シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

あの日、欲望の大地で

2009-10-02 | シネマ あ行
ヘヴィな物語です。「21グラム」「バベル」の脚本を手がけたギジェルモアリアガの監督作品ですから、多分へヴィなものになるだろうことは予想はできると思います。作品全体の雰囲気も前2作品とかなり似たような感じだと思いました。前2作品は脚本だけで、監督はどちらもアレハンドロゴンザレスイニャリトゥ(いつもながらすごい名前だ!)なんですよね。2作品ともコンビを組んでいて、どちらもメキシコ人ですから、きっと仲良しなんでしょうね。それで、ある種の世界観を共有しているということでしょうか。

ひさしぶりに登場のキムベイジンガー。歳は取りましたが、相変わらず美しかったです。彼女って純粋に美人ではないと思うんですが、かもし出す雰囲気が良いんですよね。まさに女優って感じ。今回の役どころは、母親、妻、女という顔を見せ、彼女の繊細な部分がうまく投影されていたと思います。

シャーリーズセロン「モンスター」で、美人なだけじゃなくてどんな演技もできちゃうってことはすでに証明済みですから、今回のヌードに驚くこともないんですが、彼女のヌードを目当てに行く人もいるかな?でも、ワタクシ思うんですが、シャーリーズセロンって顔は非常に美人さんですが、脱ぐとそんなにきれいな体しているわけではないなぁと。いや、あれだけの美人さんですから、もうそれで充分なんですけどね。

母親(キムベイジンガー)の不倫現場を見てしまう娘マリアーナジェニファーローレンス、のちシャーリーズセロン。多感な思春期の娘が母親の不倫現場を目撃してしまうとは、どんなに辛い経験でしょうか。不幸な事故によって母親と不倫相手ヨアキムデアルメイダを亡くし、その不倫相手の息子サンティアゴJ.Dパルド、のちダニーピノと恋に落ちてしまうマリアーナ。それが父親にバレてしまい、二人は荷物をまとめて駆け落ちをする。

物語は、過去と現在を行ったり来たり、いつものギジェルモアリアガのやり方で進んでいきます。現在のマリアーナはなぜかシルヴィアと名前を変え、一人で生活をしている。彼女にはどうやら恋人ジョンコーベットがいるらしいが、彼は既婚者で、シルヴィアは次々と手当たり次第に男を自室に招き入れるというすさんだ生活をしているらしい。高級レストランの店主として働いてはいるものの、心にキズを持ち、自殺願望さえ持ちながら生活していることが分かる。彼女がここに至るまでに一体何があったのか。過去と現在を行ったり来たりする中でその秘密が徐々に暴かれていきます。

このギジェルモアリアガのやり方に慣れていない人は少し戸惑うかもしれませんね。それから、マリアーナがシルヴィアと名前を変えていることから、二人が同一人物だとすぐに分からなかった人にはもっと分かりにくかったかも。ワタクシは予告編を見ていたので、その辺は分かって見ていたから問題はありませんでした。それにしてもいつも言っているんですが、予告編は見せすぎですね。どちらにしても映画鑑賞初心者には少し難しいかもですが。

マリアーナを演じたジェニファーローレンスとシャーリーズセロンは顔は似てるってわけじゃないんですが、彼女が家からコンビにまで歩いて行くシーンで、その歩き方がもの凄くシャーリーズセロンに似ていたので、ビックリしてしまいました。わざとやっていたのか、偶然か、それともワタクシが意識して見すぎていたせいか分からないんですが。キムベイジンガーもシャーリーズセロンも良かったんですが、この作品中で一番良い演技をしていたのはこのジェニファーローレンスじゃないかなと思います。

さて、心にキズを負ったまま生活を続けるシルヴィアの前にカルロスホセマリアヤスピクという見知らぬ男が12歳の子をつれて現れます。それが、シルヴィアが12年前に産み捨てた娘だと言って。父親サンティアゴが事故に遭い、カルロスに娘をシルヴィアの元へ連れて行き、シルヴィアを自分の元へ連れて帰るように頼んだと言うのです。最初は逃げ出したシルヴィアでしたが、やはり考え直し娘マリアに会って許しを請います。自分のようになってほしくなくて逃げ出したのだと。それはもちろん自分勝手で無責任な言い訳でしょう。彼女のしたことが許されるわけはありません。しかし、見ているほうとしては彼女の母親のことを知っているだけに、思春期の彼女がしてしまったことを責めるだけの気持ちにはなれませんでした。

この物語の中にはたくさんの“罪”が存在します。母親の不倫に始まり、事故、その息子と娘の恋、娘が赤ちゃんを産み捨てたこと、その後の彼女の生き方。しかし、監督はそのいずれにおいても、それを犯した者たちがすべて悪いというようには描いていません。母親の不倫に関してもおそらく乳癌で乳房を切除したことにより、夫婦仲がぎくしゃくしていたように解釈できるし、あの事故に関しても、招いた結果は大きかったけれど、それが“悪”から生まれたものではないことを描いています。これらの罪を観客がどこまで許すかによって、この作品の評価は大きく分かれるかもしれませんね。すべてが自分勝手でムカつくと感じる方もいるでしょう。ワタクシは、すべてにそうならざるを得なかった理由があると感じたけど、それはただの言い訳に過ぎないのかもしれませんね。キムベイジンガーとシャーリーズセロンをひいき目に見ているせいもあるかも。。。

言葉で説明するとひとパラグラフで簡単に終わってしまいそうなこの物語をこれだけ重厚な物語に仕上げてしまう監督の演出力に脱帽しました。そして、この罪だらけの物語の中で、ようやく“贖罪”が始まる最後のシーン。そのシャーリーセロンのなんとも言えない表情が心に焼きついた作品でした。

オマケ原題の「THE BURNING PLAIN」というのは、シルヴィアの“秘密”を端的にうまく表現した題名だと思いますが、邦題の「あの日、欲望の大地で」というのもなかなかセンスがありますね。