シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

バッシング

2014-03-12 | シネマ は行

公開当時見たかったのですが、見逃していたのでレンタルで見ました。

2004年イラクで起きた日本人人質事件を基にしていますが、冒頭に「フィクションです」というスーパーが出るので登場人物の性格やここで起こる出来事などは実際とは多少異なるのだと思います。

この作品を見終わったときは、ブログでは取り上げないかなぁと思ったのですが、後からじわじわと考えるところが出てきて、やっぱり取り上げてみようかなと思いました。

当時、「自己責任」という言葉がメディアを駆け巡っていて、とてもイヤな気持ちになったのを覚えています。政府が危険と指定している国に勝手に行って拉致されたのだから、自己責任だ、と。これについて意見を表明するのは難しいです。確かにわざわざ危険なところへ自ら行ったのだから覚悟の上だろう、という気持ちはあります。でも、だから誘拐されても政府は知らないよ、っていうのはやっぱり違うんじゃないかなぁと思います。もちろん、当時の政府は知らないよと何もしなかったわけではなく、救出の交渉や努力をしたんでしょうけど、どんな理由であれ動機であれ自国民が外国で拉致されたことを「自己責任」と言う政府というのは非常に恐ろしいなと感じたのを覚えています。あの事件以降、様々な場面で「自己責任」という言葉が使われるようになりましたが、それを聞くたびになんかモヤっとした気持ちになるような感覚がいまでも残っています。なんかね、難しい問題だし、ワタクシの中でも答えが出ているわけではないんですが「自己責任」をやたらと正しい事として声高に叫ぶことには嫌悪感があります。強者の理論だなぁという感じがして、背筋が寒くなるんです。

ワタクシの考えはさておき、作品自体ですが、この高井有子占部房子という主人公が事件後帰国して就いたバイトをクビになったり、いつまでもしつこく嫌がらせの電話がかかってきたり、コンビニの前で襲われたり、コンビニに拒否されたりする姿が見ていてつらかったし、こういうことをする人たちがいるんだよなぁって本当にイヤな気持ちになりました。少し話はズレますが、犯罪の被害者になっても家に面白がって電話をしてくる人や嫌がらせをしてくる人がいるらしいですね。実際のこの当時でもマスコミのせいで彼らの自宅まで知られることになり、かなりの嫌がらせがあったようです。マスコミの取材のあり方などにも問題があると思います。

有子の父・孝司田中隆三が務めている会社まで苦情の電話が来るということで辞めさせられてしまう。父は有子のボランティア活動のことは応援してくれていたが、会社をクビになったことで自暴自棄になり酒浸りになり最後には自殺してしまった。この辺はおそらくフィクションの部分だと思うのだけど、あの状況で彼に強く生きろというのは難しかったのかもしれない。

この作品の主人公・有子なのだが、彼女のキャラクターがとてもふてぶてしい。コンビニではお金を節約するためなのか、3種類のおでんを買ってそれぞれ一個ずつの器に入れそれぞれの器に出汁をいっぱい入れてもらう有子。なんか変な人っていう印象だ。とにかく愛想というものが全然なくて、いつもぶすっとしている感じだった。見ている最中や見終わった直後はそこにまったく共感できなかったのだけど、見終わってしばらくするうちに、いや、待てよ、と。もしかして、彼女があんなふうにふてぶてしい人として描かれていたのは小林政弘監督の意図だったのではないかという気がしてきた。

監督は彼女をあえてふてぶてしい人として描くことで、ワタクシたち観客に疑問を投げつけているのではないか、とそんな気がしてきたのです。つまり、拉致された人が愛想の良い好感度の高い人物だったら、人々は「自己責任」と突き放しただろうか?と。ふてぶてしい有子なら「自己責任」と思われて当然だと感じてしまう人も多いのでは?と。でも、同じ国の人間が拉致されて、その人の好感度なんて関係あるのか?と。そんな疑問をぶつけられたような気がしました。

有子が「お父さんのことは大好きだったけど、お父さんは弱い人」と父親が自殺してしまってから言うシーンがあります。これを聞くとなんとまぁ冷たい人、と思う人も多いんじゃないかな。でもそれは事実で、有子はそういう事実を言わないではいられない性格なのだなぁと感じました。そして、お父さんの保険金でもう一度イラクへ行くと言います。この辺も反発される要因だとは思うのですが、ここがダメだからあそこにという有子の発想もどうかとは思うけど、彼女自身日本で頭を下げて暮らしていたって良い事はないし、もう一度イラクへ行くということに反感は覚えませんでした。何が動機であれ、どんな手段であれ、自分のしたいことを貫くしか有子にはできないと思うし、それで良いと感じました。

映画としてすごく良いかと聞かれると、そんなに、と答えると思うのですが、少し考えさせられるところがあったので取り上げてみました。

オマケ有子と父親・孝司が父と娘ではなく、兄と妹くらいにしか見えなかったので、役者さんの年齢を見ようとプロフィールを調べたら、田中隆三って田中裕子の弟なんですねー。知らんかった。そう言われれば顔立ちが似ていますね。