十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

横顔

2014-02-28 | Weblog
着膨れし横顔戦語りだす     中井由美子

語り継いでいかなければならない戦争の記憶でありながら、戦争を語ることは、辛い記憶を辿ることであり、できることならば封印してしまいたいことかもしれない。それでも「語りだす」横顔・・・。横顔の向うにあるものは、本人だけが知る戦争のもたらした哀しみだ。「着膨れし横顔」に、戦中戦後を生きる寡黙な横顔が見えてきた。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

広びろと

2014-02-27 | Weblog
一人棲む家広びろと寒に入る      三品知司

一人になって初めて知る家の広さ。家族の思い出とともに生じる寂寥感はますます家を広く感じさせる。しかし、中七から下五にかけての詩情のあるフレーズに、どこか達観した作者の暮らしぶりが想像された。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

独楽

2014-02-26 | Weblog
音澄みて独楽の重心定まれリ      村上幸次

独楽回しは、昔から男の子の遊びだったが、何度かチャレンジした記憶がある。独楽にしっかりと紐を巻いて放っても、独楽はあっけなく転がってしまい、結局、一度も成功することはなかった。さて、掲句、重心が定まるまでの時間の経過が、「音澄みて」であり、独楽が静かに回りはじめるまでの描写が、視覚と聴覚から捉えられて見事である。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

冬菫

2014-02-25 | Weblog
耳大き人面土器や冬すみれ     今野紀美子

人面土器は、きっと誰でも作れそうな素朴な土器なのだろう。人面土器の耳に注目した作者だが、「耳大き人面土器」と表現されて、古代人の聴覚への思いの深さが想像される。人面土器の素朴な質感と土の温もりに、「冬すみれ」の配合が決して動かない。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

微酔

2014-02-24 | Weblog
十二月八日微酔のハイヒール      鈴木幸子

ハイヒールは、女性の脚を美しく見せてくれる洋装には欠かせないもの。「微酔のハイヒール」に、そんなすらりとした女性を思わせるが、女性の足元は、いくらか危なげだ。配合された季語は、十二月八日。「微酔のハイヒール」が暗示するものは、やはり、開戦の悲劇ではないだろうか。二物配合の響き合いが見事な作品である。「滝」2月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

枯尾花

2014-02-23 | Weblog
独白に了はるシナリオ枯尾花
フランベの美しき炎や三島の忌
ゆく年の車窓はなれぬ月の影
嚙み合はぬ言葉のやうに冬木の芽     みどり

*「滝」2月号〈滝集〉菅原鬨也選

大根

2014-02-21 | Weblog
大根引く穴やころがる笑声     平賀良子

大根を途中で折らずに、まっすぐに引くのは意外と難しいが、青空の下で行う大根引きは、とても楽しい。さて、大根を引けば残るのは、大きな穴。「ころがる笑声」の笑い声が、まるで大根の穴にころころと転がってゆくような錯覚を覚えてユニーク。省略の利いた生活の中のひとコマに、温かな日差しも感じられた。「滝」2月号〈瀑声集〉より抄出。(Midoroi)

冬晴

2014-02-20 | Weblog
冬晴の中央分離帯に犬      成田一子

道路を横断しようとして、横断できずに中央分離帯に閉じ込められた犬だろうか。ひっきりなしに車が上下車線を走行していれば、犬とて身動きがとれなくなってしまう。「中央分離帯に犬」という非常事態でありながら、人間社会の交通網に巻き込まれた犬が、どこか哀れでもあり可笑しくもある。犬のぼやきが聞こえてきそうだ。「滝」2月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

風花

2014-02-19 | Weblog
星間を駈ける風花したがへて     石母田星人

天馬に乗って、星間を駈ける作者だろうか。したがえる風花は、まるで彗星の尾のように煌めいているのだろう。そして、この句には、続きがあった。“風花と別れ銀河に繋ぐ馬   星人” 星間を駈けて、辿りついたところは、何と銀河だった。銀河に馬を繋ぎ、休んでいる景は、あまりにも美しい。壮大なファンタジーの世界が広がった。「滝」2月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

2014-02-18 | Weblog
海はまだ暗きにありぬ鏡餅      菅原鬨也

太陽はまだ水平線深く沈んだまま。真っ暗な海にあるのは、ただ静かな波音だけである。やがて迎える元朝を前に、蘇るのはやはり津波の記憶だろうか。「海はまだ暗きにありぬ」に、海の持つ神秘とロマンとは違う予測できないことへの不安感も感じられるが、配された季語は、「鏡餅」。初日を迎えた海の表情は、きっと鏡餅のように平らかで、光り輝いていたことだろう。「滝」2月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

2014-02-17 | Weblog
杉倒す音の中なる菫かな     清水青風

杉の木が、チェーンソーで次々に伐り倒されてゆく。青空は次第に広がり、大地には明るい日差しが溢れ出していることだろう。そこに、ふと菫の存在に気づいた作者だ。「杉倒す音」という山で働く人の力強さと、菫の可憐な佇まいが対照的に配され、春の明るい兆しが感じられた。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

耕し

2014-02-16 | Weblog
耕して左脳を天地返しかな     行方克巳

感性や感覚を司る機能を受け持つ右脳に対し、左脳は、理論的に物事を処理する能力を持つとされる。しかし、どちらにしても、その機能のどれほどを使っているのかは疑問だ。私もガチガチに固まってしまった右脳を大きくひっくり返してリフレッシュしたいもの。「耕し」のフィクションでありながら、リアルな事象が楽しい一句。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

木瓜の花

2014-02-15 | Weblog
木瓜の花想定外を想定し     和田悟朗

現実が想定を超えてしまう自然災害。人の想定の限界を感じるが、なおも想定外を想定しないと世の現実とは向き合えない。さて、木瓜の花・・・。人生における想定外の現実とは?2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

名草の芽

2014-02-14 | Weblog
取り敢へず棒挿して置く名草の芽      いのうえかつこ

雑草とそうでないものの草の芽は、何となく見分けがつくものだ。いつもの雑草であれば、迷うことなく引いてしまうのだが、時に、名のある草かも知れないという直感が働けば、容易く引けなくなってしまう。それはまさに視覚だけでなく、直感が捉えた名草の品格のようなものかもしれない。名草の芽に取り敢えずとった行動に、ふとした日常を見るようで共感を覚えた。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

春装

2014-02-13 | Weblog
男とて春装をちよと映しみる      安部元気

気持ちの良い朝、少しお洒落をして出かけた作者だろうか。ショーウインドーに映る自分の姿をチェックするのは、何も女性だけとは限らない。きっと背筋をピンと伸ばし、心弾む姿が映っていたことだろう。「春装」が春の華やぎと作者の昂揚感を伝えている。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)