団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

コロナ禍と我が家の訪問者

2020年08月17日 | Weblog

  先週東京に住み、私たちが住む町に別荘を持つ友人Nさんがメールをくれた。こちらに来るので、届け物を郵便受けに入れておくとの事だった。Nさんとは家族ぐるみのお付き合いである。Nさんの話を聞くのが楽しみで、こちらに来ると必ず招いて会っていた。それができなくなって既に半年。Nさんの優しさ気遣いが嬉しい。コロナ禍で家にこもる毎日が続く。誰にも会えない。いや会ってはいけないのだ。新型コロナウイルスを誰にもうつしてはならないし、うつされてもならない。買い物に出ても、ただ見るだけの人達である。話すこともなくお互いに空間を移動するだけ。何とも虚しい。

 そんな毎日であるが、我が家にも訪問者が来る。人ではない。昆虫、鳥類、爬虫類、人間以外の哺乳類である。妻が出勤した後、私は、この家にポツンと一人ぼっちになる。まず1羽の同じカケスがベランダの燦にやってくる。このカケスベランダの床にお土産を必ず置いてゆく。その1時間後くらいに今度はセキレイが1羽飛んでくる。せせこましく俊敏な動きでベランダの燦を行き交い、5分ほどで飛び去ってゆく。鳥が羨ましい。彼らは飛ぶことができる。凄いことだ。お昼近くになるとクロアゲハがやってくる。いつも1匹だけである。このクロアゲハが同じものなのかどうかは言えないが、きっと同じクロアゲハだと思う。なぜか必ずガラス戸のガラスにぶつかる。学習しないのかオツムが少し足りないのか。でも来てくれるだけで嬉しい。そして午後になると待望のオニヤンマがやってくる。このオニヤンマもクロアゲハ同様、ガラス戸に元気よくぶつかる。毎回ぶつかる。

  子供の頃、訳もなく昆虫採集をしていた。ただ捕獲するのが楽しみだった。近所の金持ちの子が、伸び縮みする金属製の柄に絹のように細かな目の網を持っていた。彼の家には昆虫学者が持っているような珍しい昆虫が針で刺されて保管された標本箱がたくさんあった。私の昆虫網は、柄は竹、網は固いナイロンでできていた。たとえ昆虫を捕えても金持ちの子のように防腐剤を注射して、三角紙に入れ、腰のベルトに付けた専用の三角ケースに入れることはなかった。私は捕ったキリギリスやカブトムシを安い金網でできた虫かごに無造作に入れていた。金持ちの子以外の他の子供は、みな私と同じ網と虫かごだった。

  そんな格差のあった子供の社会で、オニヤンマ、ギンヤンマ、クロアゲハは、それこそ最高の獲物だった。オニヤンマ、ギンヤンマ、クロアゲハを求めて、他の子が足を踏み入れない場所を駆け巡った。ついに私は秘密のオニヤンマが水を飲みに来る場所を見つけた。それは川の対岸の崖の下の砂地だった。周りは藪で蚊やブヨがいた。私は藪の中に野生動物を撮影するか写真家のように身を潜めた。持っていたのは、カメラでなく安物の昆虫網だった。脚は半分水の中。じっと待った。10分20分30分、時計は持っていなかったがそんな時間経過を感じていた。体中、蚊とブヨにやられていた。我慢した。その瞬間が訪れた。まるでアメリカ軍の爆撃機B-22のようなオニヤンマが飛来した。カッコイイ。水の中の足が固まった。網を持つ手が震えた。オニヤンマが砂地に降りた。水辺に近づいた。私の網が空を切って、降ろされた。入った。夢中で網の中のオニヤンマをつかんだ。右手の人差し指と中指にオニヤンマの大きな羽を2枚重ねて挟んだ。そして網と虫かごの存在を忘れて家に走り帰った。

 そのオニヤンマが我が家を定期的に訪れる。コキゾウは、この歳になってもまだオニヤンマを見ると興奮する。でもこのオニヤンマを獲ろうなんて思わない。私は東京青山の『青山昆虫』で購入した柄がアルミニウム製の伸び縮みする絹のように目が細かい最高級の網を持っている。これは昆虫採集のためのものではない。ネパールやセネガルでマラリアを媒介する蚊を捕えるために買ったものだ。日本の今住む家では、時々妻が恐がる虫を見つけた時、それを捕えるために私が使うのみ。

 新型コロナウイルスがこの捕虫網で一網打尽に捕まえることができたら、どんなに楽になれるだろう。まだまだ感染は拡がるばかり。こんなコロナ禍にも、我が家を訪れてくれる生き物を歓迎しよう。そんな矢先、今朝は窓の外に猿がやって来た。30分くらい留まった。私は猿に語りかけた。「お前さんたちにもコロナは危害を加えているかい。お互い気をつけて暮らそう」 猿がじっと私の目を見つめた。まるで「お大事に」と言っているように。

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