十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

鰯雲

2016-11-30 | Weblog
水筒のついの一口いわし雲    中井由美子

最後まで残して置いた水筒の「一口」なのだろう。その「ついの一口」を飲む時は、きっと目的の場所にたどり着いた時だと思われる。空にはいわし雲がいっぱいに広がって、心身ともに開放感につつまれる瞬間。「ついの一口」という措辞によってもたらされる時間の経過に、作者だけが知る大きな達成感が感じられる一句ではないだろうか。「滝」11月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

野分

2016-11-29 | Weblog
鴉一羽見つめる先の野分かな     佐藤憲一

鴉には、野分の接近を察知できる能力があるのだろうか?この鴉は、ただ何かをじっと見つめていただけに過ぎないのかもしれないが、「見つめる先の野分かな」と、認識した作者の想像力は、まるで鴉の目が野分を捉えたかのようにも映る。「野分」の接近する不気味な臨場感が、一羽の鴉を通じてリアルに迫って来た。「滝」11月号〈瀑声集〉より抄出。(Midori)

向日葵

2016-11-27 | Weblog
向日葵に見られ恥かし杖姿     渡辺民子

「見られる」ということは、人前だけでなく、向日葵に対してさえ、そう思う作者である。何に対しても、見られることを意識することは、老いゆく身にとって必要なことかもしれない。老いてなお、背筋を伸ばし、自分の足で立っていられることの幸せ・・・。「恥かし」という羞恥心の若々しさは言うまでもないが、飾らない感情の吐露に共感を覚えた。「滝」11月号〈瀑声集〉より抄出。(Midori)

賢治忌

2016-11-25 | Weblog
賢治忌や蠍座へ吹くハーモニカ     加藤信子

宮沢賢治の童話は、一篇の詩のように美しいが、どこか淋しさが漂う。さて、蠍座のα星、アンタレスは、『銀河鉄道の夜』にも登場する星であり、ずっとわが身を燃やして夜を照らす星として登場する。「蠍座へ吹くハーモニカ」に、賢治を偲ぶ作者の姿が想像されるが、ハーモニカを吹く賢治の姿にも重なってくる。「ハーモニカ」は、童話作家、賢治を印象づける措辞としても貴重である。「滝」11月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

2016-11-24 | Weblog
蓋ずらし水甕に月入れてやる      石母田星人
超高層ビル群で身をよぢる月 
        〃

「月」の句、2句である。特徴的なのは、ともに月が生き物のように詠まれていることである。しかも、月が普通にあるのではない。前者は、「蓋ずらし」という、作者の積極的な意思があり、後者は、「身をよぢる」という、月そのものの動きである。何かしら、月を遮るものが、月の存在感を高めているようでもある。伝統的な俳句のリズムにこだわらない音律も魅力的な2句である。「滝」11月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

山眠る

2016-11-23 | Weblog
パイ皮の中よりシチュー山眠る     成田一子

このレシピは、スープカップにシチューを入れて、パイ生地で包んで焼いたものである。イタリアンレストランや和食の店でも出されることの多い冬のあったかメニューだが、家庭料理としてはまだまだというところだろうか。「パイ皮の中よりシチュー」の具体的な描写に、発見と小さな驚きがあり、「山眠る」の季語が、対照的に置かれて、卓上の暖かさを一段と引き立てている。「滝」11月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

九州場所

2016-11-22 | Weblog


福岡国際センターへはじめての相撲観戦に行ってきました。会場前の街路樹は黄葉し、勇壮な力士の幟が何本も立っていました。満員御礼の垂幕が下がる土俵では、息を呑む取り組みが次次と繰り広げられ、歓声と落胆の渦でした。(Midori)

   冬麗や軍配高く勝名乗り

酸橘

2016-11-21 | Weblog
椅子引いて豊かな時間黒葡萄
酸橘キュッと地球は青く輝ける
新涼や流木に書く般若経
手のひらに回す宇宙や林檎剥く


*「滝」11月号、成田一子代表選

【選評】
酸橘をキュッと搾る、という日常の些細な瞬間から、「地球は青く輝ける」という見事な転換は、「滝」という結社で研鑽を積まれてきた作者ならではの句であり、「滝」を象徴する句として披露したいという思いに掻き立てられた。この句には香、色、シュールレアリズム風絵画的美しさがある。このような俳句が生まれる「滝」という結社の不思議な磁場を改めて実感させられる一句である。(一部割愛)

便利な世の中になった代償に、自然はどんどん破壊されつつあります。酸橘をキュッと搾って地球に振りかけたら、海や山、そして空や大地が一瞬にして美しさを取り戻すのではないかと想像しました。(Midori)

『草枕』

2016-11-20 | Weblog


今年は、夏目漱石没後100年。小説『草枕』の舞台となった熊本県天水町を訪ねるバスツアーに参加しました。漱石が宿泊した前田家別館には、当時のままの6畳間や浴室が残されていました。この辺りは蜜柑山の中腹にあり、歩いて移動すると、蜜柑山がずっと広がり、向うには有明海が広がっていました。時折、時雨が降りましたが、10月並の暖かさでした。(Midori)

   漱石の便りのやうな時雨かな    

紅葉

2016-11-16 | Weblog


平家の落人伝説で有名な熊本県八代市の五家荘に行ってきました。
最近の急な冷え込みで、一気に紅葉し、例年にない彩だということでした。(Midori)

   落人の夢見し栄華冬紅葉
   

蝉時雨

2016-11-15 | Weblog
黙祷の一分間の蟬時雨     荒牧成子

「黙祷の一分間」は、黙祷に掛ける時間の長さであるが、ここでは「蟬時雨」の長さにも重ねられている。蟬時雨は、一分間だけでなく、黙祷の前からずっと続いているはずである。「一分間の蟬時雨」という限定が、8月15日の終戦日を思わせて、忌日を述べずに忌日を詠んだ見事な一句である。「阿蘇」11月号、当季雑詠より抄出。(Midori)

探勝会

2016-11-14 | Weblog
結社の探勝会が、熊本県北の菊鹿町の鞠智城、及び菊地市の菊池神社でありました。鞠智城は、大宰府を守るために7世紀に築かれた山城で、天守などはなく、八角形をした鼓楼が古代の佇まいを見せています。出土したものから様々なことが解明されていますが、今も尚、謎に包まれた古代ロマン溢れる山城でした。菊池神社では、若い両親に連れられた七五三で大賑わい。近くの物産館の広場では、菊人形展が開催中で、俳句の素材が多すぎて困るほどでした。(Midori)

   百済仏抱きて山の眠りをり

新涼

2016-11-11 | Weblog
新涼や妻と語るに鉦一打    田村涼風

妻の仏前に、香を焚き、静かに鉦を一打する。手を合わせては、亡き妻と語るのは、どんなことなのでしょう。「妻と語る」のに、「鉦一打」とは、何とも淋しいことではあるが、「鉦一打」によって、亡き妻と繋がっていられるのだとも思われる。「新涼」の季節になったことに、新たな思いを伝えているのでしょうか。心にしんと伝わってくる作品である。「阿蘇」11月号、井芹眞一郎選より抄出。(Midori)