蒲団 2012-11-30 | Weblog 干蒲団打つや日本の午後となる 小島 健 蒲団は日本の畳文化とともにあるもの。 冬晴れの貴重な一日、 布団がずらりと干されている光景は、 日本だけのものであるらしい。 「俳句」12月号より抄出。(Midori)
寒し 2012-11-29 | Weblog 髯を剃る鏡に寒き道化顔 大竹多可志 鼻の下を伸ばして鼻の下の髯、顎を突き出し、 唇を持ち上げ顎の髯、片方ずつ頬を膨らませ頬の髯。 顔はいろいろに表情を変えて、髯は剃って行かれるのだろう。 たとえ、どんなに悲しいときも同じ顔・・・。 「俳句」12月号より抄出。(Midori)
茸 2012-11-28 | Weblog しろがねの眉うごきけり茸汁 山尾玉藻 しろがねの眉とは、相当な長老だろうか。 ほとんど表情もなく、時折動くのは眉。 まるで茸汁ばかり食べている仙人のようだ。 「茸汁」が、不老長寿の妙薬のように思えた。 「俳句」12月号より抄出。(Midori)
手袋 2012-11-27 | Weblog 手袋の片つぽがない君が居ない 大木あまり 手袋は、手指の寒さを防ぐには最高のアイテムだが、細かい作業をするにはちょっと不便。つい片方を脱いだり、両方脱いだりと、着脱の頻度は高いと言えよう。ふっと気がついたら、「片っぽがない」とはよくあることだ。さて、「君が居ない」の君は、手袋のもう片っぽのことだと思うが、「手袋の片つぽ」と同列に置かれた、もう一人の「君」の存在も気になる。「俳句」12月号より抄出。(Midori)
冬座敷 2012-11-26 | Weblog あまたなる湯気運ばるる冬座敷 金子 敦 そろそろ忘年会の季節。ずらりと並んだテーブルには会席膳が並び、 次々に運ばれるものは、どれも湯気を立てている。 座敷は、温かい空気に包まれて、いよいよ宴の始まりだ。 「湯気運ばるる」とは、まさに冬座敷の最高のもてなし。 鍋物の匂いや賑やかな談笑が聞こえてきそうだ。 第4句集、『乗船券』より抄出。(Midori)
烏賊火 2012-11-25 | Weblog 烏賊の火のさびしき数の明滅す 森 京子 いつもは、烏賊釣舟の火が賑やかに沖を彩っていたのだろう。 烏賊漁に携わる人の数が減ってしまったのか、烏賊が不漁なのか・・・。 震災の影響とは言え、故郷の風物詩を失うことは淋しい。 それでも、「さみしき数」が明滅していることの救い。 寡黙な震災句に、作者の深い哀しみが伝わる。 「滝」11月号〈滝集〉より抄出。(Midori)
秋扇 2012-11-24 | Weblog あきあふぎ誤植ひやりとありにけり 佐々木博子 何度も誤字脱字がないかを確認し、印刷に回したはずなのに、 出来上がった印刷物にまさかの誤植が見つかったのだ。 身体感覚の「ひやりと」と、存在を示す「ありにけり」による、 リアルな驚きが即物的に表出されていて面白かった。 「秋扇」の文語体は、「あきあふぎ」とは、危うく間違いそう。 「滝」11月号〈滝集〉より抄出。(Midori)
秋冷 2012-11-23 | Weblog 石蹴れば秋冷の音発しけり 田口啓子 小石があれば、蹴ってみる。上手く蹴ることができたら若い証拠。 蹴るという意思があるだけでも若いとも言われそうだ。 「石蹴れば」という何かを期待した行為に、石はころころと転がって、 秋冷の音を立てたのだ。作者の心情を投影した音とも思えるが、 冬に向かう緊張感が感じられた。「滝」11月号〈滝集〉より抄出。(Midori)
秋高し 2012-11-22 | Weblog 秋高し仔牛吸ひつく哺乳瓶 清野やす 動物園の飼育係が、ライオンの赤ちゃんに哺乳瓶でミルクを飲ませているのを、テレビで見たことがあるが、百獣の王といっても、生まれたばかりの赤ちゃんは、可愛いものだ。さて、待望の仔牛が生まれたのだ。哺乳瓶に吸い付くほどの元気な仔牛だ。仔牛にミルクを与えている人、じっと見守る家族、そして作者。語られなかった苦労や不安。「秋高し」に、仔牛の誕生の喜びがしみじみと伝わってきた。「滝」11月号〈滝集〉より抄出。(Midori)
花野 2012-11-21 | Weblog 踏み入りて囚はれ人となる花野 宇野成子 「花野」とは、本来そういう場所なのだ。 人が立ち入るべきところでなく、自生する秋草や虫たちのもの。 花野に踏み入るには、いくらかの勇気が必要だったに違いない。 踏み入った途端、囚われ人となった作者は、 ひととき濁世を忘れることができただろうか・・・。 「滝」11月号〈滝集〉より抄出。(Midori)
秋麗 2012-11-20 | Weblog 潮騒はわれを離さず秋麗 渡辺登美子 「われを離さず」ということは、離れたいと願っても、 どうしても耳から離れないということだ。 何かに夢中になっている間は、一時忘れていることはあっても、 平常に戻れば、またあの潮騒が聞こえてくるのだ。 記憶の中の潮騒は、作者にとっていつも穏やかで、 身近な存在なのだろう。「秋麗」に今も変わらぬ潮騒が聞こえそうだ。 「滝」11月号〈滝集〉より抄出。(Midori)
流星 2012-11-19 | Weblog ときめきの傘寿来たれり流れ星 阿部風々子 若い頃のときめきとは、違うときめきがあるのかも知れない。 それは、若い頃には決して気づかなかった感動や喜び。 「ときめき」は人間の細胞を若返らせる作用もあるとか?! 流れ星に、どんなときめきを覚えたのか・・・、 傘寿の作者を大いに見習いたいもの。 「滝」11月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)
蟷螂 2012-11-16 | Weblog 蟷螂や日はくらくらと森へゆく 鴨 睦子 藤田湘子は、俳句に意味を持たせてはならないとも言っているが、 この作品は、意味を成さないという程でもなく、 ファンタジックな物語性を秘めている、とでも言えるだろうか。 「K音」が、一句にリズムを持たせているのもその理由かも知れない。 「滝」11月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)
林檎 2012-11-15 | Weblog 風音と孤独を愛し芒原 火の国の刈田にみつる光かな 高稲架や月読照らす記紀の国 みちのくの星の匂ひの林檎買ふ 平川みどり *「滝」11月号〈滝集〉に掲載されました
炭火 2012-11-14 | Weblog 久闊を叙す牛たんの炭火焼 菅原鬨也 牛たんの「タン」は、「tongue」の略。牛舌と言うより余程聞こえがいい。牛タンは全国的に手に入る食材だと思うが、仙台名物と聞けば、どこで頂くよりも、やはり仙台だ。さて、久しぶりの旧友との再会。故郷の懐かしい味、炭火の弾ける音や匂いは、久闊を叙するには最高だ。今月号の「飛沫抄」は、「仙台藩名産品十句」の前書通り、伊達政宗ゆかりの名産品の数々が詠み込まれて、とても興味深い作品抄となっている。「滝」11月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)