十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

狐火

2014-03-31 | Weblog
狐火のあの日一気に老いにけり     赤間 学

狐火は、人気のない山腹などで見られる正体不明の青白い炎。昔から日本に伝わる幻想的な超自然現象であるが、その狐火を目にしたその日から、一気に老けてしまったという。まるで狐につままれたような理不尽さではあるが、どこか納得させられるのは、狐火の神秘性によるものだろうか。「狐火」と「老いにけり」の本来無関係であるべきものの取合せがどこか楽しくもある。「滝」3月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

雪螢

2014-03-30 | Weblog
割り算の余りのごとく雪螢      鈴木要一

空中に浮遊する雪螢は、確かに「割り算の余り」のように頼りない。考えてみれば、理性では割り切っているつもりでも、心のどこかにある割り切れない思い・・・、そんな感情もまた、雪螢のようにふわふわと浮遊しているものかもしれない。斬新な比喩が魅力的な作品。「滝」3月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

¨

2014-03-29 | Weblog
面舵をいつぱいに切る初景色     今野紀美子

船の中で迎えた元旦だろうか。あるいは日頃見慣れた風景かも知れない。どちらにしても、元日の朝に見る風景は、いつもとは違って神々しく輝いていたことだろう。「面舵をいつぱいに切る」の措辞によって伝わる感動は、やはり眼前に広がる初景色の美しさだ。面舵をいっぱいに切れば、パノラマのように広がる初景色は大きく切り替わる。視界の広がりに、作者の深い感動と昂揚感が伝わって来た。「滝」3月号〈滝集〉より抄出。(Midori)

厚着

2014-03-28 | Weblog
厚着して毒舌にさらされてをり     谷口加代

毒舌は、真理を突いているだけに、成程と思えるし、話し上手な毒舌を聴いているのは楽しいものだ。最近ではタレントの坂上忍さんの毒舌キャラが大ブレークして、本音トークが大人気だ。さて、毒舌にさらされているのは、何だろう。厚着しているその姿かもしれないが、さらされているということは、それだけ注目されているということだ。いろんな情景が想像されて楽しい一句。「滝」3月号〈渓流集〉より抄出。(Midori)

山河

2014-03-27 | Weblog
むらさきに山河明けゆく淑気かな
冬バラや青磁のやうな空ありぬ
凩やスープに銀の匙しづめ
風音を蔵してゐたる龍の玉     みどり


*「滝」3月号〈滝集〉菅原鬨也選

野遊

2014-03-26 | Weblog
野遊びかモラトリアムかとおりやんせ      成田一子

学生など、社会に出て一人前の義務を果たす事を猶予されている状態をモラトリアムというが、学生は、社会的に自立していないにも拘わらず、あまり文句も言われず優遇されている有難い身分だ。遊ぶにしても、猶予にしても、「とおりやんせ」の行き着く先は厳しい現実。余白の多い作品は、わらべ歌のようにミステリアス。「滝」3月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

立春

2014-03-25 | Weblog
立春の地球ごぼりと水こぼす      石母田星人

長く雪に閉ざされた北国では、きっとこんな雪解けもあるのかもしれないが、「ごぼりと」というと、まるで地球が水の塊を吐き出したかのようだ。スケールの大きな地球の擬人化に、立春らしい生命感が感じられた。「こぼ」の視覚的な重なりも楽しい一句。「滝」3月号〈瀬音集〉より抄出。(Midori)

春泥

2014-03-24 | Weblog
春泥を跳ぶや津波の生き残り      菅原鬨也

東日本大震災から3年が経過した。あの日、テレビ画面に映し出された瓦礫は、一体どこに行ってしまったのか・・・。南三陸沖の海底の谷間、海中カメラが捉えたものは震災瓦礫とともに、たくさんの深海に生きるものたちだった。海の生態系は、確実に回復しつつあると知って、自然の再生力に深い感動を覚えた。さて、「春泥」にあの日の津波跡を重ねているのだろうか。しかし、跳んで先に進むしかない現実。「津波の生き残り」に与えられた何かを探さずにはいられない、切なる思いが伝わって来た。「滝」3月号〈飛沫抄〉より抄出。(Midori)

春の水

2014-03-23 | Weblog
医王山不老山より春の水      安部元気

名所旧跡であっても、そうでなくても、固有名詞のもたらすイメージに御利益を得たい気持ちは、誰でも同じだ。「医王山」「不老山」から掬った春の水とは、いかにも病も癒えて、不老長寿が期待できそうな名前だ。固有名詞だけで詠まれて命漲る作品。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

蛇穴を

2014-03-22 | Weblog
蛇穴を出る切れ長の眼なり      永瀬十悟

「切れ長の眼」というと、鶴田一郎の美人画を思い出すが、まさか蛇の眼の形容に使われようとは考えもしなかった。創世記に登場する蛇のような罪深い眼差しだろうか。妖しげな蛇の横顔が見えて来る。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

2014-03-21 | Weblog
春は曙枕を踏んで水飲みに     大木あまり

まだ眠りから完全に覚めないままに、喉の渇きを覚えている。枕元に水が用意してあれば、立って行かなくて済むものを、近くにないならば起きるしかない。わざわざ自分の枕を踏んで行く人は誰もいない。踏んでしまって、枕を踏んだことに気づき、枕を避けようとして、少しよろっとする。こんな春の曙の無造作なひとコマが艶っぽい。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

菜の花

2014-03-20 | Weblog
一過性眩暈菜の花蝶に化す     山地春眠子

菜の花が畔を彩りはじめたが、「菜の花蝶に化す」という慣用的なフレーズが今ほど実感として感じられる時はないように思われる。さて「菜の花蝶に化す」の9文字に対して、あと8文字が決め手となるが、置かれたのは、一過性眩暈・・・。蝶に化したのが現実なのか、眩暈による錯覚なのか、その曖昧性が魅力的な一句。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

地虫出づ

2014-03-19 | Weblog
生きて行くさびしさ知らず地虫出づ      保坂伸秋

「基本的に、人間は淋しい生きもの。淋しいから、友人を作ったり、仕事をしたり、淋しさに向き合うことを避けている」というようなことを言っていたのは、「笑っていいとも」に出演中のタモリさん。「生きて行くさみしさ」というほどの認識はないにしても、そうかもしれないと思ったものだ。地虫は、「生きて行くさみしさ」を知らなくても、春になった喜びは、知っていそうだ。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

春星

2014-03-18 | Weblog
春星の瞬きもせず黙秘権      肌勢円女

都会の灯から遠く離れた山里では、満天の星が夜空を飾る。明るさや大きさはまちまちだが、どの星とて何を語ることもなく、しんと静まり返っている。つくづく無音の世界であることを思い知らされる。作者もまた星に何かを期待して見ていたのだろうか。春星に、黙秘権は永遠に続くが、瞬きくらいの意思表示がほしい時もある。2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

春氷

2014-03-17 | Weblog
  春氷薄し婚姻届ほど      神野紗希

春氷の薄さは、それだけ美しさにもつながるが、「婚姻届ほど」と言われると、なるほど春氷の薄さが実感として伝わってくる。婚姻届は、当事者にとっては生涯に関わる重大な決定事項であるにもかかわらず、届けは意外にあっさりと受理されてしまい、何か物足りなさを感じるくらいだ。大変なのは婚姻届ではなくて、これから、ということだろうか?2014年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)