十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

摘草

2011-03-31 | Weblog
   草摘んでペンより重きもの知らず   岩岡中正

前書に「自嘲」と記されているこの一句。
言葉は、人の心を明るくし、励まし勇気を与える力を持っている。
もちろん、心ない人の「ペン」によって傷つけられることもあるかもしれない。
「草摘む」まるで遊士のような時間に、自嘲の思いを重ねている作者だが、
実際は、圧倒的な時間を「ペン」に傾けていらっしゃるはずだ。
「ペンは剣より強し」とも言う。「ペン」の重さを知るからこその一句だと思う。
「阿蘇」主宰。「阿蘇」4月号より抄出。(Midori)

牡丹雪

2011-03-30 | Weblog
てのひらに一基の牡丹雪着地    正木ゆう子

「一基」という形容が、決して大げさでなく無理なく伝わるのは、
牡丹雪の在りようが、そう思わせるのだろうか。
「てのひら」という小さなスペースへの小さな着地。
発想の斬新さに惹かれる。
「俳句」4月号「特別作品50句」より抄出。(Midori)

四月

2011-03-29 | Weblog
  胃の一部切ると決めたり四月馬鹿    吉川一竿

四月馬鹿は、エープリル・フールの訳語で、社会秩序を、
乱さない程度の嘘ならば、どんな嘘を言っても差支えないという日。
しかし、「胃の一部切ると決めた」のは、決して嘘ではないだろう。
深刻であるはずの「決心」に、「四月馬鹿」の配合・・・
不安感や迷いを、一掃するかのような作者の思いが伝わってきた。
2011年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

蝌蚪

2011-03-28 | Weblog
  蝌蚪群るるN極とS極とあり    行方克己

蝌蚪の頭の方が、N極で、尻尾の方が、S極だろうか?
水底で、素早く向きを変えるさまは、まさに方位磁石みたいだ。
句集「阿修羅」に所収。2011年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

枝垂桜

2011-03-27 | Weblog
おほぞらのひよめきしだれざくらかな   恩田侑布子

「ひよめき」は、幼児の頭蓋骨がまだ完全に接合していないため、
動脈の拍動のたびにひくひくと動くやわらかい部分だ。
「おほぞらのひよめき」という生命力を感じさせる大胆な比喩・・・
枝垂桜との壮大な構図が美しい。
句集 「空塵秘抄」に所収。(Midori)

芹摘

2011-03-26 | Weblog
芹摘みて男なんかと思うに至る   鳴門菜奈

「男なんかと思うに至る」の長々しい十四音。
それまでの作者の心の葛藤を物語るのには十分な長さだ。
「芹を摘む」ことと、「思うに至る」は直接には関係なさそうだが、
ふっと吹っ切れれば、何だって構わない。
「菜奈さん、あんなこと言ってたじゃないの。またどうしたの?」
なんてこと、きっとあるに違いない。
この世は、愛すべき男と女しかいませんから(笑)
「俳句」3月号「作品16句」より抄出。(Midori)

シリウス

2011-03-25 | Weblog
シリウスに犬の鼻先冷えてゐる    鈴木淑子

青白く輝く白色矮星、シリウス。
偶然なのか、それとも意図されたものか、大犬座のα星らしい。
「シリウス」に「犬の鼻先冷えてゐる」のちょっと気になる取合せ・・・
シリウスに対峙する犬の鼻先が、妙に神々しい。
「俳句」3月号「俊英7句」より抄出。(Midori)

春の暮

2011-03-24 | Weblog
背に老いのゆらりゆらりと春の暮   今井杏太郎

日ごろは、老いなど感じることもなかったのだろう。
しかし、ふっと老いを感じる瞬間・・・
背中は、自分では見ることのできない身体の一部分。
老いは、ゆらりと背中から来るとしたら、払いたいものだ。
「俳句」3月号「作品8句」より抄出。(Midori)

芽柳

2011-03-23 | Weblog
芽柳の遊びごころに水硬し   山田貴世

柳の枝に吹きだした、萌黄色の新芽を見ると、
まさに春を実感する。風に揺れる芽柳はすでに、
春の「遊びごころ」でいっぱいなのに、水面はまだ「水温む」
とまでは行かないようだ。季節感の多少のギャップも、
早春ならではのもの・・・。
「俳句」3月号「作品12句」より抄出。(Midori)

春蚊

2011-03-22 | Weblog
 密教の朱の柱なり春蚊出づ    石嶌 岳

密教とは、読んで字のごとく、「秘密の仏教」のことで、
秘密仏教の略称であるとも言われている。朱の柱は、
この密教の造形美術の一つでもあるのだろう。
さて、そこへ「春蚊出づ」である。
長い歴史を伝える「朱の柱」と、小さな生命体との取り合わせ。
「春蚊出づ」が、秘密めいた宗教に妙に生々しく響く。
「俳句」3月号「扉作品5句」より抄出。(Midori)

蝶の昼

2011-03-21 | Weblog
       
  
蝶の昼ちよつとずれてる周波数    後閑達雄

周波数というと、ラジオはLove FM の76.1MHzに、チャンネルを
合わせているが、Loveは「愛」ではなくて、哀しき「ゼロ」の方のLoveだ。
さて、蝶々の舞ううららかな春爛漫の昼下がり、溢れる春の陽気に、
周波数もちょっとずれてしまっているのだろう。
万物のエネルギーの横溢が、電波を妨げるのかもしれない。
感覚的な作品に惹かれた。
「俳句」3月号「作品10句」より抄出。(Midori)

木の芽

2011-03-20 | Weblog
   木の芽晴れ独りは魔風呼びやすく    手塚美佐

木の芽に春の到来の喜びを実感するが、どこか不安も付きまとう。
「木の芽晴れ」であれば、その感は一層強まるようだ。厳しい冬が終わり、
春が来たというのに、冬から脱却できないでいるのは、作者の心だ。
小悪魔な風ならばいいけれど、心に魔風を呼び込まないように、過ごしたい。
「俳句」3月号、「作品8句」より抄出。(Midori)

落葉

2011-03-19 | Weblog
敷きつめしままの落葉の日数かな    深見けん二

はらはらと落葉がはじまって、すっかり落葉してしまうまでには、
少なくとも、落葉が地に敷きつめられてゆく過程があるはず。
しかしそれから、さらなる時間の経過・・・
落葉の変わりゆく様をじっと見つめる静かなまなざしがある。
「俳句」3月号、「特別作品32句」より抄出。(Midori)

つなぐ

2011-03-18 | Weblog
楪や吾を見る目の吾に似て
つなぐ手のあれば手袋持たず行く
鎌鼬眉間に美しき皺寄せて
ジーンズの膝に毛布と堕落論     平川みどり

*「滝」3月号に掲載 

「滝」会員の皆様のご無事を心からお祈りしています。
そして、一日も早い被災地の復旧を願っています。どうか皆さま、頑張って!

鷹鳩と化す

2011-03-17 | Weblog
  鷹鳩と化す半眼の亜空間    石母田星人

七十二候の一候で、3月16日頃にあたるこの季節、
春らしい長閑な陽気に、ついうとうととなってしまう。
半眼の先に見える「亜空間」は、現なのか、それとも夢まぼろしなのか・・・
現の世界は、案外、リアリティの希薄な空間なのかもしれない。
亜空間に見える真実を見極めたい。
「滝」3月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)