ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『ブラック・ダリア』

2006-07-27 23:55:06 | 新作映画
----監督がブライアン・デ・パルマだよね。
確かこの監督好きだったのでは?
「うん。ただし、
ぼくが彼に熱狂していたのは
巨匠と呼ばれるようになった『アンタッチャブル』以前、
まだ彼自ら<ヒッチコックの後継者>と名乗っていた頃のこと。
デ・パルマは別名<映像の魔術師>とも言われていて、
スローモーション、分割画面、長回しなど、
目もくらむような映像ギミックが多かった。
彼の映画の魅力は
人間の感情の機微を描くことなどとは正反対。
<映像で物語っていく愉しさ>にあると言ってもいいと思う。
だから、ストーリーの整合性を考えることもあまり意味がない。
そんなことで突っ込むのはそれこそヤボだと思う」

----えっ。と言うことは、
この映画もストーリー紹介は省略?
「うん。原作が<アメリカ文学界の狂犬>と言われるジェイムズ・エルロイ。
その彼のLAノワール4部作の第1作。
しかも実際に起こった事件を元に描いているわけで、
そのストーリーをあれこれ言ってもしょうがない。
主人公のバッキー・プライカード(ジョシュ・ハートネット)が
ある猟奇的殺人事件を捜査しているうちに、
大富豪の娘マデリン(ヒラリー・スワンク)と知り合い、
他に思う女性ケイ(スカーレット・ヨハンソン)がいながら
彼女と関係を持ってしまう。
そしてその女性マデリンと関わるうちに、
彼は事件の背後にうごめく大きな闇を知る……。
まあ、フィルム・ノワールらしい設定の話だ」

----で、今回はその華麗なキャメラワークは観られたの?
「彼の映画を観る時は、
最初から身構えてしまう。
冒頭から、何かやってくれる可能性あるからね。
ところが今回は意外と普通。
デ・パルマ印がさして見られない。
ノワールという言葉から連想する、
ミスティなしっとりしたタッチからはほど遠く
どちらかと言えばドライ。
しかし、それがあるシーンから大きく動く。
俯瞰で写した町の道路の脇でひとりの女性が死体を発見。
ところがカメラはそこから離れてバッキーたちの乗る車を追い、
町の反対側へと移動してゆく。
そしてそこでは
死体のことなど忘れたように別のドラマ、銃撃線が始まる。
ところがこの死体こそ、後に重要な意味を持ってくるんだ」

----ふ~む。意地の悪い映画だニャあ(笑)。
「でも、ここからしばらくも
時代色豊かな犯罪映画と言う感じ。
本格的なデ・パルマ印は、
もう一つの<死>まで待たなくてはならない。
それは、バッキーのロス市警でのコンビでもある
リー・ブランチャード(アーロン・エッカート)の暗殺。
階上で黒い影に襲われるリー。
その影に気づいたバッキーは
必死で彼に駆け寄ろうとするが、なかなか近づけない。
ここでのバッキーはスローモーション、
また凶器を持った暴漢の姿はシルエットに。
さらにそこにもう一人の顔を見せない殺人者が
ナイフを煌めかせてやってくる。
バッキーの眼前で喉を切られたリーは
暴漢もろともスローモーションで墜落してゆく。
このシーンだけでも何度も観たくなる素晴らしさだったな」

----確かにデ・パルマらしい映像だね。
撮影は誰ニャの?
「デ・パルマの初期のサスペンスを多く手がけたヴィルモス・ジグモンド。
『さすらいのカウボーイ』や『未知との遭遇』など、
光と影の効果を知りつくした映像の美しさは
右に並ぶ者がいないと言っても過言ではない。
さらにオモシロいことに、この殺人シーンから後の映像が
冒頭とはすっかり変わってしまうんだ。
もし何も言わずに、
前半と後半からそれぞれ二つのシーンを切り取って見せたら、
多くの人が別の映画と思うんじゃないかな。
そういう意味じゃ、かなりいびつな映画とも言えるかもね」


                                           (byえいwithフォーン)

愛のメモリー デラックス版 PIBF-1424愛のメモリー デラックス版 PIBF-1424
※数あるデ・パルマの傑作から今回はこの作品を。
ヒッチコック・テイスト満載のラブイ・ミステリー。

※CGよりよっぽどいい度
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