毎日のできごとの反省

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何故航空母艦の艦橋は右舷にある?

2019-06-03 17:47:17 | 軍事技術

 航空母艦の艦橋は右舷つまり後方から見て、必ず右にある。私の知る範囲では、左舷に艦橋があるのは、日本海軍の赤城と飛龍だけである。これには明白な理由があるのに違いない。だが私の知る限り、この事を明瞭に説明した、日本の市販の出版物はない。

 古本に属するが、手元にある潮書房刊の軍艦メカ3、全特集、日本の空母のp10に、「この方式は気流に乱れを生じて不具合であることが判明し」と説明されているだけである。私の知る範囲では日本では大抵そう説明されている。

 しかし前後関係と違い、右と左は条件が対称だから、条件に相違が出る理由がないから、左舷に置いたほうが右舷より気流の乱れが出るというのでは、説明にならないのは明白である。この理由は物理の初歩知識があれば簡単に片がつく。

 ご存じないだろうか。プロペラ機を後方から見ると、ほとんどの機体はプロペラは時計方向に回転している。その反対は、稀な例外しかない。すると飛行機は左方向に旋回するトルクが働く。特に離陸上昇でエンジンの馬力が最大になっているときに激しい。

 これでお分かりだろう。左舷に艦橋があると、このトルクによりパイロットは衝突しやすいという気持になる。実際にはトルクは舵で修正するから問題はないが、心理的にパイロットには大きなプレッシャーになる。着艦に失敗した場合も、パイロットは飛行甲板上の真ん中でフルスロットルにするから、左に舵を取られやすいので、左舷艦橋は怖い。
 
 ちなみに戦時中、零戦に追いかけられた米軍機は、加速して右に横転して逃げろと教えられた。これは零戦は高速では舵の効きが悪くなるため、米軍機よりエンジントルクに逆らって右横転する性能が悪かったためである。

 それでは、プロペラのないジェット機の時代にも、何故航空母艦の艦橋は右にあるのか、という疑問は当然である。ジェット機にもプロペラはないが、コンプレッサーはある。コンプレッサーとは小さなプロペラが沢山ついたようなものである。

 そしてこれを整流するために、固定のタービンが付いている。これがコンプレッサーの反動を受けるから、程度の大小は知らないが、結局同じ向きのトルクが発生する。だが、それがどの程度になるのか、定量的なことが分からないので、確信はない。また、プロペラ式艦上機はまだ存在する。私が疑問に思うのはそればかりではない。なぜこれほど単純なことを、多くの雑誌等のライターが分からないか、ということである。ちなみに、上記の主旨を「世界の艦船」という雑誌に投稿して採用された。すると翌月に投稿の反応があった。それは、小生の主旨は分かるが、そればかりではなく、航法上の規則も理由にあるのではないか、と書いてあった。

だが、航法上の規則の理由は絶対的ではない。航法上の規則から不都合があっても、パイロットは左舷艦橋に反対するのは間違いない。それは航法上の規則から左舷艦橋が適する場合だつた仮定してみても、プロペラの回転方向が変わらない限り、左舷艦橋をパイロットは嫌がるからである。つまりプロペラトルクの問題が第一次的な原因で、航法上の規則の問題は二次的な原因に過ぎないからである。

皮肉なことに、後期型のスピットファイアは、ロールスロイス・マーリンとは逆回転する大馬力のロールスロイス・グリフォンエンジンを使った。それに対応するシーファイアを艦上機として採用した英海軍は苦労した挙句、プロペラのトルク問題を解消するために、二重反転プロペラを採用した。スパイトフルの艦上機型のシーファングも、原型は5蝶プロペラだったが、量産機では二重反転プロペラを採用する予定だったのも同じ理由である。それにしても、当時簡単に二重反転プロペラを採用できる英国の機械工業技術の高度さは、日本の航空技術者には、うらやましい限りだったろう。
 
 私は、空母の右舷艦橋の明快に説明できない原因は、多くの艦船や航空機関係の雑誌のライター諸氏は、工学の素養がないとしか思われない人が多いのではないかという疑問である。工学の素養とは工学部系の大学や工業の専門学校で学んだことがある、という事では必ずしもない。独学でも何でもいいから、工学の基礎を学んだか、という事である。

 公刊されている雑誌や書籍で、明らかに工学の素養の欠如している人が、堂々とその方面に言及して、間違えたことを平然と述べていることが案外多いことから、私はそう疑わざるを得ない。例えばある著名な「軍学者」が、単行本で「レシプロエンジンでは、オクタン価が高いほうがいい」、という意味の事を言っていたのに、私は唖然とした。 

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