諷詠論は、自然や造化に随順する安心(あんじん)の世界の創出であり、
存問とも有縁ともいうべき世界である」と、中正氏は言う。
作者が、その奥に見つけたものは、他ならぬ「水の秋」であった。
そこは、生命の神秘の源とも言える、透明で美しい水を湛えた秋だった。
自然と一体化し、自然の造化に敬虔であろうとする「阿蘇」主宰の一句だ。(Midori)

2008-10-30 | Weblog
このほど、甲南女子大学が所蔵する「源氏物語」の「梅枝」の巻が、
現存する最古級、鎌倉時代中期の写本であることが分かった。
源氏物語千年紀を迎えた2008年、空前の源氏ブームが起きているが、
その仕掛け人は何と、瀬戸内寂聴だとか?!
瀬戸内寂聴の現代語訳「源氏物語」は第2巻まで読んでギブアップしてしまったが、
寂聴の、常識にとらわれない生き方に惹かれ、彼女の小説はほとんど読んでしまった。

つま先の濡るるや月の烏帽子岳   みどり
*烏帽子岳は阿蘇五岳の一つ

無月

2008-10-29 | Weblog
大鐘に海鳴りこもる無月かな    中村和弘
                              「俳句」11月号<亡羊の嘆>
「無月」は空が曇って月が見えないことだが、特に陰暦八月十五日の月についていう。
無月の夜の何かしら芒洋たる闇に、行き場を失った海鳴りを感じた。
そして「大鐘にこもる」という感覚が実感として伝わってくる。
海鳴りのこもる大鐘を衝けばどんな音がするのだろう・・・
中村氏は、昭和17年静岡県生れ。「陸」主宰。

落し水

2008-10-28 | Weblog
どこよりも高くて落し水の村   小笠原和男
                           「俳句」11月号 <遊神>
稲刈りが近づくと田水は不要になり畦を切って用水路に落される。
長く続いた「水」との戦いは、堰を切ると同時に終わりを告げる。
そして、その夜、村には安堵の灯が点ることだろう。
「田水引く」からはじまるたくさんの季語に触れて、稲作と自然の関わりを知った。
小笠原氏は、大正13年生まれ。「初蝶」主宰。(Midori)


秋のオリオン

2008-10-27 | Weblog
八ヶ岳秋のオリオンよつん這ひ   橋本美代子
                              「俳句」11月号 <お花畑>
オリオンといえば、凍てつく空に輝く冬の星座だ。
オリオンは、ギリシア神話の巨人でいい男の狩人として知られ、冬の空に凛然として輝く。
α星のペテルギウス、β星のリゲル、そして三ツ星は誰でもすぐに見つけることができる。
八ヶ岳の稜線を昇る、四つん這いのオリオンを想像すると、とても愉快。
秋のオリオンならではの表現が上手く決まった一句だ。
橋本氏は、福岡生まれ、橋本多佳子の四女。(Midori)

稲光

2008-10-25 | Weblog
古代、稲は雷光と交わって孕みそして実を生むと信じられていた。
雷が多い年は豊作だと言われてきたのは、男性が足繁く通うほど実を結ぶ
確率は高くなるというわけだろうか。科学的には、雷放電により空気中の
窒素が酸素と結合し、植物の栄養分となる硝酸態窒素が生成されるからだ。
雷に伴う雷雨は夏の乾いた大地に恵の雨となる。
古代人が雷と稲作の間に強い結びつきを見たとは驚きだ。

稲びかりして黒潮の生まれけり   みどり

夜寒

2008-10-24 | Weblog
レポートの提出締切まで、あと三日・・・
様式はA4用紙に、MS明朝体、12ポイント
と、きっちりと決まっている。
一気に書き上げたけれど、
あと5行がどうしても埋まらない~☆  

原稿のよはく夜寒のキーボード   みどり

鬼の子

2008-10-23 | Weblog
蓑虫は、秋に木の細枝や葉を綴り合わせて蓑を作るため秋の季語とされている。
夏に羽化して蛾となるのは雄だけで、雌は一生蓑の中に棲む。枕草子43段に、
「蓑虫はいとあわれなり。鬼の生みたりければ、親に似て、これも恐ろしき心あらむとて」
と詠まれ、「鬼の子」は蓑虫の傍題となっている。
鬼は「隠(おに)」の意で、姿が見えないものとされているが、
虎の皮の褌をつけたいたずら好きな鬼の子を想像すると可愛いくもある。

鬼の子の綺羅の一糸や朱雀門   みどり

律の風

2008-10-22 | Weblog
「律の風」とは、「律の調べ」の傍題で秋らしい趣のある風を言い、大好きな季語の一つだ。
呂律の回らない・・・なんていうが、この呂律から来ている季語らしい。
呂律は、「音の調子」のことで、呂=陽、律=陰とし、季感としては、
春は陽、秋は陰であるから、秋の感じを律の調べといったものだ。
律の風に吹かれながら近くの川沿いを歩いてみた。何だか雅な調べが聞こえる気がした。

律の風遠の朝廷のいしずゑに  みどり
*遠の朝廷=とほのみかど           

返り花

2008-10-21 | Weblog
先日、九州自動車道八代ICから車で10分、句碑寺として有名な春光寺を訪れた。
正門をくぐり砂利道を抜けると、本堂北側の紅葉に囲まれた一角に、
高浜虚子、年男、汀子の親子三代句碑が庭にほぼ横一列に並んでいた。
天地の間にほろと時雨哉  虚子
句会場となった八代厚生会館では、大輪靖宏氏の「宗因・芭蕉・虚子」と題する
講義をとても興味深く聴いたが、談林派の西山宗因が八代出身と知って驚いた。

天地のささやき返り花ひとつ  みどり 安原 葉 特選

後れ蚊

2008-10-20 | Weblog
後れ蚊のうかとまどろむ本能寺    矢田 涼
                                「滝」10月号<滝集>
秋になってもなお残って刺す蚊は、執念深いようでどこか哀れでもある。
蚊は、元来4枚の翅を持つが後翅は退化してしまって飛行能力は低く、
吸血後は体が重くなるためさらに飛行速度が落ちてしまう。
「うかとまどろむ」という感覚はこのあたりから来るのだろうか。
そして、場所は本能寺とあれば、そう、うかうかとはできないではないか?!
どこか人間の本性にも似て、おかしさの中に悲哀を覚える作品だと思う。(Midori)

色なき風

2008-10-19 | Weblog
五線譜にいろなき風の音列ね   伊藤敬吾
                              「滝」10月号<滝集>
色なき風という季語は、『古今和歌六帖』の紀友則の、
「吹き来れば身にもしみける秋風を色なきものと思ひけるかな」の歌によるものだ。
色なき風の音色を五線譜に写すとしたら、どんな曲になるのだろうか・・・
セレナーデ、あるいはバラード、そんなメロディを想像した。
秋の風、色なき風が吹きぬける中、さまざまな音符が奏でるさまを思った。(Midori)

遠雷

2008-10-18 | Weblog
遠雷やスコアボードに零続く    梅森 翔
                             「滝」10月号<滝集>
野球の世界は苦手な私だけども、「スコアボードに零続く」とあれば、
両チームの実力が伯仲していることくらいは理解できる。すでに8回の表くらいだろうか、
緊張感はいよいよ高まり、チームの精神力だけが勝敗の決め手となる。
「遠雷」の季語がとても効果的に働き、一句にドラマ性をもたらしている。
雷の雲と雲の放電現象が両チームの戦いにも似ていると思うのは、考えすぎか?!

2008-10-17 | Weblog
七情を統べて大滝とどろけり   菅野明子
                            「滝」10月号<滝集>
今年の夏も、熊本県山都町に滝を見に行く機会を得ることができた。
滝の上に現れた川の膨らみは、ゆっくりと落ちながら凄い勢いで滝壺に突き刺さる。
その飛沫と轟きのなかに身を置いていると、一時、我を忘れさせてくれた。
七情は、仏教で、喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲をいうが、滝には「七情を統べる」神秘的な力、
すべてを無に還してしまうような浄化力があるように思える。
どこか観念的な句でありながら、「滝」の本質を捉えた作品に惹かれた。(Midori)