シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

それでも夜は明ける

2014-03-25 | シネマ さ行

アカデミー賞作品賞を受賞した作品。アカデミー賞を取る前から見に行くつもりではあったのですが、アカデミー賞を受賞したということでさらに期待度が上がりました。

1841年、自由黒人だったソロモンノーサップキウェテルイジョフォーは仕事仲間に酔わされ眠っている間に奴隷商人に売られてしまう。自分は自由証明書を持つ自由黒人だと主張しても聞いてもらえず南部の農園の地主フォードベネディクトカンバーバッチに買われてしまう。

フォードは当時の農園主としては親切なほうだったが、フォードの下で働くジョンティビッツポールダノは、自分より頭が良くフォードのお気に入りで自分に反抗的なソロモンが気に入らず、仲間とリンチしたあげくソロモンを首つりにしてしまう。ぎりぎりのところでフォードに助けられたソロモンだが、このままそこにいてはいずれジョンに殺されると心配したフォードはソロモンをエドウィンエップスマイケルファスベンダーに売ることにした。

ここでのシーンは象徴的だ。ジョンにリンチに遭い首つり状態にされるソロモン。つま先がかろうじて地面についていてなんとか助かっている。フォードが来るまでの間、他の奴隷たちはソロモンを助けようとはしない。目を盗んで水をくれる女性はいたが、縄を解いてやろうとはしない。白人からリンチを受けた奴隷を助けたりなんかしたら、今度は自分がどんな目に遭うか分からない。ご主人様が来るまで彼らは何もできない。

ソロモンが売られた先のエドウィンエップスは狂信的な白人至上主義者で、毎日綿花の収穫が少ない奴隷をムチ打つような農園主だった。

当時、奴隷は裕福な白人たちの所有物であり、家畜も同然だった。エップスの元にいたパッツィールピタニョンゴは、エップスに慰み者にされ、そのせいでエップス夫人サラポールソンには、嫉妬から虐待されるという苦しみを味わっていた。ソロモンは初めこそフォードのところでは自分の頭の良さをさらけ出していたが、時が経つにつれ、ここではバカなふりをしているほうが有利だと知り、あまりでしゃばらないように生きていこうとするようになる。パッツィーはここでの生活が辛くソロモンに殺してくれと懇願するが、ソロモンはそれに応えてやることはできなかった。

エップス家でも象徴的な出来事が描かれていた。夫人に買い物を頼まれ町へ向かうソロモンが、脱走を試みようと道なき道を走っていたとき、白人が黒人を処刑しようとするところに遭遇してしまう。町に向かうソロモンはエップス家の札を首からぶら下げていた。ただの白人至上主義ならば、そこに出くわした黒人のことも殺してしまいそうなもんだが、そうではない。ソロモンはあくまでもエップス家の持ち物なのだ。人様の持ち物を傷つけることはできない。奴隷制とはそういうものだったのだ。

エップス家でのソロモン他奴隷たちの生活はむごたらしいものだったが、それはエップスが白人至上主義者だったからというよりもただの頭のおかしな人だったからじゃないの?と思える部分が結構あって、それは奴隷制を描く作品としてはどうなのかな~と思ったりした。実話ものだから、これが本当にあったことなんだったら仕方ないか。

これもまた本当の話なんだから仕方ないんだけど、ソロモンの奴隷生活を見せる部分にもう少しメリハリがあっても良かったような気はしますね。素晴らしい題材だし、素晴らしい演技だし、演出も悪いとは思わないけど、134分の使い方としてはちょっともったいない部分があったような。題材的にもアカデミー賞好みだと思うけど、作品賞取るほどかな?と思ってしまったな。と言ってどれが良かったかと言われると全部見てないから判断できないけど。

助演女優賞も取ってますね。ルピタニョンゴは精神的に辛い役をよくやり遂げたと思うけど、やっぱりアカデミー賞助演女優賞はニューカマーの若い女優さんが取る傾向がありますね。

最後に奴隷制に反対するカナダ人・バスブラッドピットに助けられるわけだけど、ブラピはプロデューサーってことで“おいしい”役でした。バスは信念を貫いてソロモンを助けてくれるけど、「俺だって自分が可愛いから躊躇するよ」と正直に言っていたのは好感が持てました。

ソロモンに降りかかった悲劇というのは、本当に言葉にできないものだとは思うけど、彼がバスのおかげで自由になって、それは個人の人生としては本当に良かったと心から思うけど、そもそも自由だった彼以外の生まれながらに奴隷として扱われた数千万人だか数億人だかの奴隷たちは、、、?と考えるとさらに辛くなるラストだった。パッツィーもどうなったんだろう?ソロモンは解放以降、奴隷解放運動にも励んだらしいのだけど、あの時代にそんな運動をしたというのはこれまた険しい道だっただろうと思います。彼の死について理由や場所などが分かっていないというのはそういうことに関連していたのかもしれません。

オマケ1このブログでは「キウェテルイジョフォー」という表記で統一していますが、英語の発音を聞くと「チュウェテル」と言っているように聞こえますね。これからの表記どうしようかなぁ。

オマケ2スティーヴマックイーン監督の名前が気になってしょうがないって人もたくさんいると思います。彼が生まれたとき「マックイーン」という姓から看護師が「スティーヴ」と彼を呼んだことでその名前になったそうです。