電脳筆写『 心超臨界 』

人の長所はその人の特別な功績ではなく
日頃の習慣によって評価されなければならない
( パスカル )

米中対立 5G規格に飛び火――塩原永久さん

2020-06-15 | 05-真相・背景・経緯
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米中対立 5G規格に飛び火――塩原永久・ワシントン支局
【「日曜¥経済$講座」産経新聞 R02(2020).06.14 】

《 中国攻勢に警戒感 》

米国と中国が火花を散らすハイテク分野で新たな覇権争いの戦線が浮上してきた。第5世代(5G)移動通信システムや人工知能(AI)などの新技術で部品の互換性や機能の詳細を決める「標準規格」の分野だ。中国は業界の標準規格を勝ち取れば市場シェア争いを優勢に運べるとみて、国際標準の掌握を進める国家計画「中国標準2035」を策定中で、米国の産業界などが警戒を強めている。

標準規格は、パソコンや自動車、通信機器など、あらゆる工業製品メーカーが製造時に「基準」として守るべき仕様や機能の取り決めを指す。古くは列車のレールの幅に始まり、近年では、高精細なDVD(光ディスク)で、「ブルーレイ」を推す企業グループと、「HD DVD」を推すグループの2陣営が業界標準を争った。敗れたHD DVDは市場から消えた。

自社で提案した規格が国際標準として採用されれば、業界内で広く利用され、競合他社より優位に立てる。標準規格は、各国企業が参加する規格策定機関で提案された規格案をもとに合議で決めるのが通例だ。

トランプ米政権は、中国の不公正貿易を問題視し、対中制裁関税や、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に禁輸措置を発動した。そうした中、標準規格の掌握を目指す中国の戦略への関心が高まっている。

「中国政府は、標準設定や、標準を取り決める国際機関を押さえる重要性に気づいたのだ」

米戦略国際問題研究所(CSIS)のハムレ所長は、標準規格の専門家を招いた5月下旬のイベントで、そう話した。

超党派の米議会諮問機関である米中経済安全保障調査委員会も4月下旬、公聴会を開催。米情報分析会社インテ・ベロの上席アナリスト、ボウエン氏が証言書面で、中国が「標準を、グローバル支配を形成し、地政学的パワーを拡大する基盤だと位置づけている」と指摘した。

同氏によると、中国が国際的な標準規格を押さえ、「商業や安全保障の優位性を握る」ために策定中の国家計画「中国標準2035」が、年内にも公表される見通しだという。国際的な標準策定機関で中国主導の標準規格を量産する行動計画になるとみられ、対象分野には5GやAI、ビッグデータといった次代の産業の趨勢(すうせい)を決める先端技術が入る可能性が高い。

もっとも、中国はすでに2015年に策定した国務院の計画など、国際標準を自国優位に設定する取り組みを進め、5G分野で成果を上げてきた。

独調査会社IPリティックスによると、これまで華為は5Gの規格策定会議に3千人を超える技術者を派遣。5G関連の標準規格を取り決める国際合議体「3GPP」で、同社が提案した標準規格の一部となる「技術貢献」は、5855件が承認された。米国勢では半導体大手のクアルコムが1994件、インテルは962件にとどまった。

米シンクタンク、アメリカ進歩センターのハート中国政策部長は民間企業が大量の人員を規格策定会議に送り込むのは資金的に困難だと指摘。「中国政府は華為などに資金支援を融通」しており、中国勢の躍進を支えたとの見方を示した。

中国は国際機関での影響力拡大を重視し、世界保健機関(WHO)や国連機関に自国や友好国の幹部を送り込んできた。通信分野では、国連傘下の国際電気通信連合(ITU)に中国人の事務局長を据えている。

米商務省は5月中旬、華為へ半導体供給を止める禁輸強化を決め、米中の経済圏を分断する「デカップリング」を推し進めた。今後は米中の間で、他国を自陣営に引き込む動きが強まるとみられるが、標準規格を舞台にした勢力圏をめぐるせめぎ合いが、激化する可能性がある。実際、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」で、支援先の途上国に中国式の規格を受け入れさせ、5Gを中心に中国陣営の勢力圏を広げている。

一方、米国が対中輸出の管理規制を強化する中で、思わぬ難題が持ち上がっている。

米調査機関の情報技術イノベーション財団(ITIF)によると、米禁輸措置のルールの下、米企業は華為関係者が参加する標準規格の策定会議への参加が禁じられ、「(中国など)他国が次代の経済を形作る基盤技術を方向づけ、米企業は後ろに追いやられている」(ITIFのブレーク氏)。

ブレーク氏は米企業が標準化の国際競争から出遅れる懸念があり、トランプ政権のハイテク政策は「『米国第一』とは程遠い」と批判的だ。デカップリングが深まるに連れ、米国勢が標準規格策定で「アウトサイダー」になるリスクがある。
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