平成29年の正月、暇つぶしに映画を見に行った。候補は三つあって、アニメの「君の名は」と「この世界の片隅に」と洋画の「バイオハザード・ファイナル」である。結局、日本映画のようなわざとらしい平和主義がないのをかって、バイオハザード・ファイナルにしたのだが、意外にもハッピーエンドに近かったのと、主人公のそれまでの剃刀のような切れ味鋭い容貌が、ややぽってりし味だったのには少し失望したが、見るには充分耐えた。
残りのアニメには、宣伝の画のやさしそうな主人公「すず」の姿と、なんと敗戦時の巡洋艦青葉がクライマックスに登場する、というので、この世界の片隅の方に興味を持った。そこで、本屋に行くと、オリジナルのコミックと、映画の場面集とノベライズ本の三種があった。それで、オリジナルのコミックを買った。映画化されたアニメには、製作の都合で原作の画が壊されているケースが多いからである。
画は期待通りだった。ストーリーも日本の戦争映画によくみられるような、後知恵の平和主義がないのが良い。しかもあとがきのように「戦時の生活がだらだら続く様子が」描かれているのが好ましい。主人公のすずの幼馴染みの水原とは、二人とも何となく惹かれるところがあったのに、親が決めた見合い結婚を素直に受け入れたのも、むしろ時代のリアリティーを感じさせた。
雑誌にも紹介があったが、玉音放送を聞いたすずが「最後のひとりまで戦うんじゃなかったんかね?」と怒るシーンも、うまく描かれたひとつの真実であろう。評判になった巡洋艦青葉の、実写真をもとに描かれた、大破着底した画も風雅である。すずが呉湾を航走する軍艦の名前を全てきちんと識別できたのは、意外だが、ストーリーの展開上はむしろ自然に思える。ただし、
長門などは、絵葉書などでも庶民にも広く知られていた。しかし戦艦大和の名前が出てくるのは、不自然である。大和は呉の海軍工廠で作られたが、最後まで名称が秘匿されていたから庶民が知るはずもない。不思議なのは、広工廠で作られた海軍機の中に「13式艦上爆撃機(製造のみ)」と書かれた絵である。一瞬、あれっ、と思った。これは一三式艦攻の間違いである。少し知識があれば、艦爆は大正時代にはない機種だから、このような間違いはしない。
予備知識が少なく、調べて描いたから起こる間違いである。それにしても懐かしい飛行艇や大攻まで描かれているのには恐れ入る。しかも資料によれば一三艦攻は三菱で設計製造され、少数が広工廠で作られたから、正確である。それにしても良く調べたものだし、海軍機や軍艦なども、簡単なスケッチで雰囲気を正確にとらえているのは、やはり好きなのだろう。そんな意味で、このコミックは面白い。
軍事用語の知識の少ないのは、青葉の説明書きで知れた。青葉は「・・・負傷して帰港・・・」「・・・呉沖海空戦に参戦、切断・着底。」とある。「負傷」は「損傷、中破、大破」のいずれかで、「切断・着底」は「大破・着底」であろう。いずれにしても、現代女性が戦時をこのように描けたのには感服した次第である。