何日か続けてカウンセリングについて書いてきましたが、たまたま先日、車を運転しているときにラジオをつけていたら、「人生相談」が始まりました。
そのまま聞いていたら、中1だか中2だかの息子が家に帰ってきて突然、「疲れた・・ このままだともう自分はダメになってしまうかもしれない。」ということを母親にもらした、と言うのです。
母親はそういう話の流れになっていたときならともかく、全く唐突だったから、この発言の重みをどのように捉えたらいいかと思って、と番組に電話をしてきたのでした。
その家庭の人物構成、普段の息子の生活態度や性格、父親は何をしているのか、などひととおりの質問をした後、カウンセラーはこう言いました。
「これを言うとあなたは怒るかもしれないけれど、今までの話を聞いていて私が思うのは、あなたと息子さんが擬似恋愛の関係に陥っている、ってことね。」
しばしの沈黙のあと、その母親は「・・・そうでしょうか。」と腑に落ちない様子で声を絞り出しました。
私もこの推理は唐突な気がして、えっと思いました。
しかし、カウンセラーはへいちゃらで続けます。
「あなたとご主人の関係、そして息子さんが部活を一生懸命やっているしっかりしたお子さんだということなどから推察して、これはあなたと息子さんが本当に恋愛に陥っているっていうことを言っているわけではないんですよ。ただお互いそういう立場からものを言っている、と考えるとすべて辻褄が合うんですよ。」
「だいたい、普通、中学生の男のお子さんがお母さんにいきなり、人生に疲れたとかそんな泣き言言いませんよ。でも、これが恋人だと考えたら納得がいくんです。恋人にはちょっと自分のことを慰めてもらいたい、同情してもらいたいと思ってこういう泣き言、言いますよね。」
「あなたもこれが息子さんじゃなくて、ご主人が言うことだったら、と考えたら納得がいくんじゃありません?」
カウンセラーはその母親が納得していない様子なのにも全くお構いなしに、どんどん自分の推理を名探偵ポアロよろしく展開していきます。
私は先日、表現アートセラピー講座で、カール・ロジャースのパーソンセンタードについて学んだばかりです。
そして、昔は医者とクライアントの関係と言えば、医者が一方的な指示を出す、という関係だったが、ロジャースが、医者にできることはクライアントの中にすでにあるものを引き出すことだけだ、と提唱した、と書きました。
そしてそれがまた、オーラソーマの理念とも通じるものだ、ということも。
私はそれが現代のカウンセリングにおいては普通だ、と思っていました。
一方的な指示カウンセリングとロジャースカウンセリングが両立しているものだ、とは思っていませんでした。
しかし、このラジオの人生相談を聞いている限り、このカウンセラーは一方的な自分の推理を相手に押し付けています。
これはこれでいいのだろうか・・・?
指示カウンセリングという形態はそれはそれで必要性が説かれており、一方で脈々と生き続けているのだろうか・・?
そもそもこの推理は、いくつかの断片的な事実をつなぎ合わせるとこういうことが推察される、という探偵的な推理ゲームとして言っているのか、散らばっている断片的な事実にこそ典型的な親子擬似恋愛と断定せざるを得ない事実があるから専門家としてそういう病名を告げているのだ、ということなのかどっちなのでしょう?
私には前者に思えて仕方がありませんでしたが。
カウンセラーは、誰もが気付いていないこの推理の結論に自分で酔っているだけではないのか?
肉体的な病気と違って、精神的な病は複合的な要因が微妙にからみあっていますからなかなかたった1つの病名にたどりつくことがそもそも難しいはずだ、と思います。
それを言い当てるのは、専門家としての長年の勘なのか、それとも臨床的なデータに基づいたものなのか?
前者だとしたら、「これは推測の域を出ないんですけれどもね・・」とか「こういう可能性もあるのではないか、ということで自分の胸に手を当てて考えてみてほしいんですが・・」とか断らなくていいんだろうか。
相談者の母親はその推理に納得したわけではなさそうでしたが、その視点から自分の家庭を見つめなおしてみる価値はある、と思ったのか、最後には、「なるほど。わかりました。」と素直に言ったので、その相談はそこで無事終了となりました。
そこで私はまたわからなくなりました。
クライアントに対して、「こういう観点から考えてみたらどうか? 新たな気付きが得られるかもしれないですよ。」ということであれば、言い方は無礼ですが、どんなことを言ってもいい、ということになります。
クライアントはただただいっぱいわが身を振り返って考える材料をいっぱいもらったほうがいいでしょうから。
そもそもこのラジオの相談は、「息子の発言をどのように母親として受け止めればいいのだろうか?」ということでした。
そして、カウンセラーは「あなたと息子さんの関係が擬似恋愛なんですよ。」という結論をいきなりポンと投げつけた。
しかし、今結論とは言いましたが、これはそもそも相談に直接答える結論ではありません。
あなたと息子さんが恋人同士のような関係になっている、と考えたら、おのずと息子の発言をどのように受け止めればいいのか、ということはそこから先はあなたがお考えなさい、と言っているに過ぎないわけです。
擬似恋愛があまりに衝撃的だったので、結論を先に言ってしまっているような気になってしまいましたが、これは決して質問に対する結論ではないのだ、と捉えれば、クライアントが自ら気付きを得る材料だけをちゃんと渡した、ということになる。
最初は、現代では古ぼけた遺物のようになってしまったと思っていた医者からの一方的指示カウンセリングが、実はそうではなく、ちゃんとクライアント自身が気付きを得るためのカウンセリングになっているのかもしれない、と思ったとたん、また私はわけがわからなくなってしまったのでした。
・・・でもやっぱり、私にはああいう推理カウンセリングみたいなことはできないなぁ。
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