シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

死刑弁護人

2015-08-31 | シネマ さ行

ワタクシが安田好弘弁護士を知ったのは、光市母子殺人事件の弁護士としてだった。彼が死刑反対の主張のためにこの裁判を利用しているというメディアの報道を鵜のみにして、ひどい弁護士だと思った。被告の「ドラえもん」発言の時には精神異常で無罪を主張するために弁護士が入れ知恵をしたのかと思ったし、チョウチョ結びに関してもふざけるな!と思った。それでも、橋下弁護士(当時)が彼らを懲戒処分にしようと呼びかけたときはさすがにそれはちょっと違うんじゃないの?それはあなたが弁護士として何か勘違いしていないか?と思った。

あの事件以来、彼のことはワタクシの周辺でも嫌っている人が多いようだった。そんな彼のドキュメンタリーの放映があると知り興味があったので見てみました。

オウムの麻原、和歌山カレー事件の林眞須美、光市母子殺人事件の元少年、その他にも現在とこれまでに渡り、相当数の死刑宣告を受けた被告の弁護を引き受けてきた安田弁護士。本人は学生運動の激しい時代に大学時代を過ごしており、「反体制」というのが一番染みついている世代という。

ワタクシは死刑反対論者ではない。もろ手を挙げて賛成しているわけでもないと言えばないんだけど、反対だと考える根拠はワタクシの中ではかなり薄い。なんとも曖昧な表現になってしまってますが。死刑に関しては安田弁護士の主張には相容れないんだけど、それでも彼の弁護士としての姿勢にはものすごく感服しました。

彼のような弁護士がいなければ、日本の刑法制度の正義が守られることはないと思うからです。どんな罪を犯した人であっても弁護を受ける権利があるということ、疑わしきは罰せずということは、いつどんな時代になろうとも揺らいではいけないことです。酷い罪を犯した人が捕まると、まるで弁護を受ける資格などないと言わんばかりの世論をマスコミは煽ります。そして、一度捕まってしまえばほとんどが無罪になるいうことはないという日本の検察と裁判所の癒着の怖さ。こういったものと闘う安田弁護士は弁護士の鑑と言えるのではないでしょうか。

犯した罪が何であれ、ただ断罪するのではなく、真実を追求しなければ再発は防げない。その犯人の背景を無視していたのでは、同じ犯罪は繰り返されるばかりだという安田弁護士の主張は確かに正しいものだと思います。

そんな中、安田弁護士が顧問である不動産会社に違法な資産隠しを指示したとして逮捕されてしまいました。当時オウム事件で麻原被告の弁護人を務めていたこともあり、おそらく検察が仕組んだ逮捕だったと考えられ、全国から1000人以上、第二審では2000人以上の弁護士が彼の弁護人として名を連ねた。これこそまさに彼が闘いを挑んでいる「体制」のやり方そのものでしょう。

そして、彼が裁判を通して死刑反対を訴えるなど愚の骨頂であると発言していることも注目しなければなりません。そのようなやり方は当然間違っているし、彼はそのようなことをしようとしたことは一度もなく勝手にマスコミが作り上げた像であるということです。

死刑に関する考え方以外でも光市事件の弁護の論法や、昔の事件のバス爆破事件の弁護の仕方などは、彼の主張はちょっと受け入れがたいと感じる部分は確かにありました。ただそれはやはり裁判上のテクニックなどもあるでしょうし、その意見が合わないからと言って彼への敬意の気持ちが変わるわけではありませんでした。

ひとつ彼が担当している興味深い事件の主張がありました。それは和歌山カレー事件です。逮捕された林眞須美死刑囚は詐欺屋であり、そんな彼女が一銭の得にもならない不特定多数の人の殺害をするわけがないという主張と、警察の証拠に捏造があるのではないかという疑いです。もちろん、実際に彼女が犯人なのかどうかは分かりません。でもやはり証拠の捏造などがあった場合、それはきちんと精査されるべきですし、疑わしきは罰せずという根本理論からすれば、彼女の死刑を確定していいものかどうかまだ裁判の余地はあるような気がしてきます。

ワタクシたち一人一人がマスコミに煽られて断罪する側に容易に立ってしまいがちな中、立場的に賛成であれ反対であれ、権力の不正と闘う安田弁護士のような方が絶対的に必要なのだと思わされる作品でした。