電脳筆写『 心超臨界 』

真の発見の旅は新しい景色を求めることではなく
新しい視野を持つことにある
( マルセル・プルースト )

自助論 《 常勝将軍の堂々たる告白――サミュエル・スマイルズ 》

2024-09-13 | 03-自己・信念・努力
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ジュール・モレルはウェリントンの人となりを評する際に、この手紙を引き合いに出して次のように語った。「かくまで堂々として、しかも人柄の高潔さをうかがわせる告白があるだろうか。30年の軍歴を持つ老兵、鋼鉄の男、常勝の将軍が、大軍を率いて敵地に陣を構えながら、なおかつ債権者たちの前で縮こまっているというのだから……! 古今の征服者や侵略者の中で、このような不安に心を悩ませた者は皆無に等しいだろう。戦いの歴史をひもといてみても、彼ほど崇高で純粋な心の持ち主はいないはずだ」


『自助論』
( サミュエル・スマイルズ、三笠書房(2002/3/21)、p158 )
6章 時間の知恵――実務能力のない者に成功者なし
4 ウェリントンを大将軍たらしめた「実務能力」

◆常勝将軍の堂々たる告白

ウェリントンの実務家としての優秀さは、その真正直な性質からも見てとれる。当時の戦いで、フランスのスルト将軍などはスペインから高価な絵画を数多く強奪して本国へ持ち帰っている。だがウェリントンは、たとえわずかでも財産と名のつくものには指一本ふれなかった。

彼が4万のスペイン兵を従えてフランス国境を越えた時、兵士たちは「ここで一財産つくろう」とばかりに略奪や強盗をくりかえした。彼はまずスペイン人士官をしかりつけたが、あまり効き目がない。そこでついには、スペイン兵を全員本国へ送り返したという。

またイギリス軍がフランス国内へ進軍した時も、現地の農民は同国人の手から逃れてイギリス軍陣内へ駆けこみ、自分たちの貴重品を預けてその保護を頼んだという。これほどまでウェリントンの軍隊は信頼されていたのである。

ところが同じ時期に、ウェリントンは本国政府へこんな手紙を書き送っている。

「われわれは借金で首が回りません。私などは、おめおめ外出もできないくらいです。なにしろ、債権者が負債の支払いを求めて手ぐすね引いて待っているのですから」

ジュール・モレルはウェリントンの人となりを評する際に、この手紙を引き合いに出して次のように語った。

「かくまで堂々として、しかも人柄の高潔さをうかがわせる告白があるだろうか。30年の軍歴を持つ老兵、鋼鉄の男、常勝の将軍が、大軍を率いて敵地に陣を構えながら、なおかつ債権者たちの前で縮こまっているというのだから……! 古今の征服者や侵略者の中で、このような不安に心を悩ませた者は皆無に等しいだろう。戦いの歴史をひもといてみても、彼ほど崇高で純粋な心の持ち主はいないはずだ」

もっとも、当のウェリントンは、こんなほめ言葉を聞いたら即座に首を振るだろう。

「別に、堂々とふるまおうとか高潔な態度を見せようとか考えたわけではない。ただ、借金は期限どおりに返すのが実務上、最善のやり方だと思ったまでだ」

彼はそう答えたにちがいない。
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