十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

どれも

2012-06-30 | Weblog
たんぽぽの絮や光は無尽蔵
花冷の天上伽藍ありにけり
パンジーのどれも私を見て笑ふ
桜餅つつみきれざる香りかな    平川みどり


*「阿蘇」岩岡中正主宰選「雑詠」より

樟の花

2012-06-29 | Weblog
   てのひらに旅の時間と樟の花    岩岡中正

「旅」とは、住んでいる土地を離れて、一時他の土地に行くことだが、
日常を離れて、非日常の世界に遊ぶことでもある。旅行からの帰路
だろうか?手のひらには、日常の時間から開放された「旅の時間」が
広がっている。それは、人と人との出会い、あるいは土地の風土や
自然に触れた旅情かもしれない。旅もまた森羅万象との一期一会。
持ち帰った樟の花に、旅の思い出が蘇るのだろうか。
「阿蘇」7月号〈近詠〉より抄出。(Midori)

2012-06-28 | Weblog
蛍火舞う村のあちこちほころびて   室生幸太郎

たとえ貧しくても、村が元気な時代があった。
しかし、今、村は元気を失い、平成の大合併は、
村をますます弱体化、疲弊させてしまった。
蛍火は村のほころを繕うとして舞うのだろうか。
「暁」代表。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori) 

アマリリス

2012-06-27 | Weblog
アマリリスあしたあたしは雨でも行く   池田澄子

あしたあたしは、あたしあしたはと、エンドレスに続きそうだ。
雨でも行くという固い決心は、「あ」の頭韻で決まった。
2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

月見草

2012-06-26 | Weblog
魚籠の中しづかになりぬ月見草   今井 聖

ここには、二つの時間の流れがある。魚籠の中と、
もう一つは月見草によって知らされる時間の経過。
省略の効いた作品に、童話の挿絵のような懐かしい
情景が浮んだ。
角川書店「必携季寄せ」より抄出。(Midori)

青無花果

2012-06-25 | Weblog
たそがれや青いちじくは木の泪   佐藤和枝

「青いちじくは木の泪」と断定されて、はじめて気がついた。
緑一色のまだ固い無花果は、確かに木の泪みたいだ。
「泪」の文字も、視覚的に捉えるのに効果的。
角川書店「必携季寄せ」より抄出。(Midori)

蛇苺

2012-06-24 | Weblog
蛇苺王者の墓と路傍の墓    有馬朗人

蛇苺は無毒であるのに、蛇の名が冠されているため、
不気味な魅力を持つ。取合せで詠まれることが多いようだが、
何か、巨大なものとの取合せが必要だ。
たとえば、ここでは、権力。
角川書店「必携季寄せ」より抄出。(Midori)

蜜豆

2012-06-23 | Weblog
蜜豆を食べるでもなくよく話す   高浜虚子

蜜豆に入っているあの黒い豆が苦手だが、考えてみれば、
蜜豆に豆が入っていなければ、蜜豆とは言えない。
さて、婦女子の好物ということになっているが、それにしても、
蜜豆を前にして、他愛もない話がエンドレスに続く・・・。
この時、虚子も蜜豆を食べていたのだろうか?
「ホトトギス新歳時記」より抄出。(Midori)

端居

2012-06-22 | Weblog
端居して風評に耳敏くをり    老川敏彦

端居して、涼しい風に吹かれながら何も考えない・・・。
こんなリラックスタイムはないのだが、風評に敏感な作者。
端居するにも、環境汚染が気になる昨今。
2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

春の闇

2012-06-21 | Weblog
スイッチを探す指先春の闇    鈴木淑子

大抵、部屋の入口あたりにあるスイッチ。
三つも並んでいたりすると、どれがどのスイッチなのか分からず、
いまだに全部一緒に押してしまう。しかし、最近になって、
やっとどのスイッチなのかを覚える気にもなっている。
さて、作者の指先が探すスイッチは、何のスイッチなのだろう。
柔らかな「春の闇」に触れる指先がちょっと官能的。
「俳句」6月号〈現代精鋭7句〉より抄出。(Midori)

短夜

2012-06-20 | Weblog
短夜のルーペでさがすチチカカ湖    真鍋呉夫

「チチカカ湖」という響きの面白さに興味を引いたものか、
ルーペの中に、その存在を確かめたとき、
その湖が、作者の中で現実のものとなる。
ルーペの中のチチカカ湖は、はるか日本の裏側。
「俳句」6月号〈平成の蛇笏賞作家たち〉より抄出。(Midori)

ハンカチ

2012-06-19 | Weblog
星空へハンカチ貼つて生きむかな   岡本 眸

失われつつある生活習慣をいまだに守り続けている作者。
昔ながらの慎ましい暮らしぶりが「ハンカチ」に象徴的に詠まれて、
女性ならではの上品な美意識と浪漫が感じられた。
「俳句」6月号〈平成の蛇笏賞作家たち〉より抄出。(Midori)

涼し

2012-06-18 | Weblog
涼しかり力尽きるといふことも    後藤比奈夫

誰でも得られる境地ではないだろう。
力尽きると言っても、その道のりは果てしなく遠い。
それまでの緊張感が、脱力感とともに心地よい満足感に変わる時・・・。
「涼しかり」に込められた思いは、うかがい知れない。
「俳句」6月号〈平成の蛇笏賞作家たち〉より抄出。(Midori)

2012-06-17 | Weblog
地獄絵の炎にとまる白蛾かな    福田甲子雄

地獄絵の炎にとまるものは、この世に生きる白蛾。
白蛾の生々しい妖艶さが、異色の世界を創り上げている。
「俳句」6月号〈平成の蛇笏賞作家たち〉より抄出。(Midori
)

2012-06-16 | Weblog
杉檜螢ちりばめ夜は恋す    津田清子

蛍の夜に、杉と檜の恋とは意外。しかし、単に
メルヘンの世界でない硬質で美しい映像を結ぶことが
できるのは、確かな写生の力によるものだろう。
螢をちりばめた夜は、ぬばたまの漆黒の闇。
「俳句」6月号〈平成の蛇笏賞作家たち〉より抄出。(Midori
)