毎日のできごとの反省

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中国人に対する「労働鎖国」のすすめ・西尾幹二・飛鳥新社

2014-01-04 11:33:30 | 科学技術

 シンガポールなどのように、厳格かつ冷酷に扱わない限り、労働力不足だからといって単純労働者を安易に外国から入れることは、ヨーロッパ、特にドイツで起きているような悲惨な事態を招くというのが本書の主旨であろう。その通りで、経済人は目先の利益で後進国の人も助かるなどという嘘まで並べている怪しさは小生も感じていた。多くの事例を挙げて労働移民の危険性を立証している、必読の書である。

 前記の主旨とは直接には関係ないがP202には、面白い指摘がある。「・・・インドや中国やアラブ諸国が工業文明を急速に見につけ近代化への離陸を果たす時期は来ないのではないか、と私は考えている。イギリスの産業革命から百年程度までが近代化へ向けて離陸するぎりぎりの潮時ではなかっただろうか。NIES諸国の内シンガポールと香港はイギリスの、韓国と台湾は日本の統治時代に、離陸への予備段階を完了していたのである。」というのである。

 これは小生の考えとほぼ同じである。小生は昔の機械製作法の授業で、ロシアの大型プレス機にかなうものは日本にはないということを聞いた。ロケット戦闘機Me-163をコピーするのに、日本の技術者は無尾翼と言う、ロケット技術の本質と関係のないリスクのあるものまで物まねしなければ気が済まなかった。ロシア人は本質が分かっているから、主翼は直線翼で通常の尾翼付きの形態とし無用のリスクを避けた。現在の状況を見ると意外に思われるかも知れないが、工業技術に関しては日本はロシアに半歩遅れているのだと、未だに考えている。ロシアは西欧に地理的にも近く近代工業技術の導入も早かったからである。

 西尾氏と違い、シンガポール、香港、韓国、台湾に関しては離陸は困難なのではなかろうかと考えている。統治時代に予備段階があったといっても、宗主国から与えられた受動的なものだからである。これらの国は、車のエンジンと言う現代では最新技術ではないものすら、与えられた生産設備でしか製造できない。自主開発などは思いもよらないのである。ついに中国は無人探査機を月に着陸させた。こんな技術を中国が自力で開発できるはずがない。その秘密は中国の宇宙開発が、ソ連崩壊の二年後に開始されたことにある。

 それにしても専門から正反対の工業技術論にまで高度な見識を持てる西尾氏は、現代稀に見る天才である。思想家としては本居宣長を超えているのであろう。