風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

『ラ・バヤデール』 K-BALLET COMPANY @オーチャードホール(3月20日マチネ)

2014-03-20 20:11:55 | バレエ




バレエファンだったら、パリとかロンドンとかモスクワに住みたいと思う人も多いかもしれません。
でも私は、東京に住んでいて本当によかった。
だってKバレエがあるのだもの!

『ラ・バヤデール』は一昨年にヴィシニョーワ&コールプ&コンダウーロワで観てこれ以上ないくらい満足していて、それは今も変わらないまま。
でも今回の舞台を観て、Kバレエというのは全く別の世界なのだなと思いました。熊哲が作り上げた、一つの世界。

婚礼の場の踊り子たちのピンクや水色のファンシーなチュチュ、ガムザッティの原色に近い紫の衣装、ニキヤのこれまた原色に近い真っ赤な衣装、そして百円ショップのオモチャのような色合いの花籠。ドンキのピンクブーツと同じく、どれもまったく私の好みではないのだけれど。
なのに、なんででしょうね。
「ああ、“熊哲は”きっとこういう世界を作りたいのだな」と、感動してしまったのですよ。もうそれでいいよ、と。
「リアルなんかじゃなくていいんだ、夢を見させたいんだから」と言っていた熊哲。
本当にこの人は観客に夢を見て帰ってほしいんだな、と思った。まるでディズニーランドのような、そのときだけは思いっきり日常を忘れさせてくれる夢。
バヤのドキュメンタリーで「自分がいいと思うものはみんなもいいに違いないって思っちゃうんだよね」と笑っていたけど。
影の王国も、不気味さや気だるさが少なくどこか明るめで、この人の中の明るさを見たようでなんだか楽しかった。
この綺麗な綺麗な舞台の上に、愛も、嫉妬も、喜びも、悲しみも、憎しみも、この世界の全てがあって。
でもそれは決して現実ではなく、全てはバレエというものを通して熊哲が見せてくれる夢の世界で。
バレエっていいなぁと、ミンクスの切なく美しい旋律とともに、なんだかちょっと泣きそうになってしまいました。

以下、ネタバレありです。


【一幕(寺院の外~宮殿の一室~宮殿の庭)】

荒井さんと白石さんは、体形が前回見たヴィシニョーワ達に比べると女というより子供のように見えてしまい、それは海外バレエ団より不利なのは仕方がないこと。
でもお二人とも踊りに危なげがなくて、安定感抜群。上手い(特に荒井さん)!
荒井さんのニキヤは表情豊かで、ソロルとの逢引のときも嬉しそうな恋人の笑顔。ここでこういう嬉しさを見せてもらえると、これからの悲劇がちゃんと引き立ちますよね。
白石さんのガムザも、ただの意地悪な女ではなく、ソロルを愛する(といっても出会ったばかりですけど…)がゆえの必死さが伝わってきて、好みでした。
対決場面はお二人とももっと熱くてもよかった気がしますが、まぁまだ二日目ですしね。

しかしやっぱり、なんといっても熊川さんのソロル。
まさかの口髭のちょいワル親父風で、コールプにしても、私が観るソロルはこんなのばかりだな^^;と苦笑していたら、早速一幕のソロで泣かされた。。。
高い!軽い!全然体重を感じさせない。
本当に42歳?白鳥のときにも感じたけど、この人の踊り、観る度に若くなってる気がする。
速くて綺麗で、なにより本当にバレエが好きそうに踊るから。
この数十秒のために14000円払っても惜しくない、と感じてしまう。
そういう種類の感動をくれる、本当に稀少なダンサーなのです、私にとって。
ソロを終えた後は本当に嬉しそうな笑顔全開で(ステージ中でここまで笑顔な熊川さんも珍しいような)、こういう顔を見ると、ああ本人的にもちゃんと満足のいく踊りだったのだな、とこちらも嬉しくなる^^

他の特筆ポイントは、婚礼の場の登場場面で、象の上でキザにポーズを決めてる熊哲。笑っちゃうほどお似合い、笑。さすが。
でもニキヤが現れると、途端に大焦りでうろうろ。ソロルって、いちいち親友に泣きつく優柔不断さも見ていて楽しい。
そして花籠をソロルがニキヤに手渡したのには吃驚しました(ソロルはラジャから受け取っていた)。マリインスキーのときは「ソロル様からです」と乳母が手渡していたので。この演出だと後のソロルの苦悩は倍増ですね。熊川さん、Sだ。。^^;
毒がまわったニキヤを残し、ソロルはガムザと手を取り合い退場。残るは、ニキヤと大僧正。マリインスキー版のように、駆けつけてニキヤを抱いてほしかった気もするけれど、そうすると「影の王国」で終わらないこの演出では不自然になっちゃうのかな。


【第二幕(影の王国)】

寺院の仏像の前で後悔にさいなまれるソロルに、親友が阿片を差し出す。
戸惑いを見せながらもついにそれを吸い、そして見る夢の世界。影の王国。
全体的に場が明るく感じたのは、既に書いたとおり。
精霊達の雰囲気もどことなく明るい。
この明るさは決して私の好みではないのだけれど、この場が明るめだと再びの寺院の場面の暗さが引き立つので、今回の演出の場合はこれも悪くないかも、と思いました。
コールドはいつもどおりとても綺麗。

ソロルは結局、夢から目覚めないのですね。死んでしまった、ということでいいのかな。 
「影の王国」の後でまだ優柔不断なソロルというのは見たくないので、この演出は好きです。
下手に横たわるソロル。
ガムザッティが駆け寄ると、どこからか現れた毒蛇が彼女に噛みつき、混乱するラジャ達を照らす稲妻。そして寺院の崩壊。スローモーションで落ちてくる岩(これはロイヤルと同じですね)。

あらゆる命を呑み込んで寺院が崩壊し、残るのは静寂と暗闇のみ――。
そこに突如現れるブロンズアイドル。
真っ暗な瓦礫の残骸の中を、黄金に輝く躰で明るい音楽にのって軽快に踊ります。
神の怒りの象徴ではなく、浄化、かぁ。
この演出、もっのすごくいいですね!ぞくぞくしました。はじめて熊哲って演出家として天才じゃない?と思った。熊川版として後世に残すべし。
これは西洋人ではなく、日本人の熊哲だからこその発想のように思います。
いつもニザ様や玉様を世界遺産と呼んでいる私ですが、あえて言いたい。

熊川哲也は日本の宝


ブロンズアイドルの池本さん。スラリとした体形が清廉な少年の仏像(阿修羅像的な)のようで、よく似合っていました。踊りも上手!もう一歩人間らしさが抜けて神々しさが出ていたら、もっとよかったけれど。もちろんパントマイムのようにいかにも像っぽく踊ってほしい、というわけではありませんが。マリインスキーのときのキム・キミン(こちらは披露宴の場で登場)もやっぱり人間に見えてしまっていたし、難しい踊りなのかな。そういえばTVでも練習で息を上げていて、熊川さんが楽しそうに笑ってましたね。

ラストは空の上の世界を思わせるセットに、微笑んで待ってるニキヤをソロルが見つけ、嬉しそうに駆け寄っていくところで幕。
あと5秒くらい長く二人の姿を見ていたかったけれど、ラブラブのラストはやっぱりバヤには似合わない気もするし。きっとここで終えたのが、演出家としての熊川さんのこだわりなのだろうな。

長い長いカテコがただのお約束に感じないのは、今回も同様。
まだ2日目のせいか全体的に少しぎこちなさも感じられた公演でしたが、熊哲の踊りと、彼の作ろうとする世界にいっぱいの感動をもらえたKバレエ版『ラ・バヤデール』でした。


※帰宅してから寺院崩壊“前”にブロンズアイドルが踊る版も観たくて数ある映像から見つけ出したのですが、そのブロンズアイドルがとても好みで誰かしら?とエンドクレジットを調べたら、"Tetsuya Kumakawa"、笑。1991年のロイヤルの映像でした。

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