十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

浮寝鳥

2011-02-28 | Weblog
  水に流す夢もあるらん浮寝鳥    本田久子

冬枯れの湖や川に、眠っているように浮かんでいる鳥たちは、
一体、どんな夢を見るのだろうか?
楽しい夢ばかりではなく、時には哀しい夢もあるかもしれない。
もし哀しい夢だったら、そんな夢は水に流してしまえばいい。
浮寝鳥への作者のまなざしが優しい。
「阿蘇」3月号より抄出。(Midori)

麦の芽

2011-02-27 | Weblog
 麦の芽や文学地より湧き出づる   岩岡中正

「地」と言えば、大地。すぐに思い出すのが、『Gone With the Wind』で、
スカーレット・オハラが、故郷、タラの土を握りしめるラストシーンだ。
そして、もう一つ、パールバックの小説「大地」。
今月、巻頭言の中で、地域からの文学の発信の必要性が提示されているが、
青々と広がる「麦の芽」に、地域のエネルギーと逞しさが感じられた。
「阿蘇」3月号より抄出。(Midori)

亀鳴く

2011-02-26 | Weblog
亀鳴くや行きしことなき本籍地   小川軽舟

作者にとって、本籍地は父母が居るところであり、
生まれ育ったところでもあるのだろう。
本籍地が、いつか戸籍上のものだけになってしまう時・・・
「亀鳴く」の季語の斡旋に、郷愁とある種の寂寥感を覚えた。
「俳壇」3月号「自選50句」より抄出。(Midori)

2011-02-25 | Weblog
   霾るや第五レースのファンファーレ   柏原眠雨

ファンファーレは、レースの開始を告げるセレモニーのようなものだが、
トランペットの高らかな響きが特徴的だ。さて、いよいよ第五レースのはじまりだ。
と、ここまでは、単に競馬場だけの景で終わっているのだが、
「霾や」と切れのある上五を持ってきて、景が大きく広がった。
まるで騎馬民族が押し寄せてくるかのようだ。
「きたごち」主宰。「俳壇」3月号「作品10句」より抄出。(Midori)

蝌蚪

2011-02-24 | Weblog
  蝌蚪期とも書かむ飛び越えゆくための    中原道夫

「蝌蚪」という言葉を、俳人以外でどれほどの人が知っているだろうか?
「かとき」と検索すれば、もしかしたら「蝌蚪期」と変換するかと思ったら、
さすがに、「過渡期」と正確に変換した。
おたまじゃくしが、卵から蛙になるための過渡期だとすると、
「蝌蚪期」も、まんざらでもなさそうだ。
「銀化」主宰。「俳句」平成22年5月号より抄出。(Midori)

月氷る

2011-02-23 | Weblog
村上春樹の長編小説、『1Q84』は、天吾と青豆の物語だった。1984年は、私にとっても忘れられない年だったので、特に興味を覚えていたが、1Q84年は、1984年とは少し違っていた。彼の描く世界に、どうして惹かれてしまうのか?いつも自問していたけれど、やっと少し解りかけてきたような気がする。それは、その文体の美しさは勿論のこと、全体的に広がっているピュアな空気感だということだ。きっと登場人物の誰もが自分に正直に、ひたむきに生きているからだと思う。私は、村上春樹の何も知らないし、深く知ろうとも思わない。天吾やスプートニクの主人公を見れば、何となくわかって来るからだ。というよりそうあって欲しいという一種の願望かもしれない。時には際どい描写もたくさんあるけれど、全てをひっくるめて、静謐で美しいのだ。もしかしたら、「危うさ」にも通じる「美しさ」なのかもしれない。(Midori)   

読み解けぬままの暗号月氷る   平川みどり 

亀鳴く

2011-02-22 | Weblog
亀鳴くや詠ふとは虚に遊ぶこと   大石悦子

「虚に遊ぶ」といっても、その遊び方が難しい。
「虚」を「実」と思わせる確かな説得力が必要だからだ。
亀は、本来鳴かないカメ目の爬虫類の総称だが、
俳人が「亀鳴く」と遊べば、そんな哀切な鳴き声が聞こえて来そうだ。
「俳句」平成22年5月号より抄出。(Midori)

蛇穴を出づ

2011-02-21 | Weblog
   蛇穴を出でてなまめく野となりぬ     吉原一暁

「創世記」にも見られるように、蛇は人間と深い関わりを持つ生き物。
その蛇が今、冬眠から目覚めて穴から出てきたのだ。
なまめく肢体をくねらせながら、平成の世を這っている・・・。
「枯野」が、「なまめく野」となった瞬間だ。
「狩」所属。2009年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

愛の日

2011-02-20 | Weblog
バレンタインデーのチョコフィーバーも終わったと思っていたら、
まだまだつづく・・・。2月はまさにチョコ月間だ。
嬉しいことに、友人と会うたびに、友チョコ、友チョコ
「バレンタインの日」も立派な季語だ。あまりに長いので、
「愛の日」という何とも歯の浮くようなの傍題もある。

愛の日の御注文は?貴方です   平川みどり


「はいく待夢ー☆」 ← こちらもよろしく♪ by樹里 

猟名残

2011-02-19 | Weblog
  空へつづく海の鈍色猟名残     菅原鬨也

解禁の猟期は、北海道を除けば11月15日から翌年2月15日まで。
猟期がやがて終わろうとする夕暮れだろうか・・・
海に広がっている鈍色は、空へと続き、銃声までもどこか鈍色に聞こえる。
猟名残の音が空へとひびき渡り、余韻のある句となっている。
「滝」主宰。第3句集「飛沫」より抄出。(Midori)

鳥の巣

2011-02-18 | Weblog
  鳥の巣の高きひとつは天使の巣    名村早智子

鳥の巣は、卵から孵った雛が巣立つまでの場所であり、
それだけに最も安全な場所だと言えるだろうか。
天使には鳥のような翼があるけれど、「天使の巣」があるとは意外だった。
「高きひとつは天使の巣」のメルヘンを超えた断定に惹かれた。
「玉梓」主宰。2011年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)


畑打

2011-02-17 | Weblog
   畑打に恩赦のごとき日和かな   脇 祥一

「畑打」は、早春、種蒔きの準備のために畑の土を打ち返すことを言う。
名ばかりの早春のなか、余寒厳しい日々が続いていたのだろう。
しかし、この日は「恩赦のごとき日和」に恵まれたのだ。
大きく振う鍬に汗ばむほどの作者に、畑打ちの喜びが感じられた。
「俳句」平成22年4月号より抄出。(Midori)

2011-02-16 | Weblog
梅白し空は夜の間に磨かれて   神尾久美子

梅は早春の花。春を告げる花として、
万葉時代は、「花」と言えば梅であった。
空は、夜の間に雲ひとつなく磨かれて、
青空には白梅が眩しく光っている。
「椎の木」主宰。「平成秀句選集」より抄出。(Midori)

春の夜

2011-02-15 | Weblog
烏賊墨に舌染め小悪魔の春夜    馬場駿吉

烏賊墨のパスタを一度食べたことがあるが、
舌だけでなく、歯茎までも真黒に染まってしまったことだろう。
誰とでも・・・、という訳にはゆかない烏賊墨、
しかし、この小悪魔さんは、戯れに舌を出して見せたのだ。
春夜ならではの官能的な情感がうらやましい。
「平成秀句選集」より抄出。(Midori)

種蒔

2011-02-14 | Weblog
   蒔く種の嬉々と大地にまぎれこむ   檜 紀代

春になって、袋の封が切られるのをじっと待っていた種たち。
早春の風を受けて、種たちは嬉々として大地にまぎれこむ・・・
「嬉々と」の形容の擬人化が、種たちの開放感と喜びを
余すことなく伝えていると思う。
「遠矢」主宰。「平成秀句選集」より抄出。(Midori)