いやー、取りましたねーアカデミー賞主演男優賞&助演男優賞!W受賞でめでたいね。
1985年、ダラスに住む電気技師ロンウッドルーフマシュマコノヒーは現場で怪我をした際の病院のチェックでHIV陽性と分かり余命30日と診断される。エイズに関する正しい知識がなかった時代。エイズはホモがなる病気。俺はホモ野郎なんかじゃない。俺がエイズになんかなるわけない。と初めは医者の判断を否定するロンだったが、図書館でエイズについて詳しく調べ始める。エイズは当然同性愛者だけがなる病気ではなく、娼婦を買っていたロンがなる可能性は十分にあった。
ロンは、その頃ドイツで開発されたAZTというエイズの治療薬の実験に参加しようと考えるが、あくまでも実験段階では自分がプラシボ群に入れられるかもしれないことを知り、病院の職員に金を積み不正にAZTを手に入れてもらうが管理が厳しくなりそれもできなくなる。その職員はメキシコの医者を紹介してくれ、そこへ訪ねていくと、副作用の強いAZTよりもアメリカでは承認されていないが効果のある薬を薦められる。
ロンはその未承認の薬をアメリカに持ち込んで同じ病気の者たちに売りさばき始めた。病院で知り合ったレイヨンジャレッドレトという女装のゲイがたくさんの患者を知っているということでビジネスパートナーとなる。
未承認の薬を他人に売ることは違法だ。そこでロンは月々の会費を取って薬は進呈するという形を取る「ダラスバイヤーズクラブ」を立ち上げる。
ロンウッドルーフは典型的なカウボーイ。アメリカのテキサスのマッチョなカウボーイはゲイなんて認めるはずはない。ロンの仲間全員からロンはつまはじきにされる。エイズと分かった途端、お前もホモ野郎かとケンカになった。さらにビジネスパートナーとか言って女装のホモ野郎と仲良くしてやがる。そんなロンが以前の仲間たちの元へ戻れるはずはなかった。
それでもロンは気にしない。はっきり言って死なないようにするだけで精一杯なのだ。病院なんか頼りにならない。自分でメキシコ、日本、オランダ、中国へ飛んでいくらでも薬を調達してくる。ただロンは死にたくなかった。それだけだ。それに儲かる。一石二鳥だ。別に助けるつもりで始めたわけじゃないけど、同じ病気で苦しむ患者も助けることができている。病院よりもずっとたくさんの人たちを。
ロンの行動力は本当にすごい。海外へ飛び、時には通関するために嘘八百並べることもある。それでも、俺はやる。なぜなら死ぬから。死なないためならなんだってやってやる。これを「熱血」とか「使命感」とかそういうものを前面に押し出す演出をしなかったところがジャン=マルクヴァレ監督のすごいところだと思う。圧倒的な行動力でありながら、これはもう「情熱」なんかじゃなく「執着」だ。そこがまた良い。難病ものって基本的にワタクシは苦手なんですけど、これは一切お涙頂戴なところがなくて良かった。
この薬さえあれば、助かる人たちがたくさんいるのに、別の製薬会社と蜜月にある役所(FDA)は承認しようとしない。医者であるイヴジェニファーガーナーはその現状に絶望して病院を辞め、ロンたちの支援に回る。レイヨンと友人であったことももちろんだが、ロンの生への執着がまっすぐな行動力がイヴの気持ちを動かした。イヴを演じたジェニファーガーナーも素敵だった。
本人も当然ゲイフォビアだったロンがビジネスと割り切ってレイヨンと組むわけだけど、このロンとレイヨンの関係も妙にべたべたしていなくて良かった。ロンの“気づき”はレイヨンを自分の昔の友達に紹介するシーンでさらっと描かれていて、彼が同性愛者たちにいままでの差別心を詫びるシーンなどないけれど、ロンは十分に気づきを得たと思う。気ままにコカインやって娼婦買ってっていうロンだったけど、HIVになってからのまっすぐさとそれでもユーモアを忘れないところなんかが憎めないキャラクターでした。同じHIVにかかった女性に飛びつくところなんかもまぁご愛嬌って感じで見られたな。
FDAとの裁判に負けてしまったロンをダラスバイヤーズクラブのみんなが拍手で迎えたシーンはめちゃ泣けたなぁ。それまでの気持ちの高ぶりがすべてそこに集約されていたシーンでした。法律上ロンを勝たせるわけにはいかなかった裁判官もかなりロンに肩入れはしてくれていたね。ただ生きるために薬を飲みたいという個人の権利を国が侵害するという問題提起にもなっていました。
冒頭で書いたように男優賞をW受賞したマコノヒーとレト。どちらもオスカーだけではなくて色んな賞を総ナメ状態ですね。もちろん、納得の演技でした。マコノヒーの20キロの減量ばかりが話題になりますが、レトもかなり痩せてましたね。そして、2人とも体重の増減などに関係なく素晴らしい演技でした。