なんせ「トラと漂流した227日」ですからね。「ライフオブパイ」だけでは全然何のことか分からないからなんでしょうけど、日本の配給会社ってほんと副題が好きね。でもこの作品の場合「トラと漂流した227日」っていう副題があったほうが食いつく人も多いかもしれません。
そんな副題ですからファンタジーというのは最初から分かっているわけですが、ファンタジーでありながらどこまでリアリティを持たせて「んな、アホな」的な話にはなっていないのだろうと監督アンリーの名前を見て期待していました。賞レースにもたくさんかかっていた作品だったし。
前半はカナダ人作家レイフスポールが稀有な経験をした男性パイイルファンカーンの取材にやってくるところから始まる。意外にこの前半部分が長くパイの子供のころのエピソードもなかなかに面白く語られる。
インドから家族とカナダに移住することになった16歳のパイスラージシャルマ。動物園を経営していた父は動物たちをカナダで売るために船に一緒に乗せて来ていた。彼らの乗った船が嵐に遭い転覆する。パイは1人救命ボートに乗ることができ助かったが、一緒に乗ってきたのは脚を折ったシマウマ、ハイエナ、バナナの木に乗って流されていたオランウータン、そしてパイが動物園時代から憧れを持っていたベンガルトラのリチャードパーカーだった。
これだけの動物たちが同乗していて共存できるはずはなく、ハイエナはシマウマやオランウータンを襲い、そのハイエナをリチャードパーカーが襲い、とうとう最後にはパイとリチャードパーカーの2人きりになってしまう。当然リチャードパーカーはパイのことを食べようと襲ってくるので仕方なくパイは救命ボートからロープをつけて板を浮かせてそこで過ごした。救命ボートには缶詰と水がたくさん乗せてあったが、パイは命を狙われないようにするためリチャードパーカーのために釣りをして魚を食べさせたりした。
トラと2人きりの遭難生活のシーンがヴィジュアル的にも美しく、時にユーモラスに時に緊張感を持って語られ飽きることがない。いつしかこのトラ・リチャードパーカーと友情が芽生えて2人で支え合っていくのかと思いきやトラはあくまでもトラであり、常にパイはトラに命を狙われているというところが逆にいいと思った。それでいながら、共通の敵である天候には共に闘うといった感じだった。と言ってももちろんトラなんて天候に対しては何の役にも立たないんだけど、パイの気持ちの中で共に闘う仲間としてその存在だけでも気持ち的に全然違っただろうと思う。常にリチャードパーカーに食べられるかもという緊張感も遭難生活の中では役に立っていたかもしれない。
最後に陸地についたときリチャードパーカーは振り向きもせず密林に消えて行ってしまう。そのことにパイは号泣するのだが、そこもトラはトラのまま感傷などなくトラらしく去って行くというのが良かった。トラはトラだと分かっていてもそこに期待してしまうのが人間だし、見ているワタクシが痩せこけたリチャードパーカーの背中の骨を見ると単純に涙が浮かぶのも人間だなと感じた。それが人間の感傷でありそれが人間のサガなのかもしれない。自分の事象だけで人類全部を語るつもりはないけど、このお話の寓話的な部分はそういうことを示しているのかなと感じました。
助かってから保険会社の人にトラの話や途中たどり着いた不思議な島の話など一切信じてもらえず、仕方なくした現実的な話(乗組員とコックとお母さんと一緒に救命ボードに乗りコックが乗組員とお母さんの肉を食べたという話)のほうが実は本当に起こったことだったのか?という疑問を生じさせつつ、でもリチャードパーカーとの漂流のほうがずっとずっと面白い話だからそっちでいいやと思わせてくれるだけの冒険譚だった。
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