十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

ななかまど

2011-12-31 | Weblog
高麗の末裔の瞳やななかまど   小幡浩子

高麗は、10世紀から14世紀にかけて開城を都として、
朝鮮半島はじめての統一国家として栄えた王国だ。
さて、その高麗の末裔の青年だろうか?
その瞳は、民族の誇りに美しく輝いていたことだろう。
「ななかまど」に、その青年の秘めた強さが感じられた。
「滝」12月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

銀河

2011-12-30 | Weblog
くれなゐの櫛流れゐる銀河かな     鈴木要一

『源氏物語』第51巻で、宇治川に入水する浮舟を想像したが、
やはり、多くのかけがえのない命を奪っていった3.11が根底にあるのだろう。
「くれなゐの櫛」は、若い女性のものだと思えるが、
それだけでない象徴的なインパクトを感じる。
予想さえしなかった大津波は、多くの日常を奪っていった。
「滝」12月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

秋果

2011-12-29 | Weblog
時空ふとゆがみ脈打つ秋果かな   石母田星人

「原発禍」と題された六句の中の一句。
歪むはずのない時空が歪んだのは、飛散してしまった放射能物質の所為。
秋果が脈を打ちはじめ、別なものに生れ変わってしまうとしたら、悲しい。
作者らしい宇宙空間で詠まれた「原発禍」に、無言の哀しみが感じられた。
「滝」12月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

冬の鹿

2011-12-28 | Weblog
くらがりに滅せぬ灯冬の鹿     菅原鬨也

根本中道の不滅の法灯は、今もなお柔らかな光を放ちつづけ、
1200年以上もその光を失うことなく、一隅を照らし続けている。
「くらがりに滅せぬ灯」とは、この法灯であり、作者の詩精神に点る
灯りでもある。一方、冬の鹿のまなざしは、生というものを静かに
見つめ続ける仏陀の目。仏教に基づく美意識が得た「冬の鹿」に
よって、格調高い一句となった。
第240号により、「滝」は創刊以来20周年を迎えた
「滝」12月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

琥珀

2011-12-27 | Weblog
虫の音の琥珀となれる一夜かな
名月や女の座標軸かしぐ
おしろいの夜の斜面に香りけり
紅葉かつ散れり地球の断面図  
  平川みどり

*「滝」12月号〈滝集〉の三席に掲載されました

十二月

2011-12-26 | Weblog
街の灯が男を呼べり十二月    北 登猛

クリスマスソングが流れ、イルミネーションに華やぐ
夜の街は、男たちばかりでなく、誰でも心が弾む。
九州のすべての原発は、点検のために運転停止となった。
眩いばかりの街の灯は、高度経済の象徴でもあるが、
癒しの空間は、意外にも照明が落とされていることに気づいて欲しい。
「響焔」所属。 2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

2011-12-25 | Weblog
てのひらに三つ四つ五つ六花    亀田虎童子

雪の降りはじめは、手のひらに受けてみたくなるもの。
空から降ってくる白いものへの好奇心は、幾つになっても変わらない。
雪の結晶が、三つ四つ五つと手のひらに降っては融けてゆく。
六花という雪の異名を最後に置いて決まった。
「萱」「魚雷」所属。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

枯葉

2011-12-24 | Weblog
枯葉寄す渚に立つてゐるやうに    加藤かな文

かつては瑞々しい緑色の葉だったものが、
晩秋の一時には、美しい彩をみせる。
しかし、冬になってその色も褪せてしまえば、
生気を失った枯葉はカサカサと乾いた音を立てはじめる。
枯葉が足元に寄せてくるさまを渚に喩えた作者。
つぎつぎと寄せて来る枯葉は、まるで人を恋うよう。
「家」所属。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

手鞠

2011-12-23 | Weblog
手鞠つく地球しつかりしてくれよ    大島雄作

かつて、手まり唄にのせて、手まりをついて遊んでいたころ、
その頃の地球は今よりずっと元気だった。
「しつかりしてくれよ」とは、まるで瀕死の地球への呼びかけだ。
今さらあの頃の地球には戻せないが、最善の手当は必要だ。
「青垣」代表。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

マフラー

2011-12-22 | Weblog
マフラーの色はねあげて駆け出せり    大串 章

撥ね上げているのは、マフラーだが、
マフラー以上にその色に鮮明なインパクトがあったのだろう。
早朝に、息白く駆け出す女学生だろうか?
弾けるような若さと健康的なイメージが気持ち良かった。
「百鳥」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

年守る

2011-12-21 | Weblog
手を組めば指おとなしく年守る    小川軽舟

十指は、親指はじめ、それぞれに固有の能力があり、
本人の努力次第ではいろんなことを可能にする。
しかし、その手を組んでしまえば、そうは行かない。
「年守る」の季語によって、静かな祈りの手のようにも思えた。
「鷹」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

足袋

2011-12-20 | Weblog
どうしても足袋履く足が遠すぎる    小笠原和男

単に、指先が爪先まで届かないということなのだが、
その懸命な努力が、何とも健気でおかしい。
結局、どうにかして足袋を履き終えたに違いないが、
手足を解放させて息つく姿を想像するとまた可笑しい。
ユニークな表現力によって詩となった作品。
「初蝶」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

冬ざれ

2011-12-19 | Weblog
逆光の中より声や冬ざるる   井越芳子

逆光に浮かび上がるシルエット、
誰とはわからなくても、その声はだんだん近づいてくる。
逆光に閉ざされた世界は、白くて冥い。
「冬ざるる」に荒涼とした疎外感が感じられた。
「青山」所属。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

蟷螂枯る

2011-12-18 | Weblog
蟷螂の力尽くして枯れゆける    雨宮抱星

蟷螂は、途中で色が変わることはなく、褐色のものは、
生れた時から褐色であるらしい。しかし、
冬になって枯色の蟷螂を見かけると、
命の極まりを感じてどこか哀れだ。
命の終末の迎え方も、それぞれではあるが、
「力尽くして」は、これからの老いの美学でもある。
「草林」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

2011-12-16 | Weblog
確かめてみる枯蔓を引つぱつて   足立幸信

何でも見た目だけではわからない。
枯れているからといって、侮っていると、
引っ張って見て、はじめて知る意外な力。
「確かめてみる」のその実行力と好奇心に惹かれた。
若さの原動力かも?
「狩」所属。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)